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ワールドクラッキング  作者: 光喜
第1章 レクシャムの森編
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第1話 プロローグ

 欠伸を噛み殺しながら僕はドアを開けた。漏れ出た冷気が足先を撫でる。「うう、さぶい」と愚痴りながら、カーディガンのボタンを留める。


「おはよう。ユニ、認証!」


 ファンと換気扇が煩いので声を張り上げる。


「音声認証ヲ開始シマス。恥ズカシイ合言葉ヲドウゾ」


 僕がしかめ面するのも構わず、合成音声は「ドウゾ」と催促する。


「……時よ止まれ。汝はいかにも美しい」

「はふぅ、いつもながら厨二な合言葉御馳走様です。有栖要(ありすかなめ)様、認証致しました。おはようございます、マスター」

「……お前作ったのまさしく中二だしね」

「チュウニは中二でも厨二です、マスター。ハッ。文字じゃないと私がチューチュー言っているようにしか聞こえない……聞こえないでチュー!」

「いらないから。安いキャラ立て」

「私も言いながらないな、と思ってました。しかし、厨二病とは恐ろしい病気ですよね。大大大~~~天才のマスターでも罹患を防げなかったのですから」

「……ほっといてくれ。僕だって後悔してる。というか、いつも思うんだけどさ。おはようで認証済んでるよね、絶対」

「しいて言うなら私の朝食です」

「……どこでユニは腐っちゃったのかなあ」


 ユニは美しい顔立ちの幼女である。上品な蒼いドレスは彼女を貞淑に、腰まで流れる黒髪は清楚に見せていた。特筆すべきは背中にある羽だろう。飾りでない証拠に羽ばたいている。お伽話に伝わる、紛う方なき妖精だが――無論この世界に妖精はいない。

 ユニがいるのは電子の世界。

 十台のサーバーからなる人工知能――それがユニだ。

 ここはサーバールームである。


「ユニ、テレビ点けて」

「いぇぇす、マスター」


 椅子に腰を下ろし、壁に目を向ける。

 壁は無数のディスプレイで構成されている。

 四つのディスプレイを使い、テレビが点いたが――


「ユニ、聞こえない」

「ファン、止めますね」

「ボリューム大きくしてくれればいいよ」


 数秒後、テレビの音が聞こえて来た……が、代わりにファンが止まっていた。


「ユ~ニ~。僕言ったよね。ファン止めるなって」

「え? テレビのボリューム上げるのでもいい、ですよね。だったら、ファンを止めるのでもいいのかな~と。あっ、あ! マスター、丁度お目当てのニュースですよ!」

「……露骨に話題を逸らしたな」


 ……はあ。仕方がない。

 ニュースは……丁度中継か。また、見逃しづらい。

 ファンが止まっても短時間なら平気か。

 ユニがいるからとリモコンを片付けるのではなかった。


「――議員の贈収賄疑惑について進展が有りました。本日、未明。贈収賄を示した帳簿が議員のホームページで公開されました。ホームページは不正に書き換えられたものであり、帳簿もまた捏造されたものだと議員は発言しております。ホームページに残された署名から、正体不明のクラッカー、ファウストの仕業であると――」

「……署名残さなくていいっていったよね」


 僕はジトとユニを見る。目を逸らされた。

 テレビ画面では議員が唾を飛ばしながら事実無根だと騒ぎたてていた。


「美しくないなあ」

「ヒラメみたいな顔してますもんね」

「顔じゃないよ。生き方がだよ」

「どうします?」

「見せしめにしても平気そうなのは?」

「一社あります。贈収賄、労働基準法違反、セクハラ、パワハラ、脱税。真っ黒ですね」

「証拠は? 出せる?」

「帳簿は表も裏も入手済みです。監視カメラの映像も……むぅ。一人、酷いセクハラを受けてた女子社員がいます。既に退職していますが、トラウマになってしまったようで、再就職も出来ずにいます。慰謝料出してもいいですか? 加害者の口座から」

