第八話
祭壇の間を後にしてから幾ばくもなく、ミノ・コアの最後の欠片が見えてきた。これまでと違ってさほど広い場所ではなかったが、一番心に安らぎを感じている。
ギルド総裁から預かった欠片と魔獣から取り返した欠片を持ち、私は深呼吸して最後の欠片に手を伸ばした。
そして結晶に触れた瞬間、周囲が真っ白な光に覆われる。
「……ここは?」
きょろきょろと辺りを見回すと、そこには『白』しかなかった。建物の中だったはずなのに、だだっ広い空間に変わっている。チタくんたちもおらず、どこまでも白だ。
そんな深い静寂の世界に、優しく心地よい声が響いてくる。
『色斗』
名を呼ばれて目をやれば、そこには温かな光が浮かんでいた。
「…貴方が、ミノ・コアですか?」
『そうだよ。来てくれてありがとう』
光はふわふわとゆったり揺れ動き、こんな時だというのに眠くなってくる。ミノ・コアの優しさが、その雰囲気に現れていた。
『僕は少し疲れてしまったんだ。だから暫く眠っていた。でも、そうしている内に世界に歪みができてしまった』
ミノ・コアの表情は分からないが、悲しそうに見える。
『だけど、自ら散らしたものを、また集める気にはなれなくてね』
確かにミノ・コアほどの力を有していれば、自力で復活することは可能だろう。それをしなかったのは、また同じことが繰り返されるのを危惧していたのではないか。
『自分は動けない。かといって、世界を放っては置けない。そんな時、貴方の愛情が流れ込んできて共鳴した。僕は、貴方に託すことに決めた』
「………」
何と言っていいか分からない。もう十二分に理解していたつもりだったけれど、改めて凄いことが起こったのだと思った。
『貴方のエネルギーはとても心地良い。この愛情に満ちたエネルギーを取り込んだ僕なら、もう元に戻っても大丈夫』
つまり、魔力の制御に不安がなくなったということか。エネルギーは純粋なほうが良いようなイメージがあるが、混ぜたほうが良い時もあるんだな。
『僕の欠片を集めてくれてありがとう』
そう言ってミノ・コアは七色の輝きを帯びたかと思えば、大きな虹色の宝石に姿を変える。
「わあ……綺麗……」
見たこともない美しい宝石を前に、私は思わずうっとりと呟いた。
『色斗。貴方のその心は、何ものにも代えがたい宝物だよ』
「えっ、いえ、そんな……。で、でも、お役に立てて良かったです」
ミノ・コアがふわりと笑ったように思えて、何だか気恥ずかしい。
『貴方の大事な三人も、元の姿に戻してあげるね』
「えっ! できるんですか!? まだ欠片が揃ってないんですが…」
『彼らは元々、僕の力から生まれた存在。僕が整えば彼らも整い、欠片を呼ぶこともできる』
「そうなんですね。よ、良かった……」
ホッとして大きく溜息を吐くと、ミノ・コアは一瞬だけ麗しい人の姿を見せた。息をのむほどの美しさに、私は思わず体を強張らせる。
『このレインボートラウトの全てと貴方が、幸福であるように』
最後にそう言って優しい笑みを浮かべ、ミノ・コアは眩い光に包まれた。




