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針の筵で、ひとり

作者: 千子

仕事がない。

この職場に勤めて早一年と少し。

最初は割り振られていた仕事も、人事異動で課長が変わると割り振られなくなり、まだ自分の仕事を持っていない私は指示待ち人間になるしかなかった。

職場があるだけまし。

無職時代を思い出せばお金がもらえるだけすごい。

そう考えて必死に椅子に縋る。

何もない時は勉強してていいよ、なんて新しい課長は言う。

周囲が仕事をしている中、一人黙々と勉強するなんて針の筵だ。

勘弁してくれ。

そうは思っても黙っているしかない。

勉強して資格を取って、転職するしかない。

そう決めた私は、いつか辞めてやると心に決めて勉強に身を費やした。


しかし、そうは言っていられないのが現実である。

六月に部署移動したこの職場に三十年はいる大御所の女性が、部署が変わったにも関わらず私にあれこれ仕事をやらせるのである。

「部署が違うので」

そう言えたらどんなに楽か。

私は彼女を人に嫌われても平気な人と思い接していた。

私も大人だ。嫌いな人間との職場関係くらい流そう。

そう思って接していても、相手はとんでもないモンスターであった。

「この子に仕事やってもらいたい人ー!」

別部署で私に対する仕事募集をしだしたのである。

なにやってんだ。

もう一度言いたい。

なにやってんだ。

別の部署だぞ。

でも、私には仕事がないのも事実である。

仕方がなく他の部署の仕事をする日々。

段々と別部署も遠慮がなくなり、一日中別部署の仕事をする日々が続いた。

最早どこの部署にいるか分かったもんじゃない。

そうだ。そもそも最初の契約と賃金も賞与も何もかも違う。

面談の度に訴えているが改善される気配はない。

もう辞めよう。

何百回も思う。

でも、エアコン買い換えたばかりだしな。

現実と思いが交差する。


完全に便利な人扱いされて毎日を過ごす。

周囲は見て見ぬ振り。

仕事もない、空いている時は勉強、それ以外は大御所の女性が回してくる仕事をやる日々。

そもそもよく考えたらこの方も部署移動したばかりで新人の身では?

そう思っても年齢と在籍年数に勝てる人がいない。

こんなふうに歳を取るものか。

そう決めて淡々とこなす。

身内には「仕事が出来るから。ゆっくりやって出来ないように見せ掛ければいいんじゃない?」と提案されたが、それはそれで私の矜持に関わる。


自分の勤める部署で自分の仕事がない。

これは孤独だった。

ついでに言うと、私は持病がある。

持病があるのを承知で雇ってくれる会社は少ない。

縋りついた椅子にいつの間にか涙が流れていた。

辞めたい。辞められない。

行きたくない。行かなきゃ。

相反する心情で、今日も仕事が終わり、明日がやってくる。


明日の私はどうしているんだろう。

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