魔術師vs魔術師
人々の持つ魔力が、その威力と性質を決定する魔術関数を通過することで、現象が生じる。
魔術とはそう定義されている。
基本、人間は身体に一つそれを持っている。しかし、それが使いやすいものであるとは限らない。
だから魔道書がある。それは詠唱によって魔導書に記された魔術関数を呼び出し、そこに魔力を通すことで現象を起こす。
どうやって詠唱によって魔術関数を呼び出しているのか。そこは不明だ。魔道具メーカーの企業秘密とされている。
戦闘用の魔導書の所持は厳しく制限されている。わざわざ血を滴らせるのも血紋認証といって、登録されていない人間に魔導書を使用させないためだ。
一般向けの魔導書には人を殺せるほどの魔術は記されていない。
そのため、黒魔術師が使える魔術は、身体に持つ魔術関数を利用する「固有魔術」一つに限られる。
つまり手数が違うのだ。
しかし、その基本は黒魔術師との戦闘での話だ。
組合の魔術師同士の戦闘、イーブンな環境で勝負を決めるのは詠唱速度、魔力操作、身体能力、固有魔術の質。
つまり、個人の実力、才能。
「黒雲、雨垂れ、閃光、鳴動。その意は迅--」
「胡蝶、飛翔、波及、遙遠。その意は旋風」
澄子に思わず笑みが溢れる。
詠唱速度はこちらが上。
ワンテンポ早い風魔法の詠唱。限界まで圧縮した空気の弾丸を少年に向けて高速で打ち出す。
少年は姿勢を崩しながらも回避。しかしその影響で打ち出された雷魔術は澄子から大きく離れた軌道を走った。
いける。押し込め!!
魔力で強化された脚力は二人の間の距離を一瞬でなかったものにした。
「だぁぁぁぁぁああ!!」
振り抜いた拳を少年は腕で受けた。
「っく…….」
彼が苦悶の表情を浮かべる。
魔力で強化された華奢な澄子の腕は、骨の歪な音と共に少年の体ごと商店街の奥の方へ吹き飛ばす。
「木花、煤煙、玉の緒、哀切、その意は業火」
詠唱をしながら駆ける。コンマ1秒ごとにその距離の差はゼロに近づく。
さっきみたいにガードはさせない。澄子は魔法で炎を纏った拳を少年の顔面に打ち据えた。
が、それは少年の頬を掠めた。回避した少年は炎を纏っていない腕部を掴み追撃を防ぐ。
「あんた、結構やるな……」
「それはどうも」
少年は息を切らしながら言う。
主導権は握れている。その自覚があった。