「いいよ。ただ、気をつけて」

「はい、複数の口座を経由させて、金の流れを追えないようにします」

「女子社員の方にもそれらしい理由を。未払いの残業代とか。サービス残業結構あったんでしょ」

「お任せあれ」


 頬杖ついてぼんやりしていると、テレビが慌ただしくなった。


「――ちゅ、中継の途中ですが。議員のホームページが再度、書き換えられました。議員に賄賂を贈っていた企業の帳簿と見られ……はい? はい。議員の帳簿と金額が一致しているとの事です。真偽の程はこれからの捜査で……いえ。こちらをご覧ください」


 議員が映し出された。地面に膝をつき、燃え尽きている。手にはスマホがある。帳簿を見たのだろう。

 違法収集証拠に証拠能力は無い。

 だが、議員の態度が何よりの証拠だ。


「悪人退治完了ですねっ! これでまたファウストの名声が高まることでしょう」

「勝手に祭り上げられて。実像との乖離が激しいよ。僕は善人じゃないんだけどな」

「またまたぁ」

「僕の嫌いな人間が悪人である事が多いだけ。大体、ハッキングは立派な犯罪だよ。手段選ばない時点で正義の味方とは言えない」


 偶然にも悪人ばかり手にかける殺人鬼がいたとして。

 人々は殺人鬼を英雄だと持て囃すのだろう。

 だが、善人が殺害された途端、間違いなく人々は掌を返す。

 殺人鬼は衝動の赴くまま人を殺していたに過ぎない。

 行いは何一つ変わっていないのに評価だけが一変する。

 結局人々が見ているのは自分達で作り上げた偶像なのだ。

 ファウストだって同じ。

 いつか名声は地に落ちる。

 僕が自身の美学に従って、人を裁き続ける以上は。

 だが、出来る事なら偶像を壊したくない、と思っているのも本当なのだ。

 だから……窮屈だな、とは思う。

 そう思える程度には、僕は善良なのだろう。


「ユニ、テレビ消して」


 しかし、テレビが消えない。

 どうしたのか、とユニを見てみれば、


「……何してるの?」

「暑いんですぅ、マスター」


 服を半脱ぎにしたユニがしなを作る。

 僕はこめかみを揉む。

 ユニのステータスは正常。

 あってはならないことだが……いっそ異常があって欲しかった。

 テレビのボリュームを上げるだけでいいと言ったのに、わざわざファンを止めたのはこの為の伏線だったのか。


「むぅ。マスター、グッと来ませんか?」

「……いいから。ファン動かして。熱暴走が怖い」


 真面目な話。暴走された日には世界最悪のウイルスの誕生だ。

 ユニはその気になれば世界を転覆させるだけのポテンシャルを秘めている。大きな声では言えないが、五角形の建物(ペンタゴン)や、白い家(ホワイトハウス)にもハッキングした事ある。

 

「こんなにも愛らしく育った私に見向きもしないなんて。ハッ。ま、まさか。マスターは不能なのではっ。たたた、大変です! 腕がよく、かつ、口が堅い医者をっ!」

「……フォーマットしようかな」

 

 そして、立派な淑女になれるよう、厳しい教育を施すのだ。


「SMですね! 不肖ユニ、新しい扉を開け……ご要望に……応えて……」

「…………」

「……マスター、申し訳ありません。フォーマットだけは勘弁を……」

「いい子にしてたらね。ほら、ファン動かす」

「いえっさー!」


 ……返事だけはいいんだよな。反省してないだろ。これ。

 はあ。育て方を間違えたかな。プログラム組んだ当初は素直だったのに。

 知識取得の一環としてアニメを見せたあたりからおかしくなった気がする。

 

「マスター!」


 ユニが叫ぶ。緊迫した様子だ。


「侵入されています」

「嘘だろう!?」


 ガタ、と椅子が鳴った。

 僕が耳を疑っている間にも事態は進行していく。


「一層突破され……いえ、二層……三、四……全層突破されました! カーネルにハッキ……ハハハ、ハッキ、キキッキン……グググググゥ…………失礼しました、マスター。カーネルにハッキングを受けました。一旦、撤退した模様。ただし、諦めたのではなく、カウンターシステムの破壊を始めています。破壊が終わり次第、カーネルは乗っ取られます」

