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半日常っ!!  作者: カオス
7/19

部活とツンデレな電波女(四人目)


 野坂と初めて喋ってから俺自身については別段特筆することもなく一週間が経過した。

 しかし、一方でクラス内の雰囲気はというと、もう今では大体のクラスメイトの友人関係が出来上がっていて、一週間前の静けさはどこへやら、賑やかなクラスへと化していた。

 まるで、あの有名な最弱の鯉が凶暴な生物に変わる位劇的な変貌っぷりだ。

 正直俺的には、あの時の静かだったクラスの方が落ち着けるから好きだったんだけどな。

 いや、まあとは言っても、別に今の賑やかなクラスが嫌いという訳でも無い。中学の時程はこういうのに抵抗感は無いし、静かな方が良かったというだけで、別に悪い気はしないからな。

 それに何より俺は騒がしいのは嫌いだが、別に賑やかなのは嫌いじゃない。


「で、ユッキー、例の件どうする?」


 この声の主の野坂とはあれ以降も話を何度かしていて、今もちょうどある話をしているところだった。

 ちなみにこいつはあれから一週間経った今でもユッキーなんて呼んできやがる。

 自分で呼んでくださいなんていった手前、やめろなんて言えないし、こいつも気に入ったようなので、今後もユッキーという正に書いて字の如き汚名で呼ばれ続けるだろう。


 とまあ、すっぽ抜けた投手の変化球ぐらい話の軌道がずれてしまったので一旦話を戻すが、野坂のいう例の件というのは、もし「青春時代の思い出は何ですか?」なんて街灯インタビューをやったとしたら、確実に上位に食い込むであろう、高校生活の定番、部活のことだ。

 俺と野坂はまだ部活動について決めかね、俺の席で話し合っていた。というのも一昨日熱いによって配布された部活動希望調査の提出期限が、今日の放課後までとなっていたからだ。

 俺は得意な運動というものがないため運動部に入る気は無いし、文化系の部活も特に惹かれるものは無く、どうするか悩んでいる。

 ちなみに、この学校には、生徒は必ず部活動に勤しまなくてはいけないという、他に類を見ない珍しい校則があるため、部活に入らないということは出来ないようになっている。

 中学時代は(友人間で)帰宅部のエースと呼ばれていた俺も遂にその座を降りなくてはいけないということだ。


「野坂の方は?」


「俺も、やっぱり運動部に入る気は無いし文化部もピンと来るの無いから、正直滅茶悩んでる……」


 ちなみに言っておくと、野坂は俺と違って運動が苦手という訳では無く、というより寧ろ得意なようで、中学校時代は野球部でエースだったということをここ一週間で五回程自慢された。

 しかし本人曰くその練習はトラウマになるほどきつかったらしく、もう部活では、野球はおろか練習のあるスポーツは金輪際やりたくないらしい。まあ、練習の無い運動部等あるわけないから、実質運動部には入らないということになる訳だが。


「こうなると、この学校の部活動に絶対入るっていう校則はなかなか厄介だよな」


「確かに……」


 全くの同意の為、首を縦に振りながら相槌をうつ。


「うーん……どうすっかな」


 野坂が額を抑えながら真面目に考えている。

 しかし何だろう……、野坂は結構真面目に考えているっぽいが、あまり期待は出来ない。


「あの、ユッキー……村君」


 そんなやり取りをしていた俺に突然誰かが声をかけてきた。

 その声のした方を見ると、そこには今の今まで友達と話していた俺の隣の席のキューティクルスマイルの達人、麦野さんがいた。

 彼女ともここ一週間で結構会話をして交流を深めていた。まあ、それでもまだタメ口はしっくり来ないため、敬語を使ってる訳だが……。

 それにしても麦野さん、今ユッキーって言いかけたのを無理矢理幸村に直そうとして、ユッキー村って呼んでた気がしたが気のせいだろうか? いや気のせいだと思いたい。

 麦野さんにまでユッキーなんて呼ばれたら、俺は多分泣いてしまう。

 いや、やっぱ確実に。


「どうかしましたか、麦野さん?」


「ちょっと幸村君と野坂君の会話が聞こえてきたので、私も入れて欲しいと思って……」


 おおっ、そうでしたか!

