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女嫌いの俺が、他校の美術部女子を選ぶまでの話  作者: えーりん


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5/6

第5話 嫌だと気づいた時点で、もう遅かった

幼なじみの存在は、

会話の中に出てこなくても、

不思議と影を落とす。


説明しなくても通じる距離。

長い時間を共有してきた関係。


千尋がそれを「楽」と言った時から、

悠太の中で、

些細なことが気になり始めていた。



駅前を歩く。


話題は、

最近見返しているという

少し古いアニメに移った。


人の形をした機械が戦う話。

派手な戦闘よりも、

人の心の内側ばかりを掘り下げていく作品。


千尋は、

その作品を「分かりにくい」と言った。


理由も、はっきりしている。


登場人物が、

何を考えているのか。

どうなりたいのか。


それをはっきり言わないまま、

話が進んでいくのが、

どうしても苦手らしい。



千尋の考察は、

一貫していた。


あの作品は、

もっと分かりやすくできたはずだということ。


気持ちは言葉にするべきで、

伝わらなければ意味がない。


分からないまま終わるのは、

逃げに見える。



悠太の考えは、

真逆だった。


分からないまま描くからこそ、

本音が滲む。


言葉にできない感情もあるし、

説明しないことで、

見る側に委ねている。


あの作品は、

分かりにくさそのものが

テーマだと思っていた。



ほんの少し、

言い方が強くなった。


「……全部説明されたら、

それはそれで嘘だろ」


自分でも、

踏み込みすぎたと分かった。


千尋は、

すぐに言い返さなかった。


それが、

逆に悠太を焦らせた。



「私は」


千尋は、

少し間を置いてから言う。


「分かる人だけ分かればいい、

みたいなのが嫌なんだと思う」


責める口調ではない。


でも、

はっきりと線を引く言い方だった。



その瞬間、

悠太の中で、

幼なじみの影が重なった。


説明しなくても分かる関係。

最初から共有されている前提。


(……ああ)


(だから、俺の考え方は

 合わないんだ)


そう思った途端、

胸の奥が、ひどくざらついた。



悠太は、

反論しかけて、やめた。


ここで言い合っても、

作品の正解が決まるわけじゃない。


でも、

問題はそこじゃなかった。


考察の違いじゃない。


「分からなくてもいい」と思える側と、

「分からないのが不安な側」


その違いが、

はっきり浮き彫りになっただけだ。



駅裏の坂道。


カーブが多く、

考えすぎると足が止まる場所。


でも、

何も考えずに進めば、

危険な場所。


悠太は、

そこを見ながら思う。


今の自分は、

考えすぎて止まっているのか。

それとも、

分かりにくさに甘えているのか。



二人の間に、

沈黙が落ちる。


喧嘩と呼ぶには、

あまりに静かだった。


でも、

この静けさの方が、

後を引く。



帰り道。


胸に残ったのは、

はっきりした感情だった。


幼なじみへの嫉妬でも、

噂への不安でもない。


自分の考え方が、

千尋を不安にさせているかもしれない、

という事実。


それが、

どうしようもなく嫌だった。


嫌だと気づいた時点で、

もう戻れない。


このまま何も言わなければ、

千尋はきっと、

「分からない側」を選ぶ。


そう確信してしまった。


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