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第80話 ノベルノア開通! 走れ、スローライフ急行!

 春爛漫。花の香りが風に乗り、街の輪郭を柔らかく彩っていた。


 筆の家ログハウス周辺、通称〈ノベルノア〉と呼ばれる新興集落。いや、もはや立派な“街”の域に達していた。


 木の板で作られた仮設通りが、きれいに石畳へと変わり、商業区の店舗には早くも看板が取り付けられ始めている。広場には子どもたちの笑い声が響き、大人たちは「春野菜が安い」と袋いっぱいにレタスやトマトを抱えていた。


「ノベルノア、まるで生きてるみたいだねぇ……」


 ログハウスのテラスから眺めていたリュウが、ぼそりと漏らした。


「なんか、街が自分で広がっていくっちゃ感じたい」


 隣で暖かいお茶を啜っているのはルナ。春服になったことで、フリルつきの白いチュニックがふわふわと揺れている。


「でもさ、リュウ。また新しいことば思いついとらん?」


「……なぜわかる」


「その顔がすべてを物語っとるけん」


 と、そこへパカラッパカラッと軽快な馬のひづめの音が聞こえ……


「来たな! 循環馬車第一号!」


 リュウは手すりから身を乗り出す。道の向こうから現れたのは、新造の板バネサスペンション付きキャビンを引く真っ白な馬。そしてその天井には……


「わー! 筆の家マークがあるー!」

「おぉぉ、揺れとらん! すごいのぉ〜」


 街の住人たちが口々に驚きの声をあげる。


 馬車の天井には、筆とインク壺を象ったマーク。側面には「ノベルノア循環便」と金文字で書かれている。中には十数人が座れるベンチがあり、外から見ても明らかにふかふかそうだった。


「乗ってみる?」


 リュウがルナを誘うと、「しかたなか」と言いながらも彼女はうれしそうに頷いた。


 ふたりは馬車に乗り込む。ふわっ……と身体を包み込む座席。サスペンションの力で、走っていてもまるで風に運ばれているような滑らかさ。


「うわ……まじで揺れんね、これ」


「……俺、ついに……文明、起こしちゃったかも……」


「いや、自画自賛すぎるやろ」


 ◆◆◆


 その日、ノベルノアを一周した馬車は、市民から拍手で迎えられた。まるで街の“動脈”が開通したかのように、移動の自由がもたらした解放感は大きかった。


「こりゃ、次は定期便の時刻表も作らんといかんね」


「あとさ、循環馬車って名前も微妙じゃない?」


 ルナが呟く。


「もっと、こう……スローライフ急行とか、筆の家ラインとか、オシャな名前にしたら?」


「確かに。『ノベルノア・インクライン』とかどうかな」


「ちょっと中二病たい……でも嫌いじゃなか」


 ◆◆◆


 その晩、筆の家ログハウスの食卓は、ひさびさに全員集合だった。


 ティアが手描きのノベルノア地図を持ってきて、エルドが「俺の研究所はモニュメントの真下が良い!」と駄々をこね、ルナが「まーた幼女像とか言い出したらマジで砂に埋めるけん」と脅していた。


 マオはというと……


「芋バスの運行はまだか!」


「勝手に別ライン作ろうとすんなよ!」


 街が動き出せば、新しい生活も生まれていく。


 ノベルノアという新たな舞台に、さまざまな物語が芽吹き始めていた。

 

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