 是非、是非、麦野さんなら大歓迎ですとも。


「ああ、いいですよ。でも、俺達の会話に入りたいってことは、麦野さんもまだ部活を決めてないってことですよね?」


「ええ、そうなんです。私、運動が苦手だから運動系はあきらめてるんですけど、文化系もどれに入れば良いのか悩んでいて……」


 大体俺と同じ理由だ。


「そうなんですよね。特にこれってものが無いんですよね。はぁ……。こういう時小説とかなら自分達で部活を作っちゃったりするんですけどね……」


「それだっ!」


 俺の言葉に反応して、山中さんの席に座ってた野坂が椅子が倒れる程の勢いで、急に教室中に響く程の大声を出して立ち上がった。


「おい野坂、椅子倒れたぞ。あと、何が『それだ』なんだ? あと、何でお前はそんなに人目を気にしないことが出来るんだ?」


「そうだよ、ユッキー! それだよ、それ。ったく、何で俺はこんな簡単なことに気付かなかったんだ……。無いなら作れば良いんだよ!」


 俺のもう一つの質問は華麗にスルーか!

 それに作るって……、


「まさか……」


「そう。部活をだよ。よし、そうと決まれば早速実行だ」


 そういって、野坂はさっさと教室を出ていってしまった。

 実行とか言ってたけど、一体野坂はどこに向かったのだろうか? まさか、教師に直談判なんて無謀なことをする気じゃ……。


「へえー、自分達で作る部活なんて面白そう。許可降りると良いですね」


 明日死ぬとしてもこれを見たら一瞬で元気になるんじゃないか、という程の笑顔で麦野さんが言う。


 いやいや、それは流石に無いかと。

 いきなり部活作りたいです、なんて言われてあっさり認める教師がいるわけないし、いたら顔を見てみたいぐらいだ。


「いや、それは無いかと……」


「おいユッキー、許可降りたぞ」


 俺の声に被さるようにして聞こえたその声のした方を見ると、百二○パーセントの笑顔の野坂が教室の入り口に立っていた。


 てか、許可降りたのかよ!

 しかも戻ってくるの早いし、随分あっさりだったってことか。この学校の教師はかなり適当だな。

「ちなみに誰から許可もらった?」


「校長」


 よし、顔が見たいというのは前言撤回だ。顔は一度しか見てないのに未だにはっきり思い出せる程だからな。

 それにしてもあのハゲ校長、かなり適当だな。

 ていうか、「部活創るのってこんな簡単なもんなの!」


「正直言うと、俺もこんなあっさりとOK出るとは思ってなかったんだけどな。去年三年がいなくなって、それで部員がいなくなったから文化系の部が一つ無くなって、ちょうど部室が一つ空いていたらしいぜ。俺らは超絶運が良かったってことだ。って言っても勿論タダでという訳にはいかないらしいが」


 タダじゃないということは……


「条件付きか」


「ああ」


 やはり、そんな上手くはいかないか。

 一体、条件とは何だろうか?


「まずは、部員は最低五人必要らしい。ちなみに上限は無し。それからもう一つは、今日の放課後までに部長を決めて、その部長がこの部活創設希望用紙に必要事項を書いて校長に持ってこいということだ。その内容が生徒会に通れば完了だ」


 野坂が持っていたその用紙を開いて自分の前に出して俺に見せてくる。


「ちょっとその紙貸して」


 その紙を野坂から受け取り見てみると、部名、活動内容、部長を含めた部員全員の名前を書く欄と諸注意程度が書いてあった。


「大した条件じゃなくて良かったな」


「ああ、まあな。部費は自分達で払えとか言うかと思ったけど、それは無くて良かったぜ」


 確かにそれは嫌だ……。


「さて、じゃあまずは部員探しから始めますか。とりあえずもうすでに二人決まってるから、後三人な」


「えっ!二人って?」


「えっ、俺とお前」


「俺もう決定かよ!」


「えっ、だってお前も部活良いの無いって悩んでたじゃん?」


「いや、まあそうだけど、意思確認ぐらいしてくれよ」


「あっ、それは悪い。とにかくまあ、そういうことだからよろしく」


 どういうことだからよろしく?

