第五話
虹色マスターに認定されてから早一週間。
私はギルドの依頼掲示板の前で、漸く多少は周囲の視線に慣れてきていた。周囲も周囲で私たちが居ることに対し、それなりに慣れてきたように感じられる。
「今日はどうしようかな…」
依頼の数々と睨めっこしていると、受付係のサーディンさんに声をかけられた。
「色斗様、お忙しいところ恐れ入ります。本日こちらに宝採ギルドの総裁がお見えになっており、色斗様と面会したいと仰っておられまして…。少しお時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」
「えっ……」
総裁って一番偉い人なのでは? 絶対に会いたくないんだが。
…などと言えたなら、私は晴れてコミュ障陰キャを脱却していたことだろう。
「あっ、ハイ」
実際には、数秒間の沈黙で拒否を示すのが精一杯。その後は二つ返事で承諾したのだった。
案内された部屋で待っていたのは、年齢不詳の美魔女のような人。大きなルビーがきらめく杖を持ち、よく当たる占い師のような雰囲気がある。
「色斗さん、よく来てくれました」
「ハイ」
余計なことは言うまいとイエスマンに徹する私に、ギルド総裁は言葉を続けた。
「単刀直入に言います。貴方に、重大なクエストを依頼したいのです」
「重大なクエスト」
嫌な予感しかしない。しかしきっとこれが、私がレインボートラウトに呼ばれた理由なのだろうと悟る。
私が凝視する前で、総裁は机の上に黒い布で包まれた箱を置いた。
「これは、『ミノ・コア』と呼ばれるものです」
「!」
総裁が布を取ると、中からは透明な結晶の欠片が現れる。その瞬間、結晶から何かがブワッと溢れ出たような感覚があった。多分、所謂オーラみたいなものなんじゃないかと察する。私でもそれが分かるほどの強さが、その欠片にはあった。
「…これはレインボートラウトを守護している、原初のリトスアームの破片だ」
チタくんが、少し緊張した様子で教えてくれる。その表情は余り見たことがないもので、私はつられるように体を強張らせた。ちらりと窺ったイオくんとロサくんも、複雑な面持ちを見せている。
「この破片はつい最近、東の遺跡で発見されました。しかし本来のミノ・コアは、もっと巨大なものです。これはその一欠片に過ぎません」
総裁はそこで一呼吸置き、私と目を合わせた。
「色斗さん。世界は今、このミノ・コアが衰弱していることにより、非常に危うい状況です。何者かがコアを砕き、世界を破滅させようとしているのです。ミノ・コアが本来の力を取り戻すには、砕かれた破片を集め、再び一つに戻さなければなりません。貴方にはコアを復元してその力を安定させ、この世界を救って欲しいのです」
やっぱり来たよ、世界を救う異世界転移。なんて考えることで少し頭を整理しつつ、私は総裁に尋ねた。
「ということは、三人も砕かれた破片を集めれば、本来の力を取り戻せるんですね?」
「勿論です。ただ、申し訳ないですが、今はミノ・コアを優先して頂きたいのです」
「分かりました」
聞きたかったことの言質を取れた私は、あっさり応える。三人の宝石たちも復元させてあげられるなら、やってやろうと思えた。
そうして私はついに、異世界に求められた使命を果たしに行くことになったのである。




