表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

第二話


 ギルドの建物の入口には、大きな水晶の看板がある。

 内部も自ら光り輝く宝石の照明装置があったり、まるで宝石箱の中みたいだ。あれってまさかのパライバトルマリンなのでは。だとしたら凄すぎる。

 オタク心がくすぐられて少しテンションが上がった時、広い部屋の中に大きな声が響いた。


「お待ちしておりました、虹色マスター様!! 本当にリトスアームを三体も従わせていらっしゃるとは、素晴らしい限りです!」

「え…いや、あの、そんな大層な者では……」


 普段なら自分に話しかけられているなんて微塵も思わないのだが、今はどう考えても私のことを指しているのが分かる。とりあえずそのでかい声量を下げてくれと宥めようとしたものの、陽キャな受付係さんの圧倒的テンションに敵う訳がなかった。


色斗(しきと)、ひとまず簡単な依頼から始めよう。心配は要らない、俺がついている」

「ハイ……」


 受付を済ませるだけで心がすり減り力尽きているが、チタくんの優しさに少し救われる。最初に感じた彼の威圧感は、大分薄くなったように感じた。


 そして私は、初めての宝石採取依頼を遂行することになったのである。





 ギルドで最も簡単な依頼、『フェード草の採取』を受けた私たちは、街の外を歩いていた。

 フェード草とは光を浴びると葉が半透明になる不思議な植物で、薬や装飾品の材料になるらしい。


「足元に気をつけるように」


 チタくんが前を歩きながら、度々こちらを振り返る。落ち着いていて冷静な彼は、とても頼りになるなと思った。


「色斗様、何かあったら遠慮なく僕をこき使って下さい!」

「え、えっと…、荷物持ってくれてありがとうございます。十分です」


 そもそもイオくんは、率先して面倒を引き受けてくれている。これ以上頼るのは申し訳ないし、それじゃあお言葉に甘えて…なんてアレコレ命令できるなら、私はこんなコミュ障陰キャではないはずだ。


「疲れたら言って下さいね、色斗さん。私たちも声をかけて下さると安心しますから」

「はい。ありがとうございます」


 ああ、天使。ふわりと微笑むロサくんはいつも穏やかで、心の底から癒される。よく居る『笑顔の腹黒タイプ』ではないので、彼の存在には本当に助けられていた。


 そうして暫く歩いていると、草原に出る。太陽を浴びた草がキラリと光り、風に揺らめいて踊っている。


「わあ…綺麗……」

「気に入って貰えたようで何よりだ」


 思わず呟いた言葉に、チタくんが満足そうに頷いた。

 あれ、何か可愛いな。ちょっとツンデレみを感じる。


「フェード草は、この辺りの丘に群生している。…あそこが良さそうだな」


 チタくんの案内により、無事私たちはフェード草の群生地に着いた。透明がかった葉が、風で微かに鈴のような音を響かせている。


「色斗様、こうして根元を掴んで……はい、このように抜きます!」

「わ、分かりました…」


 イオくんが張り切って採取の仕方を教えてくれるけれど、正直、解説より彼のテンションが気になった。しかし、そんなことは言えない。私は教えられた通りに……できるかは不明だが、とにかく採取を試みる。要は引っこ抜けば良いのだ、草なんだし!


 私はフェード草に触れ、力加減に気をつけて引き抜くと、

 ――シャリン。

 涼やかで澄んだ音が鳴った。


「わ、軽い。綺麗な草ですね」

「色斗さんに触れられると、草も嬉しそうです」

「草が…?」


 覗き込んできたロサくんに尋ねると、彼は優しく微笑む。

 

「ええ。フェード草は心遣いや愛情を感じると、澄んだ音を出すんですよ」

「…へえー、そうなんですね」


 雑草扱いしなくて良かった……と、私は肝が冷える。聞けばこの世界に在るものは、大抵が宝石のエネルギーを少なからず宿しているらしい。だから、私の宝石愛が伝わったのだろうとのこと。


