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半日常っ!!  作者: カオス
4/19

女の子?(二人目)


 昨日は入学式ということで集合時間は少し遅めの九時までだったが、この学校の本来の集合時間はそれより三十分早い八時半ということになっている。

 それでも昨日と同じ時間に出ても昨日の用に飛ばして行けば、間に合うだろうが、競輪選手を目指している訳ではない俺には、朝からあんな過激な運動をするわけにもいかない、というより続けてたら体が持ちそうに無いので、貴重な睡眠時間を削ってまで早く家を出て余裕を持って行くことにした。

 それで今、昨日より五分程早い八時十五分に教室に着いたわけだが、意外とまだ来てる人は少なく、教室は「シーン」という擬態語が聞こえるんじゃないかというぐらいの沈黙に包まれていた。

 その静寂の中では、昨日の誤りを反省してかなり気を使い静かに開けたつもりだったドアも、その音が教室中に聞こえてしまったくらいで、結局昨日と同じように注目されてしまったので、また急ぎ足で席に向かう。

 その際に俺の席の隣の麦野さんの席を一瞥する。

 椅子は机の下に収められていて、無人になっている。近くに鞄も置いてないし、まだ麦野さんは来ていないのだろう。

 そういえば昨日麦野さんとは、HRがこれからの一週間の予定説明など、必要事項程度だけで早く終わったのもあってなかなかタイミングが掴めず、入学式前に話して以降話せなかった……。

 あんな会話が成立した女子は久しぶりだったし、今日からは短縮授業とはいえ六時間授業になるから機会も結構あるだろうし、今日、というよりこれからは毎日話していきたいと思うんだが……。

 席に着いた俺は鞄から机の中に教科書を移し、話せる相手もいなくて暇だったので窓の外を見ながらぼーっとしていた。

 そのまま何分か過ごしていたら、俺が向いていた方向とは逆の方から、この静かな教室全体に響くようなガラッという音がしたので反射的にそっちを見てしまう。

 俺が目をやったその先には、教室の扉が空いていて、そこでハァハァと息を荒らしている麦野さんが立っていた。

 時計を見ると八時二十五分。

 なるほど……。麦野さんは約束の時間等に結構ギリギリで来るタイプの人なのか……。正直、もっとちゃんとしている人だと思っていたので意外だ。

 でもまあ、今日はたまたま何かあっただけかもしれないし、実は俺みたいに家がかなり遠くて行くのに一苦労で遅くなった、とかかもしれない。


 ――そういえば麦野さんの家ってどこにあるんだろうか?


 そんな疑問がふと俺の頭に浮かんだ。

 昨日の麦野さんとの会話は不覚にも、彼女の質問とそれに俺が答えるという、一方通行なQ&Aだけだったので、彼女については何も聞いてなく、当然彼女の家のことについても何も聞いていない。

 ……これは結構気になる。

 ひょっとしたら、俺の家の結構近くに住んでいましたなんてハピネス展開があるかもしれないし、彼女自身に反せず立派な家かもしれない。

 くっ、だめだ。考えれば考えるほど気になってくる。ともかく本人に聞いてみたいが……。


 とりあえず席に座って教科書を移動させている麦野さんの方を見てみると、いやー、相変わらず可愛い顔だ。朝から癒してくれる。

 って、そのことは今は良くて……そうだ、家のことを聞かなくては。

 しかし、女子に免疫の無い俺にはこれがまたかなり至難の技で、いざ話しかけようとすると、話かけるための言葉が見つからなくて躊躇ってしまう。

 そんな、俺が話しかけるのに苦労していたら、彼女の視線が急に俺に変わって、流石にボクサー張りの反射神経を持ってない俺は対応しきれずまた目があってしまった。


 くっ、……もう反らさんぞ。いくら麦野さんが優しいとはいえ、何回もやってしまったら流石に彼女を傷つけてしまう……って、やっちまった! やはり反射は抑えられなかった!


