表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/15

第十一話『核と再生』


ブザーが鳴り響くと同時、あのギャル――キララ☆がネコ耳パーカーをなびかせて飛び出した。

「みんなー! キララの独壇場、始まるよっ☆」

カメラ目線でウインクまでしやがる。

ピンクの光粒が視界に散り、レンズが勝手に寄る。

途端、彼女のコメント欄が『カワイイ!』『キララ☆親衛隊、参上!』という賞賛で爆発し、その体が淡いピンク色のオーラに包まれた。


「チッ、調子乗りやがって……!」

俺もDQNナックルを構え、廃墟モールの暗闇へ突っ込む。他のガチ装備ルーキーたちも一斉に散開した。


ノイズ混じりの声がした。「グ……」――いた。

エスカレーターの影から、カクカクと不気味な動きで現れるレブナントの群れ。前に見たのと同じ、顔が「逆さいいねマーク」になったのっぺらぼうだ。


「オラァ!」

俺は一番近いヤツにDQNナックルを叩き込む。ブーツが床を鳴らし、肩から腰へと捻りを通す。

ゴシャッ!

鈍い音と共に、逆さGoodマークがノイズになって消し飛んだ。よし、まずは一体!


俺が泥臭い物理攻撃で一体仕留めた、まさにその横を――。

「おっそーい!」

ピンクのオーラをまとったキララ☆が、チアリーダーみたいなステップで駆け抜けていく。よく見ると、彼女の《肉球ナックル》がゲージみたいにピンク色に発光している。


「キララ、必殺スキル、いっちゃうよー!」

『カワイイ!』『待ってました!』

賞賛コメントが最高潮に達したのを確かめ、彼女は叫んだ。

「《スキル:キュン☆とどめ肉球》!」


手首のスナップ一つ、ピンクの円環が重なる。肉球ナックルから、デカいハート型のピンク色の衝撃波が放たれた。

ドキュン!

軽い音と共に、俺の目の前にいたザコ5体が、まとめてノイズに還っていく。


「なっ……!」

俺は呆然と、ハートの残滓が消えていくのを見ていた。「……スキルだと!?」


「分析」

E.C.O.が冷静に俺の視界へウィンドウを差し込む。

「対象:キララ☆。賞賛の感情エネルギーを指向性攻撃に変換を確認。高効率です」

「高効率……」


俺のコメント欄と、E.C.O.越しに見えるキララ☆のコメント欄が、一気に騒がしくなる。

『キララ☆スキルきたー!』『今のカワイイ! 1位確定!』

『てか、あっちのDQNダサすぎw まだ手で殴ってんの?w』

『うわ、キララ☆の信者きたw』『兄貴負けんな! あのギャル殴れw』

『DQNナックル(笑)vs 肉球(本物)』


うるせえ!