 そんな折、チタくんが何かに気づいて表情を引き締めた。


「色斗、少し後ろに下がってくれないか。魔力の流れが乱れている」

「魔力」


 改めてファンタジーな世界だ、なんて過ぎらせながら足元を見れば、地面がほんのり青白く光っている。地面が光っても普通な世界か。


「これは魔結晶ですね」

「魔結晶」


 オウム返し以上の言葉が出ない私に、ロサくんが説明してくれた。


「鉱脈の魔力が溢れ、不安定に結晶化したものを魔結晶と呼びます。放っておくと爆ぜる場合がありますから、とても危険なんです」

「えっ、この光ってるやつですよね!?」


 これが突然爆ぜるなんて、とてつもなくヤバいのでは。

 異世界転移して物理的に爆死するのか、私。


「色斗、俺の後ろに居ろ」


 恐れおののく私の前に、チタくんが立った。落ち着いた中に鋭さがある声は、緊迫した状況を如実に伝えている。

 そして次の瞬間、地面がバリッと音を立ててひび割れ、中から結晶が隆起した。見た目だけで言えば、とても綺麗に光っている。しかし――。


「色斗様、僕たちから離れないで下さい!」


 イオくんもまた、盾のように私を庇う姿勢だ。ロサくんからは何やら、温かいエネルギーのようなものを感じる。それが心地よく体に浸透して、私は妙に冷静になった。


「…ユークレースに似てるな、あれ。透明な中に青い筋が幾つか同じ方向に入ってる」

「色斗さん?」

「ロサくん。あの結晶が爆発しないようにするには、どうすればいいんですか?」

「魔結晶には様々な種類がありますが、どれも結晶を割ったり粉砕してしまえば爆ぜることはありません。外部からの衝撃によって爆発することはないので、近くにある場合は破壊するのが一番です。でも…」

「でも?」

「魔結晶は強靭ですから、闇雲に力をぶつけてもなかなか割れないんです。それぞれの弱点をつかないと。ただ、その弱点があまり解明されていなくて……運良く割れてくれればいいんですけど」

「分かりました。では、あの青い筋に沿って裂くようなイメージで力を加えて下さい。丁度あの辺りに欠けが見えますので、あそこを突くと良いと思います。青い線の通りに割ることを意識して下さい」


 私が魔結晶を指差しながら伝えると、リトスアームたちから驚きの視線が集まる。その瞬間我に返ったものの、同時にチタくんが深く頷いた。


「承知した。俺が行こう」


 魔結晶を見据えたチタくんは、まばゆい光を携えた剣を出現させて構える。そしてひらりと結晶の欠けた部分へ飛び上がると、輝く剣を突き刺した。


 ――パリンッ!!!


 魔結晶が割れた衝撃音が、耳に強く木霊する。破片が勢いよく飛び散ってきたが、イオくんとロサくんがバリアみたいな膜で防いでくれた。


「怪我はないか、色斗」

「あ、えっと、無いです。チタくんは大丈夫ですか?」

「問題ない。君の助言のお陰で助かった、ありがとう」

「いえ、お役に立てて良かったです」


 チタくんが無事のようでホッとする。ひとまず、爆死は免れた。


「流石です、色斗様! やはり貴方は最高のご主人様…!!」

「いやいやいやいや…。偶然、似た宝石を持っていたもので…」

「ふふ、色斗さんの宝石知識には脱帽ですね」


 おうふ、ロサくんまで。魔法の力が使える君たちのほうがずっと凄いと思うよ!


「そういえばさっき、ロサくんのほうから温かいエネルギーみたいなのを感じた気がしたんですけど……」

「ああ、回復魔法を準備していたんですよ。リラックス効果もありますから、それが色斗さんに少し掛かったんですね」


 なるほど、そういうことか。

 それでビビりの私が、あんなに落ち着いていられたんだな。


 そうして私たちは魔結晶による危機を回避し、当初の任務を再開した。





「…まあ、こんな所だろう。そろそろ帰るとしようか」


 フェード草も必要分が集まり、チタくんが提案する。その言葉に、私は思わず大きな溜息を吐いた。


「こんな感じで、仕事が続いていくんですね…」

「そうだな。だが、案ずることはない。君には俺が…俺たちがついているのだから」


 チタくんはちらりとイオくんたちを見つつ、ゆったりと微笑む。


「まだ始まったばかりですからね。焦らず頑張りましょう」

「ご安心下さい、色斗様。僕がどんなご命令も遂行して見せます!」


 相変わらずロサくんは優しく、イオくんは…イオくんも優しい。

 慣れない作業で疲れ果てた心身に、皆の温かさが染み渡る。


「はい…、ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」


 私がぺこりと頭を下げると、三人は口々に『勿論だ』と言ってくれた。

 異世界での生活に少し、輝きを見いだせた気がした瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