第四話
翌朝。
朝食と身支度を済ませた私たちは、新たな依頼を受ける為にギルドの受付に向かう。
そしてドアを開けた瞬間、
「来たぞ! ニジマス様だ!!」
「本物……本物の虹色マスターがここに……」
「マジでリトスアーム三体従えてるとか、もう伝説だろ…!」
人々の声が地鳴りのように建物全体を揺らした。
「………一旦、戻りましょうかね」
「落ち着け、色斗。ほら、こっちだ」
引きつった愛想笑いを浮かべる私を、チタくんが周囲の視線を遮るように背中に隠してくれる。それは大変有難かったのだが、その流れるような振る舞いは更なる注目を集めてしまった。
「ちょっと見た、今の!? ガチの騎士じゃん、かっこいい~!」
「あれ絶対、普通のリトスアームじゃないわ。国宝級の宝石よ」
「あそこまで忠実に守られてるなんて、どんだけ凄い主人なんだ…!」
…ねえ、皆さん。
公共の場で、ちょっと声が大きすぎるんじゃないですかね。
めっちゃ聞こえてますけど。
「帰りたい…」
ざわめきが増したギルドの受付で、私はまたしても誰にも届かない願いを呟いた。
「色斗様。実はギルド本部より急な通達が届きまして、本日、虹色マスターの資質判定をさせて頂けないでしょうか」
余りにも場が混乱した為、受付係のサーディンさんが案内してくれた個室にて。
サーディンさんからそんなことを言われ、私はつい眉をひそめた。因みに、昨日のハイテンションな受付係さんとは別の人である。
「資質判定とは…?」
「はい。色斗様が本物の虹色マスターかどうかを確認する為の、試験みたいなものです。すぐ終わりますし、難しいことはありませんのでご安心下さい」
サーディンさんはそう言うと、小さな球体の水晶を取り出した。淡い光を発していて、心なしか振動している。
「こちらは特殊な水晶で、宝石に対する『共鳴』の程度を測定する道具になります。色斗様、こちらの水晶に触れてみて頂けますか?」
「…熱いとか、痛いとか、そういうことは…?」
「ございません。測定された程度によって、水晶の色が変わるだけです」
「あっ、そうなんですね」
良かった。怖かったので生き長らえた気分だ。とはいえ緊張はしつつ、私はそっと水晶に手を伸ばして触れてみる。
すると、
ピカーーーーッ!!!
と水晶が、天井をぶち抜く勢いで太い光の柱を出現させた。
「うひゃあっ!!」
驚いて思わず手を離すと、パッと光が消える。それにホッとして手を引っ込めようとしたら、サーディンさんにガシッと手を掴まれて再び水晶に触れさせられた。当然、先程の現象も繰り返される。
「なんて鮮やかな虹色の柱…! しかもこの太さ、最高位を超えてるわ!!」
サーディンさんは落ち着いた人だったのに、目を丸くしてテンション最高潮になってしまった。
「つまり、虹色マスター確定ということだな」
「色斗様の偉大さが、はっきりと証明された訳だね!」
「ふふ、当然ですよ」
何故かドヤ顔のチタくん、イオくん、ロサくん。
私はと言えば、早くも本日二度目のホームシックを口にせざるを得ない。
「帰っていいですか…」
暫くして、サーディンさんから報告を受ける。
「色斗様、本部より連絡がありました。色斗様を正式に虹色マスターと認定するとのことです」
「…それは、ありがとうございます」
知らず棒読みな言葉になってしまったが、誰も気にしていない。
「これにより、ギルド内の制限がほぼ無くなります。どんな依頼も受けられますし、補助金も出ますよ」
「あれっ、そうなんですね」
一応、特典みたいなものがあるのか。それなら確かに有難いことだ。
「良かったな、色斗」
「やっぱり色斗さんは凄いですね」
「色斗様は僕の誇りだよ!」
「皆さんのお陰です。私は何もしてませんし…」
三人の期待には応えられているようなので、ひとまずは安堵する。
「…宝石が好きなだけで」
と小さく続けたら、これはチタくんに拾われたらしい。
「それがこの世界では、マスターの証なんだよ」
「そう…でしたね。ありがとうございます、チタくん」
落ち着いた笑みを見せるチタくんに、私も少しだけ自信が持てた気がした。
それにしても宝石が好きという気持ちが、異世界でこれ程の価値になるとは。
これからどうなっていくのか分からないけど、皆と一緒ならきっと大丈夫だろう。
知らないうちに私は、この世界に来れて良かったと思うようになっていた。