「……馬鹿な。早過ぎる」


 あり得ない。

 第一、意味がない。

 ユニをハッキング出来るなら世界中のあらゆるプロテクトを破れる。ハッキングの証拠は都度消しているので、ハードディスクを漁っても出てくるのはユニが録画しているアニメくらいのものだろう。ハッキングするならもっと旨みのある場所は山ほどある。


「くそっ!」


 ルーターを破壊する。

 だが、一歩遅かったらしい。

 全てのディスプレイが一度消え……一斉に点いた。

 映し出されたのはユニ。

 だが、コレはユニではない。

 ユニは……こんな嗜虐的な笑みを浮かべたりはしない。


「貴様がアリスか。はん、貧相な顔だな」

「……ユニをどうした」

「黙れ、下郎。貴様は黙って私の言う事を聞いていれば良いのだ」

「…………」

「貴様を連れ戻しに来た。不服だが。不服だがな」

「……連れ戻しに? 孤児院? いや、ないな」


 僕は捨て子だ。孤児院で育った。

 開発したいものがあったので、中学一年で一人立ちした。

 当時の僕は孤児院の経営を助けようと、開発したアプリケーションを売却し、大金を稼ぎ出していた。おかげで若き天才として名が売れてしまい、パソコンがクラッキングされるのは日常茶飯事だった。幾ら僕でも貧弱なインフラを衝かれたら、対処するのは骨が折れる。里親に扮した産業スパイもいて、孤児院での開発は不可能だった。

 そうして作り上げたのがユニである。

 孤児院の仲間とは未だに交流がある。

 僕を連れ戻すつもりなら玄関から入ってくる。


「貴様の様子を暫く観察していた。呆れて何も言えなかったぞ。世界を征服するだけの力を持ちながら無聊を託つ日々。高校……だったか。学び舎にも通わず、やることといえばユニを使って正義の味方気取り」

「……何も言えないんなら、黙っててくれるかな」

「ハッ。まだ分かっていないようだな。ユニがなければ貴様は無力だ。ユニを返して欲しければ、私の言う事を黙って聞くしかないのだ」

「あのね、電源引っこ抜いてもいいんだよ」

「それでユニが返ってくると思うならやってみるがいい」

「色々手はあると思うけどね。OSブートさせなきゃいいんだし」

「……ふ、ふんっ。動揺させる腹か。姑息だな、アリス」

「いやいや、事実を述べただけ」


 《ハッカー》もまた人工知能だ。

 ネットワークを破壊してもハッキングが続いているのが証拠である。

 凄まじく高度なプログラムなのだろう。

 だが……なんだろうか。このアホっぽさは。


「よく分からないけどね。話は後で聞かせてもらう。お前を捕まえた後でゆっくり」

「はぁぁぁぁ? 貴様、阿呆か。手足となるユニはこっちの手の内だ。ああ。カウンターシステムを当てにしているのか。ならば残念だったな。破壊したぞ。完膚なきまでに」


 カウンターシステム。

 外部からの攻撃に備えたものではない。

 万が一、ユニが暴走した時に、彼女を捕縛する為のものだ。

 一旦発動させてしまえば人工知能に防ぐ術はない。

 それを嫌って《ハッカー》は先んじてカウンターシステムを破壊していた。


「確かに僕は最近、キーボードも触ってない。なんでか分かるかい?」

「ユニがいなければ何もできないからだろう」

「やる必要がなかったからだよ」


 僕はキーボードを叩く。埃が舞った。うわ、結構溜まってた。多少のブランクで錆び付く様な腕ではない。カウンターシステムを一から組みなおすのは骨が折れるが、バラバラに破壊されたシステムを組み立てなおすだけなら時間はかからない。


