8 玩具会社「Magical Children」
契約書にサインをさせられ、母が前金も受け取ってしまった今、私は逃げ出すことができなくなってしまった。これで少なくとも魔法少女としてアニメに出られる限り続けなければならない。なんつー契約だ。本当に嫌すぎる。なんの羞恥プレイよ。いくらお金のためとはいえ、大勢に対してそんな恥ずかしいことはしたくない。
しかし、今更どうしようもないので私は諦めて変態の会社にやってきた。まずは他の魔法少女たちと顔合わせをしようという訳らしい。電車を乗り継いでやってきたビルは想像していたよりもずっと大きかった。
(あの変態の会社、もしかして儲かってるの)
変態は変態の求めるもの分かる、ということなのだろうか。
簡単にだが事前に調べたところ、変態の会社「Magical Children」は、子供向けアニメの『ハリホと魔法少女』シリーズをメインにおもちゃなどを作っているらしい。小さい子から大人まで違う意味で人気らしく、子供向けには衣装やら魔法少女の小道具、大人向けにはフィギュアやらが人気らしい。変態どもめ。魔法少女の女の子は皆美少女の上、会社独自の編集技術によって朝の実写アニメにしては高いクオリティーを誇るそうだ。
「彩たん!! よく来てくれたね」
「こんにちは社長。死ね」
「ごぶっ」
受付に案内されてドアを開けた瞬間私に抱き付こうとした変態をドアを閉めることで撃退する。まったく油断も隙もあったものではない。顔を抑えてもだえる変態を避けて部屋に入る。変態に構っていたら日が暮れてしまう。床を転がり奇声をあげる変態に気をとられていると、部屋の奥から声が聞こえた。
「おじ様、どうかされたんですか?」
声の方に目を向けると、部屋のソファに座る和服姿の少女が心配そうな顔でこちらに顔を向けていた。長い黒髪に赤を基調とした鮮やかな着物が彼女によく似合っている。誰かと思ったが、見覚えのある顔だった。
「なんでもないよ、りおんたん。ちょぉっとあやたんの愛情表現がバイオレンスでね」
「以前伺った新しい方ですか?」
「うん。彩たんって言って、りおんたんと同い年だよ」
復活した変態はすごい勢いで彼女に抱き付いた。嫌な顔をした私だが、彼女は嫌がることなく受け入れている。変態は拒否されないのをいいことに彼女の頭をデレデレした顔で撫でまわす。きもい。
「あやたん、紹介が遅くなったね。この子はりおんたん。レディーの先輩だお」
「初めまして、渡貫りおんと言います。よろしくお願いします。えっと彩さん」
彼女は今期の『ハリホと魔法少女』シリーズの主人公、魔法少女りおん。歴代の魔法少女の中でも一番の人気を誇る、盲目の美少女。彼女は見えないはずの目を私に向けて、綺麗に微笑んだ。
Magical Children
足長おじさん(本名芦田)が経営する玩具会社。子供向けアニメである『ハリホと魔法少女』シリーズをメインにした様々なグッズを販売している。会社独自の編集技術は容易に真似できないらしく、朝の実写アニメにしてはクオリティーが高いと有名である。