表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長い彼方から  作者: 天笠唐衣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/34

第13話 Te voi iubi pentru totdeauna

 朝、隣にアロンがいないのに気づいて目が覚めた。体がまだ少し重い。昨夜のことを思い出すと、思わず顔が熱くなる。……アロンって、どれだけ体力あるんだろう。


 今日もまた、アロンが朝ごはんを作ってくれていた。

 クロワッサンにチーズ、ゆで卵とコーヒー。シンプルな食卓だ。

「いただきまーす」

 

 思わず口に出す。

「今日はシンプル?」

 

「ヨーロッパでは、これくらいが普通なんだ。毎朝ご飯と味噌汁とおかずを用意する日本人の方が働き者だよ」

「なるほど。でもこのクロワッサン、外はカリカリ、中はもちもちで美味しい」

「それなら良かった」

 アロンはにっこり微笑んだ。


 洗い物をしているアロンに、声をかける。

「なんでアロンがいつも作ってくれるの? 大変じゃない?」

「だって、僕……ヒモだから」

 小声で言うアロン。

「ヒモ……。働けないんだから仕方ないよ。いつも助かってるし、美味しいし」

「本当?」

「本当」

「アルバイトしても時給はたかが知れてるし、不法滞在を通報すればお金もらえるって聞いた。……危ないから、やらない方がいい」

「わかった」

「それに……あたしを守ってほしいし」

「そうだね」

 

「ところで、『ヒモ』ってルーマニア語でなんて言うの? 勉強してみたいな」

 アロンはタオルで手を拭きながら答える。

「本当に? ……ジゴロ。日本でも使うね」

 そう言って、じっとあたしを見つめる。

「Te voi iubi pentru totdeauna」


「今の、何て言ったの?」

 慌ててスマホの翻訳アプリを立ち上げ、アロンの口元へ近づける。

「もう一回!」

「やだ」

「なんでー? お願い!」

 せがむあたしに、アロンは軽くキスを返した。


「今日は防犯グッズの設置をしようか」

「そうね。早めがいいよね」


「まずは、玄関のカメラからやるか」

 説明書を見ながらなんとか設置できた。

 その近くにセンサーライトも取り付けた。

 

 次は、窓のフィルム貼り。あたしは、フィルムを押さえただけで、全部アロンが綺麗に張ってくれた。

「全然空気入ってないよ。すごい」

 あたしはパチパチ拍手をした。アロンは何でもそつなくこなす。


 アロンは補助鍵をパッケージから開けながらこう言った。

「優子は僕のこと知りたいって言ってたから、昔の出来事でも話そうか」

「何? あ……女性関係の話はダメよ」

「そんなのはないよ。君の前世の話くらいで」

 アロンがそういうと、あたしの頭の中には前世への疑問が湧いた。

 (前世って自分のこと? それでも嫉妬心が出てくる感じがする。本当にあたしなの?)

「前世って本当にあたしなの?」

「うん。僕にはわかる。運命の人だから」

「運命の人って何かが違うの?」

 今日のあたし、質問だらけの小学生みたい。

 

「ちょっと休憩しようか。なんか飲む?」

「お茶でいいかな」

 ソファに座るとアロンが飲み物を持ってきてくれた。

 

 アロンがあたしの脇を両手で抱き抱えるとひょいと膝に乗せた。背中にアロンの体温を感じる。


「うまく説明できなくてごめん。僕は人よりかなり感受性が強いんだ。人が聞こえないもの、見えないものも見えてしまう。優子が守護霊と話ができるように……」

 そして続けて言う。

「例えば……」


 アロンはあたしの耳に口を近づけて囁いた。

(この部屋は盗聴されているようだ。探すから静かにして待っててくれる?)