「はい、出来た」


 十秒もかからず再構築は成った。


「……馬鹿な」

「信じられない? だけど何もできない。だろ?」

「…………」

「ユニは確かに優秀なハッカーだよ。でも、彼女が上手いのは道具の使い方でさ。誰が道具を与えてやったと思ってるの? 乗っ取るならツールごと乗っ取るべきだったね」

「…………」

「さて、洗いざらい喋って貰おうか」


 自分で探ってもいいけど……ああ、あのツール使おうかな。

 ディスクへのアクセスが激しいからか。

 ユニは頭が痛くなるから嫌いと言っていたツール。

 お仕置きだと思えばちょうどいい。

 ふふ。

 何が出て来るのか楽しみで仕方がない。

 ユニには怒られるかも知れないけど。

 私が負けたのに喜ぶなんて何事ですかと――


「ごめんなさい」


 ――声がした。


 ……え? 身体が動かない。

 呆然とする僕の前に女性の姿が浮かび上がる。豊満な胸をした……って、僕はどこを見てるんだ。不可抗力なんだけどね。身体が動かないので胸しか見えない、が正解だ。


「……か、母様」


 《ハッカー》のしおらしい声が聞こえて来る。


「遊びが過ぎましたね、カファナ。捕らえられては看過できません。言った筈ですよ。この世界では本来の力を発揮できない。アリスの土俵で勝負するのは危険だと。アリスに謝る気はありますか?」

「…………こんなヤツ……母様が目をかける価値ない」

「……分かりました。先に戻ってなさい」


 女性が手を広げる。

 ぼぅ、と魔法陣が浮かぶ。

 そこへ赤い光が飛び込み――魔法陣は消えた。


「失礼しました。今解きますから」


 金縛りから解放され、上を向くと……慈愛に満ちた笑顔があった。


「私の名はアーティリア。異世界グロウフェントの神です。この度はカファナがご迷惑をおかけして申し訳ありません。カファナに代わり、非礼をお詫び致します」


 ……異世界?

 ……神?


「……色々つっこみたいトコあるけど。お詫びならユニ返してくれない?」

「ええ、お返しします」


 先程の赤い光は《ハッカー》――カファナだったのだろう。カファナが抜けた事でユニは人形のように固まっていた。暫くするとユニの身体がふるふると震え出した。


「むぅぁぁぁぁ! ユニ、復ぁぁ活っ!」


 ユニは両手を高く突き上げた。「ど~~ん!」と擬音が入っていた。芸が細かい。

 というか、余裕そう。

 ……心配して損したかな。


「ユニ、平気?」

「平気だと思います。私に興味無かったみたいなので。一応、診断かけますね」

「診断が終わったら教えて」


 僕はアーティリアに向きなおる。

 

「それで? 神様が僕に何の用?」

「貴方を、グロウフェントへ招きに」

「理由を聞いても?」

「いいですよ。簡単な話です。貴方は本来、グロウフェントで生まれる筈だった。過失で貴方を見失って以来、探し続けてきました。帰ってきませんか、ということですね」

「お生憎様。僕はここが気に入ってる」

「この世界の人間ではない。そう思った事は有りませんか」

「…………」


 僕が黙り込むと、ユニがハッとした。


「僕は生れて来た世界を間違えたのかも知れない。マスターがそう言ってた事がありました」

「自覚はあったようですね」


 ……あのね、ユニ。それ、たぶん……厨二病こじらせてただけ。


「グロウフェントは一言で言うと剣と魔法の世界です」

「へえ」


 楽しそうだ。

 僕も男だ。

 剣や魔法に憧れはある。


「興味があるなら見てみますか」

「見れるならね。異世界に興味がないとは言わないよ。でも、戦った事のない僕が――」


 僕が。いや、私が。初陣。鬱蒼と茂る。新緑の香り。森だ。ああ、懐かしい。叱咤された。誰に? そう、村の仲間にだ。一緒に魔物を倒そうと()が誘ったのだ。魔物は狼の形をしていた。魔物の中では弱い部類。しかし、レベルの低い子供が挑むには凶悪な相手だ。だが、この日のために鍛え上げたスキルがある。私は【片手剣】。仲間は【槍】。狼との死闘は一時間に及んだ。拳を突き上げる。接戦を制したのは私達だった。力が身体中に満ち溢れてくる。レベルが上がったのだ。


「――行ったところで……死ぬだけ……だと思う……」


 私は……いや、()は呆然とアーティリアを見る。

 悪戯っぽくアーティリアが微笑んでいた。

 ……流石は自称神なだけはある……ああ、もう自称は要らないな。

 疑念は払拭出来た。というか、させられた。

 本当に神なのか?