 すると彼女は、

「幸村君、おはようございます」と、今のことは全く気にしていないのかあの素晴らしい笑顔で挨拶をしてくれた。

 この人は本当に良い人だとつくづく思う。


「あっ、おハヨウ……ございます」


 若干声が裏返ったが、もう気にしない。まったく、麦野さんが何も言わずにただ笑ってくれるような、優しい娘で良かったぜ。

 ……って、待てよ……。

 麦野さんから話しかけてくれた今この状況は彼女に質問するビッグチャンスではないだろうか。どうせ自分から話かけるのは無理だし、こんなチャンスはもうあるか分からない。

 それに何よりこんなとこでリタイアなんかしていたら高校デビューなんてとてもじゃないが無理だろう。そんなことを考えて自分を追い込み、彼女がまだこっちを見てるのを確認して、勇気を振り絞って話しかける。


「そういえば、麦野って俺の家の近所に住んでるの?」


 ……しまったあぁぁ~! 緊張しすぎていきなり呼びすてにしてしまった! これはいきなり馴れ馴れしすぎだろ。しかも、いきなり「俺の近所に住んでますか?」って! 我ながら脈絡無さすぎなのに驚くわ! 小学生でもそんなぶっ飛んだ話はしないだろうに! ……いや、小学生ならあり得るか。ってあー、そんなことはどうでも良くて、もう穴があったら入りたいくらい恥ずかしいじゃなくて、最早穴を作って隠れたいくらい恥ずかしい。

 とはいえ、質問しといて彼女の方を見ないのは何なので、恐る恐る彼女の顔を見る。

 すると麦野さんは、普段の一万点の笑顔から更に徐々に顔が緩んでいき、小さいとはいえ、静寂フィールドが展開されてるこの教室では、半径三メートルは聞こえるくらいの音量で笑いだした。

 予想外の反応に少し戸惑ってしまう。


「あっ、すいません。でも本当に幸村君は面白いですね」


 そんな俺の戸惑いの表情に気付いたのか、必死に笑いを抑え込みながら彼女が言った。

 まあ、確かに意外な反応だったけど、良い意味での予想外だ。特に気にせず笑ってくれただけで良かった。引かれるという最悪のパターンは免れたようだし。

 それにしてもこんなときにあれかもしれないが、やべー、笑いを抑えてる麦野さん、マジ可愛い。それにまた面白いって……かなり嬉しい!


「急に……呼び捨てとか……すいません。人生最大のミスです……」


 とりあえず謝るならこのタイミングだと思ったので、言っておく。


 すると、また麦野さんはクスリと笑って、


「別に良いんですよ。気にせず、私のことを呼び捨てにしてください。あっ、それと敬語もいらないですよ」


とおっしゃってくださった。


 マジか! 敬語なしで良いのか! じゃあやっぱ、もっと親しくなる為にタメ口を使うか。……いや、しかしまだそんな知らないし、第一意識してやろうとしてもまだ多分無理か。


「いえ、さっきのは事故なんで、……敬語のままでいいです」


「ふふっ、事故ですか。でも、なんか幸村君とはもう少し近づきたかったので、少し残念です」


 少し悪い気がしたが、その反面彼女も近づきたいと思ってくれていたっていうのは、素直に嬉しかった。


「あっ、それと私の家ですが……」


 全くハピネス展開じゃ無かった。寧ろ俺の家からかなり離れたところだ。

 しかし、そこなら学校は遠いどころか結構近いはずなのに、何故こんな遅かったのだろうか?


「……結構家が近いのに、どうして今日は結構ギリギリなんですか?」


 ふぅ……なんとか勇気百パーセントで質問出来たぜ。

 しかし、一回質問するのに消費するエネルギーが半端ないな、全く。


「ええと、実は私、朝に弱くて今日は少し遅めに起きてしまったんですよ。まあ、家が近くて油断してたっていうのもあるんですが……」


 それは意外な一面だ。結構何でも完璧にやるような感じがあるけど、やはり麦野さんにも欠点というものがあるのか。そういえば、人間一つは欠点があった方が良いなんて昔から言うが確かにその通りで、彼女の場合は一つ欠点があるというのがなんだか可愛らしくて、何倍にも良く見せる気がする。


「……それに、ちょっとやらなくてはいけないことが――」


 麦野さんが何かを言い終わる前に朝のHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。

 そのチャイムが鳴り始めるのとほぼ同時に、熱井が教室にやって来やがったので、楽しかった麦野さんとの会話もここで一旦打ち切りになった。


   ☆★☆★☆★


 今日の授業日程は、一・二・三時間目がLHR、四時間目に数学をやって、五・六時間目に二・三年との対面式と学校紹介を一気に体育館でやることになっている。


 で、今は一時間目のLHRの時間。


 この時間は、熱井は他のことで忙しいのか、代わりにのほほんとした顔の優しそうな普段はあまり接しないであろう、事務の安倍という人が先導をし、学校中の授業に使う教室や知っとくべき場所などを一通り回って学校案内をしてもらうということをやるらしい。