 まあ、こっちにとってもありがたい話だから別に良いが。


「あの……、すいません」


 そう言ったのは、麦野さんだ。


「んっ、どうした麦野?」


「その、今の話聞いてて……その部活に私も入ってみたいんですけど良いですか?」


「おっ、入りたいのか! 良いぜ。てか、寧ろ来てください。男だらけのむさ苦しい部活なんかにはしたくなかったからな。なっ、ユッキー」


「勿論」


 当然だ。寧ろ麦野さんが言って来なかったらこっちから入ってくれるように頼もうと思っていたところだ。

 ちなみに野坂は、女子が入ったというのもそうだが、特にこのレベルの高いクラスで一・二を争う可愛さを持つ(俺の中では断然一位)麦野さんだからってのもあって、かなり嬉しそうだ。さっきより若干、いや、はっきりテンションが上がっている。

 いや~それにしても、これからは放課後も麦野さんに癒してもらえるかと思うと、なかなか嬉しいものだ。

 俺とて一般的な青春男がするような部活で麦野さんとあんなことやこんなことになってしまう妄想をしてしまう。

 ちなみに言っとくが、青春男といっても青春ポイントは全く関係ない。


「あっ、ありがとうございます」


 いえいえ、こちらこそ。


「ねぇ、何の話してるの?」


 ひょっ、とどこかから突然現れて話に入ってきたこの美少女もとい美女男子は、山中さんだ。

 さっきまでどこかに行っていて教室にはいなかったが、いつの間に戻ってきたのだろうか。

「んっ、何その紙?見せて」


「いいぜ。ほいっ。

あっ、席どけるか?」


「あっ、別に良いよ。こっちに座るから」


 野坂から紙を受け取った山中さんは、野坂が座っている自分の席の隣の席に座って、受け取った紙を見る。

 しばらく紙を見ていた山中さんは、急ににやりと何か面白いものを見つけた子供のような顔をしだした。


「なかなか面白そうだね、これ。本当はバドミントン部に入ろうと思ってたけど、自分達で作った部活をやるなんて方が断然面白そうだし、僕も入って良いかな?」


「山中も入ってくれるのか!それはこちらとしてもありがたいな。是非、頼む」


「ありがとう。よし、じゃあ決まりね」


 そういう山中さんの顔は笑顔度数百パーセントだ。この笑顔は、例え男だと分かっていても、ドキッとしてしまう程魅力的だ。

 本当にこの人はただ性別登録を間違えて男になってしまっただけではないだろうかと思ってしまう。

「飛鳥君も入るなら更に楽しくなりそう」


 麦野さんも、山中さんと同じ部活に入れるのは嬉しいようで、いつもより若干笑顔が輝いてるような気がする。

 そういう俺もここ一週間で麦野さんと三人で話している内に山中さんとも結構仲良くなっていたため、部活に入ってくれるのは嬉しいのだが。


「よし、これでクラスで一・二を争う美少女二人が部員になったな。結構華のある部活になってきたぜ」


「やったな、野坂」


 野坂が手を挙げて促すので、その手に俺の手をぶつけてハイタッチ。パチンと、とても良い音がなった。


「いや、いや、待ってよ。何で僕が美少女の一人に数えられてるの! ていうか、僕の性別の欄に女って書かないでくれないかな」


「ああ、悪い。間違えた。えーと、自称男と」


「いや、自称いらないから! それじゃ本当は女なのに男って言い張ってるやつみたいじゃん!」


「そんなことより野坂、これで四人揃った訳だが後一人誰にする?」


「学校側に出すような真面目な用紙に僕の性別が遠回しに女って書かれてるのが、そんなこと扱いでスルー!」


 まあ実際、全部事実なので。


「とりあえず、超美少女、男の娘、イケメンに天然という、良い感じのキャラを持ったやつがバランス良く集まったからな。こうなると、最後の一押しとして超イレギュラーキャラが欲しいってところか」


 最後の一押しに超イレギュラーキャラが欲しいという野坂のオリジナルセンスへのツッコミは置いといて、今野坂が言ったキャラで美少女は麦野さん、男の娘は山中さん、天然は勿論野坂とすると俺はイケメンってことか。

