第74話 団子旋風!甘じょっぱ革命、王都を包む
筆の家王都支店、朝。
まだ朝もやの残る通りに、ひときわ存在感を放つ看板が掲げられた。
《本日限定! 焼き団子・炙り砂糖醤油仕立て》
「よし、これで準備は万端だな」
リュウが看板を見上げてうなずく。
「それにしても……なんで団子だけでこんなに人が並んどると?」
店先に出てきたルナが、軽く引き気味に見渡す。
リュウの目の前には、すでに開店前から伸びる長蛇の列。
それも老若男女問わず、子供からお年寄りまでが列を成していた。
「噂は風に乗って広がるんだよ、特にこの香ばしい匂い系は」
「まったく、どんだけ鼻に訴えかけるんやら……」
支店の炙り台では、ミランダを筆頭とする厨房亭のスタッフたちが、炭火で次々と団子を炙っていた。
ジュッ……と砂糖醤油が焼ける音。
甘じょっぱい香りが通りを包み、人々の胃袋を鷲掴みにしていく。
「ほれっ、お待ちかね、焼きたての団子だよ!」
フィナが元気よく声をかけながら串を手渡し、
「ひとり一本までだよ~!」とモモが列の整理に奔走する。
「……んっ、うまぁっ!? なにこれ、もっちもちやんか……」
「甘じょっぱいのがたまらんっ……っ! これ、茶が欲しくなるな」
「味噌玉、おにぎりに続く、筆の家の新名物だと……!?」
筆の家、革命食品が今ここに、誕生した。
◆◆◆
「……というわけで、またおまえは王都で革命を起こしてしまったのだな」
王宮の執務室で、書類の山を抱えながら宰相ラグレスが溜息をついていた。
「民の声は届いておる。今日も筆の家に行列が出来ているそうだ」
「筆の家……今度は団子か……あれ、私も好きなんだよな……」
小声で呟くレオの声を聞き流し、ラグレスは扉を叩いた。
「内密に手配せよ。王宮に“あれ”を運ばせるのだ。例の……“団子”をな」
筆の家本館、宙庭。
「……さて、スイーツ革命大成功、と言いたいが、これ絶対、次は団子工場作れとか言われるやつだ……スローライフ、どこ……」
「でも、リュウ。団子って冷えても美味しいたい。保存も利くし、冬の定番になるばい」
「……うん、それは嬉しいけど……」
その時。
「リュウくーん! 団子屋台で幼女に団子を手渡す役、空いてるかな!? 団子の香りと小さな手のコラボ、至高だと思わない!?」
「エルド、お前、宙庭から今すぐ出て行け!!」
ハンモックごと転がり落ちたリュウの絶叫が、空に響いた。
◆◆◆
筆の家・厨房亭、本日も満席御礼。
団子の香ばしい匂いが立ち込める中、カウンターの一角にはひとりの少年が座っていた。
「ルナさん、今日も団子3本と味噌汁。あと、できれば……焼き加減は“少しカリッと”でお願いしたいです」
「また来たとね、レオ……。王子やけん、せめて厨房亭の裏口から入らんね?」
「えー、ちゃんと順番待ちしてるし、注文も控えめでしょ?」
「アンタが座っとるだけで周囲がぎょっとしとるっちゃけん……!」
ルナがため息をつく横で、レオは焼き団子を受け取り、うれしそうにひとくちかじる。
「……ふふ。やっぱり美味しいな、これ。王宮で食べるより、ここで食べるのがいちばん好き」
「そげなこと言って、厨房のミランダさんは毎回プレッシャー感じとるとよ……」
「リュウくーん! 今団子って何本目の焼き上がり? あ、あとさ、串のサイズもう少し短くして、持ったときに“幼女の手のひら”にフィットするようにっていう試作を――」
「変態お断りィィィィ!!」
エルドの声と、ルナの鉄拳が響き渡る厨房亭。
その様子を見ていたレオは、ふふっと笑った。
「……やっぱり筆の家って落ち着くなぁ。ここに来れば、美味しい団子と……うるさいけど楽しい人たちがいる」
◆◆◆
一方、王宮では
「またですか、またですか宰相ッ!」
第一皇太子付き教育係スパルスが机を叩いた。
「王子殿下は本日も“魔法の扉”を通じて筆の家に出向かれました。3日連続ですぞ!」
「なにが問題だというのだ、ラグレス」
宰相ラグレスはお茶をすすりながら言う。
「我が国の皇太子が民とともに食を楽しむ。それがどれだけ民心を安定させると思う?」
「せめて、せめて筆の家での飲食と時以外だけでも勉学に励んでいただきたい……!」
「よろしい、団子は王宮内に運ばせよう」
「宰相ォォォ!」
◆◆◆
「はぁ~……団子で王都も王宮も巻き込んじゃったよ……」
リュウは宙庭のハンモックに沈み込み、耳元で甘じょっぱい香りを思い出す。
「で、次はなにを作るんね?」
ルナが微笑みながら茶を差し出す。
「次はきな粉味の団子かな。エルドに大豆の加工を任せてる。……なんか、またスイーツで革命が起きそうな気がしてきたよ……」
「革命しすぎやけん、休んどき!」
「俺のスローライフは、どこいったぁぁぁあ!!」
今日も筆の家には、団子と笑い声と、リュウの魂の叫びが響いていた。
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