 しかし多人数で一気に行くのは効率が悪いということで、回りやすいように出席番号順に三グループに分けて行くことになり、俺と麦野さんが属している後半グループと中間グループは教室で待機しているところだ。

 いやしかし、暇だ……。

 熱井のやつは、「教室で待機するものは、特にやることはないので、自分達の番になるまで自由に過ごしてていいぞ! この際にクラスメイトと話しでもして仲良くなるというのもいいが、他のクラスに迷惑がかからないようにうるさくし過ぎるなよ!」なんて言い残して出ていったが、辞書をひいたら「静か」という言葉と同義語になっているんじゃないかという程の今のこのクラスによくもまあ言えたものだ。

 まあだが、全く話声がしないのかというとそうでもなく、ひそひそ程度の話声がたまになら聞こえるぐらいにはなってきたが。

 それでもこの教室の空気が重いのは確かで、流石に俺もこの空気では誰かと喋る気にもなれず、というより誰にも、……このクラスで唯一話した麦野さんにさえ、まだ話しかける勇気は無かったので、何が面白いのか自分でも分からないが癖になってしまった「困った時は窓を見る」を実行しているところだった。

 しかし、よく考えてみると俺は麦野さんと話している時以外は窓ばかり見ている気がするな……。

 まあ、こっちはそれ以外に特にやることも思いつかないからしょうがなく見ている訳だが、端から見たら、「窓ばかり見ている窓フェチなクラスメイト」なんて思われてるのではないだろうか……?

 そんなことを考えていたら周りの目が気になってきた俺は窓から目を離し、今教室にいる者をざっと見回してみる。

 ……良かった。どうやら誰も見ていなかったよ……。俺の視線が真横の席にいる麦野さんに辿り着くと彼女は俺の方を見ていたようでまた目があってしまった!

 三回目ともなるともう慣れても良いはずなのに俺はまた目を反らしかけた。まあ、なんとか粘って寸前で止めれたが。


 しかし、よく目があうな。これで三回目か。ただの偶然か……?


「あっ、すいません。ちょっと暇だったので、幸村君はどうしてるのかなって思って見てみたんですけど……。幸村君ってば、急にこっち向くからまた目があっちゃいましたね」


 何度見ても飽きない笑顔で彼女が言った。

 なんだ、そういうことか。

 彼女がこっちを見てた時に、偶然俺も彼女の方を見たってだけか。正直俺のことをずっと見てたのかと期待したんだが……、別にそんなことはなかったようだ。

 まあそれでも俺のことを気にかけてくれたというだけで嬉しいのだが。

 ……しかしなら尚更偶然にしてはよく目が合うな。ひょっとして……いやいや、期待しすぎか。


「いやー仲が良いね、お二人さん!」


 そんな話を麦野さんとしていたら、俺の一つ前の席から突然声がした。


 一旦麦野さんとの話を中断して、声があった方に目をやると、そこには俺より少し身長が低いであろう女子が座っていて、小さい子供が悪戯をしたときに見せるような純粋な笑顔でこちらを見ていた。

 容姿は、肩程度までの短くてなめらかそうな茶髪に、きらきらと輝いているなんて表現が似合う少し大きくて綺麗な目、それぞれ長さを測って均等になるように配置したのではないかと思わせる程、ちょうど良い感じに置かれた鼻・口など、麦野さんと同じように全体的に整ったバランスの良い顔立ちをしている。これは男子からとてもモテるような顔だ。 ただ一つ残念なのは胸が全くないことだけ……って、んっ?

 彼女の服を見てみると、それは本来着ているべき女子用の制服ではなく、男子用の制服だった。俺のと一緒だし、スカートでは無くズボンを履いているので間違いない。

 ……もしかして、女子の制服と男子の制服を間違えて購入してしまったのだろうか?


「あっ、初めまして。えーと……」


 麦野さんが笑顔で挨拶を返す。

 俺も麦野さんに続くように、初めましてと挨拶をする。


「あっ、僕の名前は山中飛鳥っていうんだ。二人ともよろしくね。ちなみにこんな顔だからよく勘違いされるけど、性別はちゃんと男だから。ほらっ、制服もちゃんと男子のを着てるでしょう」