 あんまり自覚が無かったが、俺は端からは結構イケメンに見られてたんだな。


「あっ、一応言っとくが、さっき言ったイケメンキャラって俺のことな。ユッキー、お前は天然キャラだよ」

「なっ!」


 こいつ人の考えが読めるのか! 俺の考えていたことを的確に否定してきやがった。

 ……てか天然はどう考えてもお前だろ。

 それにお前がイケメンっていうのも確かに若干なら認めてやるが、俺もお前に比べて負けてない……と思いたい。


「それより野坂君、イレギュラーキャラってもっと具体的にどんな子が良いんでしょうか?」


 それは俺も気になるな。


「うーん、そうだな……。個人的に言えば女子が欲しいところかな。それからともかく普通すぎない、このキャラといえばこいつみたいなオンリーワンなキャラを持ってるやつが欲しいな」


 普通、そんな厳しい条件をクリアするような女子がいる訳無いのに、俺の頭にはある一人の女子の顔が聞いた瞬間に過ってしまった。


「それなら、あのアニオタの電波系女子は?」


 そう、自己紹介でかなりインパクトのある発言をした、あの自称アニオタで情報通の子だ。

 あの子なら野坂の言った条件は楽にクリアしてる。というかあんな条件に当てはまるのは、あの子ぐらいしかいないだろう。


「ああっ! 日向(ひなた)葵さんでしょ? 確かにあの子は誰にも負けないキャラ持ってるよね。あの自己紹介なんか面白かったし」


「確かに、あれには笑わされましたね」


 結局は渋々自分で性別を書いた山中さんと麦野さんが俺の意見に同意してくれた。

 ちなみに、俺はアニオタという言葉を聞いて惹かれたからあの子の紹介を聞き始めた訳で、最初の方で言った名前は聞いていなかったため分からないが、あんな紹介をしていた子は他にはいなかったし、その日向ってやつで間違いないだろう。

 それにしてもこの二人はあの紹介から日向のことを痛いやつでは無く、面白い子と捉えたのか。いや~、何て言うか、二人とも優しいというか、純粋というか。


「なるほど、日向か。確かにあいつのキャラは他にいないし良いんじゃないか。あの紹介はユッキーのより面白かったしな」


「俺の紹介と比べるなよっ!」


 あんなの失敗ものなうえに、日向の紹介と比べたら俺のじゃなくても見劣りするだろ。ていうか、あれは記憶から消せ。


「私は、幸村君のも結構良かったと思いますよ。面白かったです」


「あっ、どうもです……」


 麦野さん、フォローしてくれるのはありがたいんですが、出来ればあなたもそれはもう忘れてください。あれはもう黒歴史です。

 それに、女子に誉められた経験が少ないし照れて反応に困ってしまう。


「おっと、話は逸れたが日向は俺も少し注目してたし、賛成だ。ってことで、早速勧誘に行くぞ。ユッキー、着いて来い」


 相変わらず、行動が早いやつだ。思いたったが吉日っていうより、思いたったが吉秒だな。こいつの場合は。

 ていうか、俺が行ったとしても、相変わらず初めて話す相手だと緊張して特に話せないだろうから、行く意味無い気がするんだが……。

 それにどう考えても、勧誘だけなら野坂だけでも充分だろ。

 とは思いつつも、野坂はもう行ってしまったので、しょうがなく俺も着いて行く。


「日向、お前に話がある」


 自分の席に座ってケータイをいじってた日向に野坂が声をかける。俺は会話に参加出来る程度に少し後ろに立つ。


「何? 悪いけど今忙しいんだけど……あっ、もしかしてあんた達オタク? オタクなら大歓迎だけど」


 確かに自己紹介でオタクは来なさいみたいなことを言ってた気がするが、まさか話掛けて来た人全員にそれ言ってるんじゃないだろうな。

 いやー、体の起伏が少ない、というより全く無いのはともかくとして、きれいな髪が一つにまとめられたポニーテールに、細い目だが二重な瞼、鼻は小さくて良い形をしていて、レベルの高いこのクラスの女子の例に漏れず顔はなかなか良いのに……残念だ。喋らなければモテるだろうに。


「いや、俺は違うがこいつはそうだ」


「えっ、俺っ! 俺もオタクじゃな――」


 その時、振り替えって後ろにいる俺を見てた野坂は、口パクで何かを伝えようとしてきた。

 何々、「あ・わ・せ・ろ」……だと!