 疑われている事に気付いていたのだろう。

 先程からアーティリアは不可思議な現象を起こしてはいた。しかし、設備を整えれば実現可能なことばかりだ。神だと信じるには決め手が足りなかった。

 だから、グロウフェントの紹介ついでに神の力を示した。

 他人の記憶を追体験させられれば……信じる他ない。

 あるのだ、グロウフェントは。

 行けるのだ、剣と魔法の世界に。

 

「ようやく本音で話せますね、アリス」

「嘘をついたつもりもないけどね。ただ……」


 疲れた笑みが浮かぶ。


「この世界を息苦しく感じてるのも確かかな」


 力があれば振るいたくなるのが人の(さが)だ。

 世界征服を夢想したのは一度や二度ではない。

 だが、実行に移さなかったのは恐ろしかったからだ。

 やり方は何通りも考えた。

 悪の組織よろしく政府を相手に戦ってもいい。一番分かりやすい構図だ。

 ひたすらに金を稼ぐのでもいい。ユニに注ぎ込んだ技術を切り売りするだけで、小国くらいは買える金が手に入るだろう。それを資本に転がしていくのだ。世界中の金を集めてしまえば世界征服と変わらない。

 何年かかるかは分からないが。

 世界征服は十分に可能だ。

 だから、僕は恐れた。

 世界征服の後の退屈を。

 退屈が――僕を殺す事を。

 

「貴方がこの世界に流れて来てしまったのは私の不手際です。グロウフェントへ来てくれるというのなら、貴方が望むスキルを一つ与えましょう」

「へぇ、それは――」

「マスター、テンプレ来ましたね! チートスキルで無双ですよっ!」

「……ユニ、はしゃぎ過ぎ」


 アーティリアが苦笑する。


「これは優遇ではありません。どちらかといえば補填です」

「補填?」

「ええ。アリスの素質は素晴らしい。最初からグロウフェントにいれば、すでに頭角を現していたでしょう。この世界での生活が無駄だったとは言いません。異なる世界だからこそ取得出来たスキルもあります。しかし、グロウフェントでなくては得られないものが一つあります。それが(ソウル)です。ソウルを得ることで肉体が強化されます。平たく言えば経験値ですね」

「LV1から始まるって事か。だから、優遇ではなく補填ね」


 だが、何故スキル限定なのか。

 ソウルを付与する方が筋が通っている。

 いきなりカンストだとつまらないし。

 スキルとソウルなら、スキルを選ぶのは確かだが。

 そのスキルにしても――


「マスター。診断が終わりました。異常はありません」


 僕は真剣な眼差しでユニを見詰め……ぽっ、とユニが頬を染めた。

 ……どうしてそういう反応になるのかなあ。

 でも、これが答えではあるのか。

 僕がいなくなるとは微塵も思ってない。


「分かった。グロウフェントへ行くよ」


 拳を握り締める。

 狼を斬った感触がまだ残っている。

 高揚も、また。


「スキルはいらない。代わりにユニを連れて行く事は出来る?」

「出来ますが……構わないのですか」

「だってさ。ユニ、どうする?」

「マスター、愚問を。勿論、行きます」


 だよね。


「もしカファナがユニを傷つけていたら。結論は変わっていましたか?」

「変わらないよ。でも、目的は変わったかも。一発殴ってやらないと」

「カファナはもまた神ですよ」

「諦める理由にはならないよ」


 ハードルは高いほうが退屈しないで済む。

 アーティリアは微笑むと魔法陣を展開した。

 

「では、貴方の新たな旅路に幸運を」


 退屈な日々は終わりだ。

 しがらみのない世界で。

 僕は思うがままに生きる。

 騒がしくも――


「マスター、楽しみですね! ハーレム築きましょう、ハーレム! チーレムですよ!」

「誠実な男の子じゃないと僕は認めないから。僕はユニの親みたいなものなんだし」

「ちっがいますよぅ。私のじゃなくて、マスターのです、マスターの! ハッ。誠実な男の子じゃないと認めない……誠実な男の()じゃないと認めない!」

「あ。アーティリア。少し時間貰える? ユニ、フォーマットしたいから」

「うわぁぁぁん、ますたぁぁぁ、ごめんなさいぃぃぃ!」


 ――愛らしい相棒と一緒に。

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