3 変態足長おじさんの登場
へんてこが見えるようになって2週間がたった。人の適応能力というものは高いもので、へんてこのいる生活にもだいぶ慣れてきた。確かにうっとおしい存在でありめちゃくちゃ邪魔だが、ほかに誰も見えないのだから無理やりでも慣れるしかない。こんなことで私の未来設計を破綻させるわけにはいかないのだ。
そんな日々が日常となりかけたころ、今日も勉強をするため図書館へと向かっていた。図書室の本は全て読みつくしたし、あまり文学には興味がない。よく使う図書館には学生向けの参考書なども豊富に在り、勉強にはもってこいなのだ。
ちょっと近道をしようと裏道にはいったときだった。
(へんてこが道をふさいでる)
無数に集まったへんてこが大きな壁を作り上げていた。こんなにくっついているのを見るのは初めてだ。驚きよりも先にどうするかという思いがわく。私はへんてこに触れるのだ。多分力いっぱいタックルでもかませば崩せると思うが、何もないところに突っ込んでく小学生、なんて、
(そんなのはイヤ。あんな何も考えてないようなガキの同類に見られるなんて絶対にイヤ)
誰が見てるかわからないのにそんなバカっぽいことはしたくない。別に近道をしなければ良いだけの話だ。そう思って引き返そうときびすを返したとき、変質者が現れた。
「待ちたまえレディー! そう、黒髪の綺麗なそこのレディーだよ」
後ろから無駄に男臭い美声が聞こえた。もしかしなくても、レディーとは私のことだろうか。嫌だ振り向きたくない。しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に変質者は言葉を重ねる。
「レディー、我輩は足長おじさん。レディーを迎えに来たのだよ。どうか我輩の話を聴いてくれ」
「近寄らないでください。変態」
足長おじさんなる人物に振り向き冷めた目で見返すと、ぐふっと気持ち悪い声を上げて顔を手で覆う。うん。これは変態で十分だわ。さすが変態なもので変態は真っ赤な執事服に夏なのに青いマフラーというはちゃめちゃな格好をしていた。見てるこっちが暑いわ。しかし、驚くべき点はそこではない。
(へんてこの上に立ってる)
壁のように連なるへんてこの天辺に変な格好でポーズをとって右手をこちらに差し出している。やっぱり気持ち悪い。何故バラを口にくわえる必要があったのだろうか。そしてその意味不明なポーズにいったい何の効果があるというのか。あれか。こちらを不快な気持ちにさせたいのか。それだったら効果抜群だわ。不快な気持ちでいっぱいだわ。めちゃくちゃ殴りたいわ。殴らせてくれないかな。
(違う違う。問題はそこじゃなくて、変態がへんてこの上に立ってることよ)
変態の変態性にうっかり気を取られてスルーしてしまったが、そう、問題は今私を悩ませているへんてこをどうにかする可能性があるということだ。変態恐るべし。
「それで、私に何の用なの。変態的な申し出なら先にお断りを入れておくわ」
「おぅふ。いいねえ、その冷たい瞳に言葉、なによりそれとは裏腹に幼さを隠せない声! 我輩の心をぎゅんぎゅん言わせるよ!」
「警察呼びますね」
「あああ、待ってくれレディー! 今日はレディーに頼みがあってやってきたんだよ」
「頼み? さっきも言ったけど変態的なものはお断りよ」
睨み付ける私にさらに変態が喜ぶ。間違えた。そしてぐへへと気持ち悪い顔で笑う変態は何故かくるっと一回転してから飛び降り、私の前でひざまずいた。そしてごくごく自然な動作で私の手をとり、忠誠を請うように囁いた。
「レディー、君に魔法少女になってもらいたいのだよ」
足長おじさん
突然目の前に現れた変質者。一人称は我輩。へんてこが見える彩には魔法少女になることができるといって彩に魔法少女にならないかと誘う。彩からはショタコンと呼ばれているが本人は「子供はジャスティス!」なただの子供好きだと言い張っている。