 何考えてるんだ、こいつ!

 しかしまあ意味不明だが、とりあえず何か理由があるのだろうし、しょうがないが合わせとくか。


「……実は、そう……なんです」


実際はアニメなんか、皆が知っているような有名なものしか見たこと無いし、オタクとは程遠い。マンガや小説なら友達に勧められたりもしたし、結構読んでないでも無い気がするが……。


「えっ、そうなの!」


 日向が、さっきまでの気だるそうな口調とは打って変わって明るい口調で嬉しそうに言う。

 ダメ元で言ってみたら本当だったから嬉しいってところだろうか。


「えっと……まあ、うん。あの日向……さんの自己紹介とか面白かったよ。あれ……某団長のパロディでしょ? 俺も……好きなんだ」


 まあ、嘘ではない。小説を読んだが、主人公のあの独特な言い回しなど面白いと思ったのは事実だ。


「えっ、あっ、ありがとう……。えっと、じゃあ――」


「おっと、悪いがそこまでだ、日向。俺らはアニメ談義をしに来た訳じゃ無いんだ。お前を部活に勧誘しに来ただけなんだよ」


野坂が話を中断して、遂に部活勧誘に動き出した。

 とりあえず、これ以上話してたら話に詰まってただろうから助けてもらったのはありがたい。

 って言っても、もとわといえばお前の所為だがな。


「勧誘って何の部活? てか、何で私なの?」


「その前に、まずお前、部活決めたか?」


「そんなのまだ決めてないわよ!」


 いきなりツンデレかよっ! いや、デレが無いから単なるキレキャラか。


「うおっ!いきなりツンデレかよっ!」


だからお前は被ってるつうの、ツッコミが!


「まあいいや。それなら、とりあえず俺の説明を聞いてくれ」


 そう言った野坂は俺にした説明を、部員が後一人で条件を満たすこと、オタク仲間が欲しい俺が日向を推薦したという一部が嘘のものを付け足して、日向にした。

 ……どうやらこいつには一回お灸を据えないといけないらしい。こいつなら多分神も許してくれるだろう。


「なるほどね~。それは面白そうだ」


 そう言った日向はアニメならキラーンという効果音が流れるような、何か思い付いたような顔をしている。

 その顔が何なのかは良く分からないが、どうやらとりあえずは好感触のようだ。


「でもまだどんな部にするかは決まって無いんだよね?」


あっ、そういえばそうだった。俺もまだ聞いていなかったな。


「いや、俺の中では少し考えてることがあるし、皆にとっても決して悪くは無いと思うぞ」


「まあ、じゃあ部活の内容次第だけど、今のところは入っても良いかな」


「本当かっ!」


 そう言う野坂の顔は嬉しそうだ。

 まあそりゃ、これでようやく五人揃って部活が創れる訳だから、当然か。勿論俺も嬉しい。


「ただし、条件があるぞい」


 にっと笑って日向が言う。

 そう来たか……これは想定の範囲外だ。一体条件とは何だろうか?


「条件か……何だ?」


 野坂が俺の疑問を代弁するかの如く質問する。


「条件は、部活中でのパソコンの使用をOKにするということ」


 人差し指を立てながら日向が言う。

 この学校の適当さ加減なら部活で使うから、なんて言えば簡単に通ると思うからその点は心配無いが、何故パソコンを使用出来るようにする必要があるのだろうか?