俺はコメント欄のケンカを振り切るように、次のザコ集団へ突っ込んだ。


「分析:スコアボードを表示します」

E.C.O.が無慈悲にランキングを叩きつけてきた。

1位:キララ☆

2位:SFアーマーのヤツ

3位:魔術師ローブのヤツ

……

……

10位:HYAPA


「はぁ!? なんで俺が10位なんだよ! あいつばっかズルしやがって!」

「分析。あなたはスキル未取得のため、一体ずつの処理となり、スコア効率が絶望的に悪いです」

「ぐっ……!」


E.C.O.の分析を肯定するように、俺のコメント欄が、キララ☆信者の煽りも混ざって嘲笑の嵐になる。

『www』『ダサ効率www』『カエル兄貴スキル無いの?w』

『DQN(笑)』『肉球に負けてやんのw』


カチン。

俺は、逆さGoodマークの顔面にDQNナックルをめり込ませながら、キレた。

「うるせえ! スキルが無くても勝てんだよ!」


その瞬間。

俺の視聴者からの嘲笑と、キララ☆の視聴者からの嘲笑が、同時に脳天をブチ抜いた。

……ああ。焼ける。最高に、焼ける。


「そうかよ。見てんだろ、お前ら!」

DQNナックルが、嘲笑の熱でギラギラと光を放つ。

「もっと笑え! 俺の虎が火を噴くぜオラァ!」


嘲笑を力に変え、俺がブーストする。呼気が白い尾を引き、モールの蛍光灯が流星に変わる。世界が、遅くなる。

「おせぇんだよ!」

DQNナックルが、ザコ・レブナントを壁ごと殴り飛ばした。


『うおお!』『兄貴ヒャパってきた!』『スキル無くてもはええwww』『DQN無Gwww』

スコアボードの順位が「10位」から「5位」、そして「3位」へと猛烈に上がっていく。

「ハッ! どうだコラ!」


2位のSFアーマーの背中が見えた。あいつを抜けば、次はあのクソギャルだ!

俺が吹き抜けのフロアに飛び出した、その瞬間――。


ズンッ。空気が重くなった。

モールの巨大な吹き抜けの天井を突き破り、中型レブナントが出現した。体長3メートル。黒い『返せ』『クソ』『なんで』などの怨嗟テキストで構成された、あのバケモンだ。


だが、前に倒したゴーストノイズとは何かが違う。怨嗟テキストの中心、胸のあたりが、黒く硬い「核」のように脈打っている。

「警告。高レベルのレブナント反応。《ゴーストノイズ・ヘイトコア》と仮称します」

「うわ、デカいの来た!」


1位を独走していたキララ☆も、中ボスに気づいて足を止める。

「あれ倒せばスコア総取りじゃん!」

中ボスの出現に、他のルーキーたちがビビって近づけない。


「おいギャル!」

俺はDQNナックルを構える。

「そいつは俺の獲物だ!」

「はぁ? スキル無いDQNは黙ってな!」


キララ☆が俺より先に動いた。

「いっくよー! 《スキル:キュン☆とどめ肉球》!」

最大のハート衝撃波が、ヘイトコアに直撃する。外側の怨嗟テキストが派手に吹き飛んだ!

「よっしゃ!」


――だが、テキストが晴れた奥で、黒い「核」は無傷。

黒核がドクンと膨張し、文字列が泡のように再生を始める。次の瞬間、核から再び怨嗟テキストが噴き出し、吹き飛んだ部分が元通りに再生した。


「嘘!? なんで!? 再生したんだけど!」

「ハッ、ダセェな! 見てろ、俺がやる!」

俺はブーストした勢いのまま突撃し、渾身のDQNナックルを叩き込んだ。

ゴシャアア! 手応えはある! エコーアームズは効いてる! 怨嗟テキストが砕け散る。


――だが!

「……チッ!」

核は無傷。傷つけたそばから、テキストがブワッと再生していく。

「なんでだよ! キリがねえ!」

「分析」

E.C.O.が冷たく告げる。

「対象、高レベルの自己修復機能を確認。現在あなたのDPS――そう、あなたのDQN Per Secondでは、討伐より再生が上回っています」

「DQN Per Second!? うるせえ!」


俺とキララ☆が焦っている一瞬の隙。再生を終えたヘイトコアの巨腕が、無防備な俺を殴り潰そうと振り下ろされる。影が床を覆い、風圧が肺を奪う。ヤベェ!


『兄貴逃げろ!』『再生とか無理ゲーだろ!』『あ、死んだw』

視聴者のコメントがパニックになる。


その、刹那。

コメント欄の濁流に、場違いな[Ranker]マークがついた、たった一つのコメントが流れた。E.C.O.が、ご丁寧にもそれを俺の視界のど真ん中に表示する。

《コメント:鴉森 狂夜: 塵も積もりゃ……燃えるゴミくらいにはなるんじゃねぇのか》


巨腕が迫るスローモーションの中、視聴者コメントが一斉に止まった。

『!?』『え』『狂夜様!?』『なんでここに!?』『燃えるゴミ? どういう意味?』


俺は紙一重で地面を転がり、巨腕の直撃を避ける。だが、衝撃波で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「グッ……!」

霞む視界の中、俺はあのコメントを睨みつけた。

「……あ? 塵もつもりゃ……だと?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