キャバクラ『パック』3
キャバクラ『パック』にて、社長の山本珍太と初出勤のキャバ嬢のエリコは共に酔いに酔って泥酔し同じ事ばかりを繰り返し話していた。
「エリコちゃん、私は立ち上がるよ。独房にいて毎晩ドナドナを歌うヤスの気持ちを思ったら胸が張り裂けそうなんだよ。悔しくて悔しくて悲しくなる」と社長の山本珍太は密かに頼んでいた養命酒を飲みながら言った。
「わかるわかる。ひとりぼっちは寂しいもんなぁ〜」とエリコは何度も頷いて何度も木綿のハンカチーフで鼻をかみながら言った。
「エリコちゃん、画用紙と油性のペンはあるかい?」と社長の山本珍太は焦点が合わないまま言った。
「社長さん、何に使うんですか?」とエリコは勝手に入れたボトルのテキーラを自分のコップに注ぎながら言った。
「パワー・トゥ・ザ・ピープルさ!!」と社長の山本珍太は言って一気に養命酒を飲み干した。
エリコは空になった社長の山本珍太のコップに並々とテキーラを入れた。
「エリコちゃん、これ何?」
「テキーラだよ」
「私、テキーラ頼んでないよ」
「社長さんはテキーラ飲みたくないの?」
「飲みたい」
「じゃあ社長さん、カンパイしましょう」
「うん。エリコちゃん、カンパーイ!」
「社長さん、カンパーイ」
二人は高々とコップを上げるとコップが割れそうなほどにぶつけた。
エリコは画用紙と油性ペンを持ってきて社長の山本珍太に渡した。
「よしっ!」と社長の山本珍太は言うと一気に画用紙に書いた。
『今すぐにヤスを釈放せよ! 無実の罪で臭い飯を食わされています!犯人はヤスじゃないです!ヤスは悪くありません!ヤスを救え!私はヤスの味方だ!ヤスを救い出してみせる!もう一度言おう!犯人はヤスじゃない!!絶対に絶対にヤスじゃないよ!!』
社長の山本珍太の顔は真っ赤に充血していた。まるで発情期のメスのサルのお尻みたいに真っ赤だった。
「社長さん、あんたは偉い!!」とエリコは言って拍手をした。
「さあ、皆さんも拍手拍手!」とエリコは大声で店内にいる他のお客様とキャバ嬢に言った。
他のお客様とキャバ嬢は、皆、訳が分からないまま、とりあえず、「おめでとう!」と口々に社長の山本珍太に言いながら拍手をしてくれた。
山本珍太は「ありがとうありがとう」と言いながら画用紙を持つとキャバクラ『パック』の外に飛び出した。
「社長さん! どこさ行くんだ!?」とエリコは言って飛び出した。
社長の山本珍太は書いたばかりの画用紙を両手に持って高々と掲げた。
「とりあえず、今の私にできるのは、一般社会にこのヤスの悲劇を伝えることからだ! まずは最初の一歩はここから始まる!! ヤスを釈放せよ!! 今すぐにヤスを釈放をしろ!!」と社長の山本珍太は泥酔したまま絶叫した。
「そうだそうだ!! ヤスを釈放しろ!!」と同じく泥酔しているエリコは続けて絶叫した。
社長の山本珍太はポケットからスマホを取り出すと少しばかり時間を使ってポートピア連続殺人事件を調べてヤスの写真を出した。
「これがヤスです!! 真面目そうな顔をしているでしょう? 妹思いの好青年な男なんです!! そんな日本の宝みたいな好青年をね、いつまで牢屋に入れているんですか!! 1983年6月に逮捕されてから2025年で42年ですよ!! 42年間も牢屋にいるんですよ!! ウグッ、グヘッ」と社長の山本珍太は嗚咽しながら叫び続けた。
エリコはもらい泣きをしていた。エリコはポケットから木綿のハンカチーフを取り出すと社長の山本珍太の涙を拭いてあげた。
「社長さん、そろそろ時間だけども、延長する?」とエリコは真顔で言った。
「あと1時間だけ延長する。現代社会の問題点について語り明かそうよ」
「うん! 語り明かそ語り明かそ」とエリコは嬉しそうに言った。
おしまい