 あたしは、コクンと頷いた。


 アロンとあたしは離れた。アロンは蝙蝠に変身した。

 あたしは、声を出さないように両手で口を塞いだ。

 

 アロンはしばらくキッチン、ダイニング、寝室を飛んでいたが、ダイニングに戻ると、変身を解いた。

 コンセントをドライバーで開くと、何か黒いものが入っていた。

 手でブチっと線をちぎると、アロンは服を着た。

「これだけみたいだ」

「いつの間に入ったんだろう……怖い」

「僕が守るから」

 アロンは優しく微笑んだ。

 

「前回入られた時に合鍵作られたのかもしれないな。近いうちに鍵を替えよう。今日は補助鍵つけたら終わりにしようか」

「わかった」


 鍵を全部で五つ設置した。出入りに少しめんどくさくなるが、安全に越したことはない。


「設置終わり」

 あたしはさっきの話の続きが聞きたくなった。

「アロンの昔の話が聞きたい」

「いいよ」

 アロンは優しく笑った。


 アロンがソファに寝そべると、あたしを呼ぶ。

 あたしはタバコを吸いながら、アロンの隣にうつ伏せになった。足を絡める。

 アロンがあたしのタバコを取って吸った。

 

「タバコ吸うんだ?」

「ニコチンすぐ分解しちゃうのか、無味無臭でつまらなくて吸わないんだ。アルコールも同じ」

 

 アロンがあたしの口にタバコを戻す。

「そうなんだ。それはつまらないね」

 

 アロンの胸に耳をつけた。一定の鼓動が心地いい。あたしがタバコの火を消すと、アロンが話し始めた。

 

「昔、アメリカにいた頃。たまたま入った銀行に、強盗が三人組で押し入ってきたんだ」

「映画みたい……それで?」

 

「迷ったけど、捕まえるのを手伝った。……でも銃を撃たれても平気だったから、すぐバレた」

 

 アロンの横顔は少し遠くを見ている。

「化け物扱いする人と、英雄扱いする人とに分かれた。新聞社からは取材の嵐。……でも結局、捕まえようとする人間の方が多くて、街を出るしかなかった」

 あたしはそっとアロンの手を握った。

「大変だったね。でも、分かってくれる人もいたんでしょ」

「そうだね。居心地いい街だったのに……もう少し住みたかった」


「僕は優子の昔の話が聞きたい」

 アロンはあたしを見るとニコッと笑った。

「そうねえ……。占い師になる前は、不動産会社の事務職してたの」

「うんうん」

「守護霊とは小さい頃から話ができてたんだけど、そのことで意地悪されたり嫌な思いもしてたから、ある時占い師に相談してみたの」

 

「それは、何がきっかけで?」

「雑誌見てたら、占い師特集ってのがあって、霊媒師兼占い師やってる人のコラムが載っててさ。あたしの体験と似てたのよね」

 

「なるほど。その人も能力持ってたんだね」

「その人が辻占いしてるのを知って行ってみたの。そしたら、あたしの話をずっと聞いてくれて、受け止めてもらって、すごく楽になったの。それは強みだから、それを使って役に立つことを考えたら? と言われた。特別なことで、悪いことではないと」

 

 あたしは続けた。

「その時までは、あたしは人と違う、重荷を背負って生きてきた感じだったんだけど、話を聞いてもらってからは、軽くなったんだよね」

「いい出会いだったね」

「うん。それから占い師に興味が出て、勉強して就職した感じだよ」

「どんな占いができるの? 守護霊を除いて」

「あたしが勉強したのは、占星術、タロット、手相かな」

 

 アロンが手を差し出す。

「手相、見てみてよ」

「生命線が長いしクッキリしてるから、活動的で明るいタイプ。新しいことも恐れず挑戦する……アロンそのまんまね」

「感情線は短いな。感情的にならない、冷静なタイプ」

「当たってる」

「頭脳線は短いから直感型。運命線は長いし、目標に向かってブレずに進むタイプ」

「当たってる!」

 そう言ってアロンがキスしてきた。

 

「今日は仕事行くの?」

「どうしようかな。正直、気分は乗らない」

 (アロンとイチャイチャしたい気もする……。あ、読まれた!?)

 アロンを見ると、少し照れている。

 (……やっぱり。読まれる方も恥ずかしいよ)

 

 あたしは自分を奮い起こして言った。

 

「やっぱり仕事する!」

 

 少しアロンがしょんぼりして見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