 この話を聞いた麦野さんの方を見てみると、さっきまでの笑顔から驚きが隠せないという感じの顔に変わっていた。

 誰でもそう思うだろうが、やっぱり麦野さんも山中さんのことは普通の女の子だと思ってたってことか。

 まあ俺ももちろん驚いたが、それと同時に疑問が解決されたスッキリ感もある。

 なるほど……つまり彼女は、


「体は女だけど心は男ってことか」


「いや、あらぬ方向に勘違いされたみたいだけど、僕はちゃんとした男だから!体も心も」


 山中さんが焦って、俺が言ったことを訂正しようとする。

 どうやらこの人はこんな可愛い顔をしながら、本当に男らしい。

 初めて見るが、これが俗にいう男の娘ってやつか。ライトノベルや漫画など二次元の世界だけだと思っていたが、まさか現実で拝むことが出来るとは。


「まあそんなことは置いといてさ、えーと……二人の名前なんだけど……君は幸村君で、君は麦野さんで良いんだよね?」


 その話題が嫌だったのか、山中さんは慌てて話題を変えてきた。

 やはり、男なのに女っぽい、というよりまんま女の顔というのは本人にとってはコンプレックスで、それについて話されるたりするのは嫌なのだろうか?


「あっ、はい。私は麦野です。麦野琴実っていいます」


「あっ、……うん。えっと……そう、……です。名前は……幸村照太です」



 麦野さんが答えたので、俺もそれに続いて答える。


「OK、麦野琴実さんに幸村照太君ね。で、ちょっと気になったんだけど、何で君達はこんな周りが坂に囲まれたような学校を選んだの?」


 山中さんが話題提供をしてくる。

 


「私は単純に家が近いので。親戚に勧められたんですよ」


 まあ、そういう理由が普通だよな。

 自分で言うのも何だが俺のはかなりイレギュラーだし。

 ……って、んっ?

 そこで俺は少し引っ掛かる。

 ――親戚? 普通は親じゃないのか?


「幸村君も同じ理由?」


 そんなことを考えていたら、山中さんが突如俺に振ってきた。


「いや、俺は家は遠いけど……」


「遠いけど?」


 うーん、何て答えるか……。

 正直に高校デビューの為なんていうのは恥ずかしいし、そんなの誰にも知らせたくない。このことは親にも話していない程だ。

 まあ、俺の親は結構適当だから、別に何故この学校にしたかは聞いてこなかったからってのもあるが。

 うーん、しょうがない。ここは……、


「まあ……、あの坂道を毎日登るのは良い運動になるからかな」


「「えっ!? 運動!」ですか!」


 山中さんと麦野さんが同時にキョトンとした顔で言う。


 しまった……。やっぱり、この答えは変だったか……。

 我ながら、登下校を良い運動になる等といって、それを理由に学校を決める奴がいるわけないだろとツッコミたくなるようなバカな発言をしてしまったと思う。

 正直変な奴だと思われるんじゃないかと思ったが、二人の反応は意外で、キョトンとした顔が急に緩やかになったかと思ったら、突然笑いだした。麦野さんはいつもの上品なくすくす笑いだが、山中さんは腹を抱えながらあははといった感じに結構笑ってくれた。山中さんも結構良い人で良かった……。


 その後、何秒か二人は笑い続けて、ようやく治まったところで麦野さんが質問してくる。


「運動って……ちょっと失礼かもしれませんが、それだけの理由でこの学校を選んだんですか?」 ぐっ、俺の答えを信じて質問してくる麦野さんとその真っ直ぐな目に心が痛む……。

 もうこうなったら、嘘を通しきるしかないか。


「まあ……、中学の時は全然体力無くて風邪ばっか引いてたから……」


 勿論嘘だ。

 あんまり良い思い出は無かったくせに、ちゃっかりと皆勤賞を頂いた記憶は鮮明にある。


「なるほど……」


 あっ、納得してくれるんだ!

 自分で言っといてなんだが、こんな理由で納得するなんて、意外と麦野さんって天然か?


「人それぞれ事情がありますからね。実は私も家が近いという理由だけじゃなくて、親が――」


「よし、次の班は準備しろ!」


 用事が終わったのか、熱井が麦野さんの話を遮るように教室に入ってきた。

 それにしてもこいつは毎回入って来るタイミングが悪いが狙っているのだろうか?

 とはいっても、これ以上話を続けてたら、俺も嘘を蓄積させて取り返しがつかなくなる可能性もあったから、今回は不本意ながら熱井に助けられたってことか。


「あっ、次は僕達の班か。それじゃあ二人とも、行こう!」


 俺と麦野さんは、山中さんに手を引っ張られて連れていかれる。


 ……そういえば、さっき麦野さんが言いかけてた他の事情って何だったのだろうか?

 親が何とかって言ってた気がするが……。


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