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長い彼方から  作者: 天笠唐衣


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第1話 出会い

 満月の光が川面に反射し、橋の欄干近くでキラキラと揺れていた。大きな橋には、ひっきりなしに車が行き交っている。

 月明かりに照らされた河川敷の護岸に、黒いマントの影が立っていた。


 背の高い欧米人らしき男。草むらをかき分けて姿を現したその身なりはボロボロだが、歩みは妙にしっかりしている。

 黒いマントに黒いスーツ、青白い顔。空を仰ぐと、何かを決めたように歩き出した――。


 ◇


 都内の商店街の一角。

 あたしはキャリーバッグを広げ、椅子二脚とテーブルを並べた。ランプを置き、立てかけた看板にはこう書いてある。


 『占い師 マリア』

 『一回 三千円』


 路上占いとしては相場だ。煙草をくゆらせ、一冊の文庫本を開く。


 しばらくして、若い女性が近づいてきた。

「あの、見てもらっていいですか?」

「はい、前払いで」

「あ、はい」


 受け取った金をしまい、水晶をテーブルに置く。

「お悩みは?」


 彼女が話し始めたと同時に、背後の守護霊に聞く。

 (この子、何に悩んでる?)

 『彼氏の浮気だな』


 白髪混じりの恰幅のいいお爺さんの守護霊が答えた。さらに続ける。

 『まり――この子は《まり》と言う名前で、彼氏が()()いる』


「ブッ」

「え?」

 思わず吹き出し、ごまかす。


「ええと……無難な方法を教えるわね」


 (誰の浮気を疑ってるの?)

 『《わたる》って子だ』


 水晶に手をかざし、告げる。

「彼氏さん、名前に《わ》が入ってるわよね」

「ですです!!」

「大丈夫。浮気はしてない。あなたが誠実に愛を注げば問題ない。ただし、裏切れば縁は切れるかもね」


 彼女はしばらく黙り、すっきりした顔で頭を下げた。

「わかりました。ありがとうございました」


 (これでいい?)

 『もっと警告したかったが……助かったよ』

 お爺さんは微笑んだ。

 

「またどうぞ」

 軽く頭を下げ、本に戻る。


 ◇


 次にやってきたのはスーツ姿の男性だった。

「すみません、一回お願いできますか」

「はい、前払いで」


 受け取った金を懐にしまう。

「お悩みは?」

「株の投資をしようと思っているんですが、迷ってまして」


「株ですか……」

 

 守護霊の品の良さそうなおばさんに問いかける。

 (この人どう?)

 『投資を始めると頭に血が上って、結局失敗するのよ』


 (辞めさせたい?)

 『できれば。でも本人にその気がないの』

 

 あたしは水晶に手をかざす。

「株、初めてじゃないですね?」

「そ、そう。なんでわかるの?」


 (今回の株狙いは?)

 『太陽建設。他全部売らせて、失敗したらそれはそれで学びにならないかしら』


「見えました。あなたは複数銘柄を手当たり次第に買ってますね」

「どうしてそれを――!」

「株の神様は怒ってます。一本にしなさいと。他は、全部売っぱらっちゃいなさい」

「……マジですか」


「太陽建設一本。これが答えです」

「! ……わかりました」


 彼は涙目で二千円を追加で差し出した。

「ありがとうございました」

「ありがたく頂きます」


 金をしまい、頭を下げて見送る。


 ◇


 不意に、体格のいい男が椅子にどかっと座った。

「よぉ、ねーちゃん」

(やば……ヤクザ)


「ちょこちょこ、ここで商売してるよな?」

「初めてですけど?」


 しまった。口が滑った。

「誰の許可でやってんだ!」

 テーブルを叩かれ、声が上ずる。


「ここのお店には……払ってます!」

 そういいながら、片付けようと始めたその時、男はナイフを取り出し、頬に当ててくる。

 (あー、もうダメだ。あたし死ぬかも)

 目をつぶった、そのとき――。


「イテッ! お前誰だ!」


 目を開けると、黒い影がヤクザと戦っている。

 目を凝らすと全身黒スーツの白い顔の男がヤクザの腕をねじ上げていた。

 隣の飲み屋の明かりが顔を照らすとかなりのイケメンに見えた。

 ヤクザが殴ろうとするが、逆に組み伏せられてしまう。

 ビール瓶ケースの上に倒れたのか、大きな音がした。

「ガッシャーン!」


 ――その隙にあたしは急いで片付ける。手が震えてなかなかはかどらない。

 逃げる時、ちらっと男たちの方を見ると、すでに喧嘩は決着していた。

 

 黒づくめの男が近寄ってくる。

 あたしは、恐怖で足がすくんで動けなかった。


 男の目は赤く光っていた。

 あたしは意識が遠くなり、その場に倒れ込んだ――

 

 ◇

 

 ――気がつくと、あたしはベットで寝ていた。

 

「……ここはどこ?」

 

 起き上がり、周りを見渡すとどこかのホテルのようだ。

 自分の体を見ると、特に変わったところはない。

 

 (荷物は?)

 

 部屋の入り口にスーツケースは置いてあった。

 部屋の中をさがしたが、男はいなかった。

 スーツケースの中身も無事だ。

 ただ、懐の今日の売り上げがなくなっている。

 テーブルを見ると、ホテルの紙とペンで、殴り書きがあった。

 

 『悪いが、お金がないので、ホテル代を拝借した。それ以外は何もしていない。支払いは必ず返す――A.』

 

 赤い目を思い出した。身震いした。

 人以外見慣れているものの、あれは明らかに人外だわ。

 

 うーん。早く家に帰りたい。帰ろう……


 途中で待ってないかキョロキョロ周りを確認しながら、我が家へと帰った。


 家に着くと、緊張感が和らいだのか、眠くなった。

 あたしはベッドに倒れた。

 

 なんだかんだで、今日の売り上げパーだ。明日から別の場所に移動しないとだし。

 命は助かったけど……

 

 お礼言ってなかったな。でも、もう会わないよな。


 自然に瞼が重くなってきて、いつのまにか寝ていた。


 ◇


 夢の中に、彼が現れた。

 ボロボロではなく、高級そうな中世の格好をしている。今より少し若く見える。


 周りを見渡すと、広い部屋に高い天井。赤い絨毯が敷かれ、豪華な家具が並んでいた。まるで城の中だ。


 あたしは大きなベッドに横たわっていた。

 お腹が膨らんでいる。両手で愛おしそうにさすりながら――そのまま夢の底へ沈んでいった。

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