「パソコン……か? 何でその条件なんだ?」


野坂もよく真意が分かってないようだ。


「情報収集にパソコンは付き物だからねー。それにケータイ以外の授業に必要ないものを基本的に禁止してるこの学校でも部活なら使用は認めるだろうしね。で、パソコンを使っても良い部活を探してたら、あんた達に勧誘されたからこれは丁度良いやと思ったって訳。部活の決まってない今は、しょうがなく我慢してケータイで情報収集してたりするんですよ」


本当はコン部に入れればねとも続けた。


 コン部とはコンピューター部のことだろう。

 どうやら野坂が言っていた去年潰れた部っていうのは、コンピューター部のことらしい。


 なるほど、そういうことだったか。


 ちなみに、野坂がわざわざ学校でやらなくても家でやれば充分じゃないのか、という質問をしたところ、学校では学校でしか調べられないこともあるし、何より学校で、部活中にやるから良いという、おそらくこの学校で他に共感するものはいないであろうパソコン美学を語られた。勿論俺も全く理解出来ない。


「まあ、ともかく分かった。校長にはそのことも話そう。それで良いんだろ?」


「まあ、いいでしょう」


「よし。これでようやく決まったな。しかし何故だろう、一気に疲れた気がする」


 ふ~、と大きい息をしながら野坂が言う。

 実はこっちの席に来てから疲れたのはお前だけじゃ無いんだぜ、野坂。


 しかしまあ、日向は自己紹介では某団長キャラでやってたからいまいち本人の性格などが分からなかったが、実際に接してみると、素のあいつはオタクでちょっと……いや、かなり変わった普通に良い感じの女子高生だということがよく分かった。

 って自分で考えといてなんだが、変わってるのか普通なのかはっきりしろよって感じだな、俺。


「とりあえず、日向。他の部員の所に行って話し合いだ。行こうぜ」


「イエッサー」


 そう言って俺達は、さっきの席に戻る。

 そこでは、麦野さんと山中さんが話していたが、こっちに気付いた山中さんが俺達に声をかけてきた。


「お疲れさんっ。日向もこっちに来たところを見ると、勧誘成功したってことだね」


「ああっ」


「やったー」


「これで、部活が創れるんですね」


 二人は嬉しそうだ。


「他の部員とはあなた達でしたか。ふむふむ……メインヒロインを張れるような美少女キャラに男の娘とはなかなか良いキャラが集まりましたな、野坂さん。まあ、一人は私と被ってしまってるっぽいけど……。ああっ、それと野坂さん、あなたのイケメン部長キャラもなかなかですよ」


 グゥッと親指を立ててウインクしながら日向が言う。

 アニメの見すぎだろ……。

 てか、お前とキャラが被ったってもしかして俺のオタクキャラのことだろうか。あれは野坂に合わせただけで仕方無くだから、本当はオタクじゃないんだがな……。後で、訂正しとくか。

 てか、俺ってオタクって言われてもそんな違和感無い感じなのだろうか?


「んっ、ああ、あっ、ていうか俺は部長じゃないぞ。部長は今から決めるところだ」


 イケメンを否定はしないんだな。

 てか、そういえば野坂が仕切ってるのに違和感無かったから忘れてたけど、まだ部長は決めてなかったのか。


「あっ、そうだったの! 野坂さん仕切ってたから、完全に部長だと思ってたよ。じゃあここは、某団長の如く私がだんちょ……部長をやりたいところだけど、現実でやるとかなり面倒くさいしね~。私は副部長で収まって、部長は野坂さんにお譲りしますよ」


 なるほど。あの日向も、流石に二次元と三次元の違いぐらいは理解しているようだ。確かに、部長っていうのは、部長会議とかに参加しなくてはいけないし、大変ってイメージがあるからな。

 ていうかこいつちゃっかり、先に比較的楽な立場に落ち着いて、一番面倒くさい立場から逃げるなんていう狡い手を使ってきたな。


「俺がやっても良いのか? 皆賛成なら、面白そうだしやってみたいんだが」


 まあそうか。

 部長なんて色々面倒という考えもあれば、自分達で創った部活の部長なんだから部を好きなように出来る権限があると考えると面白いというのもあるんだな。


「良いんじゃない!」


「良いと思いますよ!」


「俺も良いと思うぞ。ていうか、元々部を創るっていうのは野坂が考え出したことだしな」


 俺も含めた全員が、異音同義で賛成だった。


「じゃあ、俺が部長ってことで。皆よろしく」


 自然と皆から拍手がわき起こる。

 まあ、一人はついでに「世界をおおいに盛り上げて行きましょう、部長。」なんていう豪華特典もつけているが。


「よし、それじゃあ改めて仕切らせてもらうが、最後に一つ決めなくては行けないことがある。それは部活の内容だ」


 あっ、そういえばそっちも残ってたか。

 しかし部活の内容って、自分達で創るとは言えゲーム研究部とか遊び目的の部ならいくら適当なこの学校でも流石に認められないだろうし、やはりまともな活動が考えられる部活じゃないとだめだよな。


「で、もう既に俺は少し考えてたんだが、『求人部』なんてどうだ、皆?」


 んっ、求人部? 名前から察するに、


「もしかして、人を助ける部活ってことか?」


 いや、我ながら安易すぎるか。


「そうだ」


 そうだった!


