魔術
魔術による犯罪や事件の横行を許さず、市民を守る。それが組合の魔術師の仕事だった。
だったんだけど……
「ぶつかってきたのはそっちだろうがよぉ!!」
「おいおい、にいちゃん。嘘はよくねぇな。俺の腕ポッキリ折れちまったよ。どうしてくれるんだ?」
商店街の中で怒号が響いていた。二人ともかなり大きな声で言い争っている。
一人はガラの悪そうな大男。
もう一人は澄子と大して歳の変わらない、高校生くらいの背丈だった。体の線は細く、すこし伸び気味の髪が雑で荒っぽい性格をそのまま表しているようだった。
そして、その姿は澄子と全く同じだった。
ローブのようなジャケットを羽織り、袖には一本の白線の装飾。
間違いない。彼は魔法使いだった。
「はぁ、なんでこうなるんだか」
下を向いてため息をつく。小競り合いなどを見かけた場合、仲裁するのは魔術師の義務だった。
澄子は声のふっ掛け合いが行われている場所にトボトボと向かった。
道のど真ん中で怒号を交わす彼らを避けるように人々は歩いている。
勤務中にトラブルなんてない方が良いに決まっているのに、なんでわざわざ喧嘩を買うんだろう?
少年の行動が理解できなかった。
巡回中の少年に、柄の悪い男がわざとぶつかった。
会話を察するに、事の流れはそんなものだろう。
ただ、彼はあくまで、「市民を守る魔術師」だ。
どんな理由があっても、魔術師が市民を傷つけるというのは問題になる。
それなら理不尽を押し付けられようが適当に受け流せばいいのに。
口にする気もない考えをぐるぐると巡らせているうちに、澄子は二人の間に立っていた。
「はい。そこまで。今回はうちの魔術師が申し訳ありません」
突然現れた澄子に、一瞬、二人の口論が止んだ。
その隙を逃さず、魔術師の方の手を取る。
さっさとこんな場所離れちゃえばいい。
駆け出そうとして一歩を踏み出した瞬間、掴んだはずの手は振りほどかれた。
「は?」
思わず声に出てしまった。
「邪魔すんじゃねぇ!!俺が話したいのは、この当たり屋だ!!」
そういって少年は当たり屋に向き直る。
「おいあんた。当たってきたのはあんただよな?なのに俺に謝れ?ついでに金払え?おかしいだろ!!」
「な、何いってんだ。ぶつかってきたのはそっちだろ」
一瞬のうちに起こった出来事に、ガラの悪い男は少し動揺しているようだった。
「何いっても通じねぇみたいだな」
少年はローブのポケットから一冊、本を取り出す。革製の表紙で、新書程度のサイズだった。
あいつ、正気?
心中呟く、と同時にイヤな汗がつうっ頬の横をなぞった。
少年は親指を思い切り噛み、流れ出る血を白紙の本に垂らす。
その血が染み込むと同時に、白紙だったページにじわじわと文字が浮かび上がる。
「お、おい、お前何してんだ」
ガラの悪い男も少年が何をしようとしているのか察したのだろう。
一歩、また一歩後ろに後ずさる。
周囲を歩いていた人も大急ぎで駆けていく。
少年は指で銃の形を作り、その先を男に向けた。
まずい。そう思った時には足が動いていた。
あいつ、やばいでしょ……あの程度のことで……一般人相手に……
「黒雲、雨垂れ、閃光、鳴動……」
魔術を使うの?!
「その意は迅雷」