「まあ、要するに何か困ったことがある人や頼みがある人は頼ってくださいって部だ」


「ちょっと待ってください。人助けの部とはまた安易な発想ですなー。部活もので困ったらとりあえずこれにしとけって感じの部ですよね。それに、確かに二次元の世界ならそういう依頼も結構あるかもしれませんが、現実ではわざわざそんな部活に頼ってまで解決したいことがある人とかそうそういないと思いますけどねー」


 おっ! 余計な部分も多いが日向は批判してい……るんだよな、うん。

 日向もやはり自分達で部を作る以上、全く活動を行わないというのは嫌ということか。

 てか、中身はともかく部活のことを真面目に考えてるのは間違いないようだし、案外かなり乗り気だったりするのだろうか?


「そう。そんなに依頼が来る訳ないから良いんだよ。毎日部活漬けの毎日なんて俺はごめんだからな。 でもこの求人部なら依頼が無い時は休める。そこが良いじゃないか。それに日向、これならパソコンも結構使える時間もあるんじゃないか」


 それ最早、求人部とは、人助けはついでで休むのが主目的の部になってるぞ。


「たっ、確かに!」


 お前は、あっさり納得か! さっきの否定は何だったんだ。

 とはいえ、まあ確かに忙しすぎないというのは良いことだし、全く活動がないというのも無いだろうから多少でも人助けも出来たうえで結構休めるっていうのはやっぱり良いのか?

 まあそれに、人を助けていったらこの部は学校中で有名になって、部員である俺も結構注目されて有名になるかもしれないし、まあ良いか。


「俺はその案賛成だぜ」


「人助け出来る部活なんて最高だと思うし、私も賛成です」


「僕も面白そうだし賛成だね」


「それならしょうがないから私も入ってやるわよ。感謝しなさいよね」


 まさかのここでデレ来た~! はい、これで伏線回収。ツンデレキャラの完成です。

 つか、急にやるな! お前は顔は良いんだから、急にデレが来ると不覚にもドキッとしてしまうじゃねえか。


「よし、じゃあこれで決まりな。早速紙に書いて校長に持っていくわ」


 そう言って、野坂は出ていった。

 それと同時にチャイムが鳴り昼休み終了。皆それぞれ自分の席に戻っていく。

 その際に日向がボソッと、「オタク仲間が出来るって良いよね。……これからよろしくっ」


と言って戻っていった訳なんだが、その日向の太陽のようななんてありふれた表現がマジであてはまるような笑顔を見た今の俺の心は全く罪悪感百パーセントだぜ。なんか、もう本当はオタクじゃないなんて言いづらいじゃねえか。

 はあ……まあともかくやることはやったし、後は俺達の部活案が通るように祈るだけだが……。


 ――次の日


「無事、求人部の創立許可が降りたぞ」


これは、今日も相変わらず良い運動をしながら登校して席に着いた俺の元に満面の笑みで来た野坂の第一声だ。

 ちなみに生徒会で話し合われた結果五分で決まったことらしい。教師だけで無く、生徒代表も適当だな。この学校は。

 でもそんな学校に来てまだ約一週間だがなかなか個性的なやつらと過ごす毎日はなかなか楽しい。

 この学校に入学するのが決まった日からずっと、俺は本当に変われるのだろうかという不安はやはりあった。でも俺は少しずつでも確実に変わってる。それを毎日感じれている。今だって感じる。少なくとも中学よりは間違いなく楽しく過ごせている。

 そして部活が始まる今、俺は更にどんな風に変わっていくのだろうか?

 少し楽しみにしている自分がいる。



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