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第73話 宙庭茶室と、甘い団子と、スローライフ未満

 ルミアステラ王国、冬真っ盛り。

 雪が音もなく降り積もり、大地を白銀に染めていた。


 だが、そんな季節感とは真逆の空間がひとつだけ、この世界に存在していた。


 それが、筆の家の遥か上空。

 リュウが執筆して作った異空間、通称「宙庭そらにわ」である。

 現在は魔法の扉でログハウスと宙庭の茶室とを繋いでいる。


「ふぅ~~、やっぱここは極楽だわ……」


 茶室の縁側にハンモックを設置し、緩やかに揺られながら、リュウは湯気の立つ湯呑みを傾けた。


 この空間、なぜか季節の影響を受けない。

 天気も気温も常に穏やかで、風は優しく、鳥のさえずりまで完備している。最強の癒しスペースだ。


「雪降る外でストーブ抱えてハンモックなんて、正気の沙汰じゃなかったしな……ここが俺の正解……スローライフ完全体……」


 そのとき


「リュウ、また何ば企んどるとね?」


 ふわりと襖が開いて、湯たんぽ抱えた猫獣人ルナが顔を出す。


 彼女もすっかりこの空間に魅了された一人だ。

 寒さが大の苦手なルナは、いまや“茶室の守護神”として入り浸り生活を送っていた。


「いや~、ほら、茶室ってさ……」


「……?」


「お茶飲んでたら、なんか……こう、甘いモノが欲しくなるじゃん?」


「甘いもん?」


「小豆ねぇんだよ、この世界……。餅も無いし。餅米も無いし……」


「……またなんか思いついた顔しとる」


 ルナが眉をひそめたその瞬間


 リュウは、閃いた。


「団子だッ!!」


「だんご?」


「そうだよ、ルナ! 団子ならササニシキで作れる! 甘じょっぱいタレを絡めて、炙って……うわぁ~想像しただけで腹減った!!」


「……つまり、スイーツ革命の香りたいね?」


「その通り。スローライフの名のもとに、王都に団子革命を起こす!!」


「……あんた、スローライフの使い方間違っとるばい」


 ◆◆◆


 こうして、団子作り計画が始動した。


 まずは素材。

 “ササニシキ”を精米し、乾燥、粉砕して“上新粉”を作る必要がある。


 リュウはログハウスの一角に設置された加工場へと向かうと、木樽の中にササニシキをザザッと流し込んだ。


「エルドー! 風のマジックスクロール準備してー!」


「はーいリュウくーん。風の女神様にちょっとお願いしちゃうぞ」


「なんでお前、風属性だけテンション高いんだよ……」


 エルドが木樽の内側に魔法のスクロールを3枚設置すると


 シュオォォォォ!


 木樽の中で風が竜巻のように渦を巻き、ササニシキが宙を舞いながら乾いていく。


「よし、このまま完全乾燥まで放置っと……。問題はそのあとだ」


 リュウは臼と杵を出す。


「ついでに粉砕作業も自動化してぇな……」


「無理やりじゃなかと!? 自分で搗きなさいってば」


 結局、臼と杵でリュウが一生懸命ササニシキを搗く羽目に。


「……スローライフどこぉぉ……」


 ルナは頬を膨らませながら、その姿を眺めていた。


 ◆◆◆

 

「ふぅ~~、やっと粉になったぁ……」

 リュウは臼を前にして、ぐったりとハンモックにた沈んだ。


 目の前の桶には、きめ細やかでほんのり甘い香りのする、

白いササニシキ上新粉が山のように盛られている。


「まさかこの世界で、米から作るとはな……完全に和菓子職人じゃん、俺」


「なにニヤけとると?」


 上新粉にぬるま湯を加え、木べらで捏ねている。


「水の量は0.8……耳たぶくらいの柔らかさになったら丸めていくんだったね」


「……なんで知っとると?」


「なにせ俺、日本人だからな……!」


 ルナは一瞬キョトンとした後、ふっと笑った。


「たしかに、リュウは“いっつも美味いもんのことだけはすぐ思いつく男”やけんね」


「褒めてないよな、それ」


 鍋に湯を沸かし、団子をひとつずつ投下。


 プカッ……プカッ……


 浮かび上がってきた白い団子たちに、リュウのテンションも浮かび上がる。


「うおおおお、来たこれ! 団子になってる!」


「当たり前たい。団子ば作っとるとやろ」


「あとは串に刺して……炙ると、香ばしさ爆誕タイムだぜ……!」


 炭火の用意はルナがしてくれていた。


 団子を3つずつ串に刺し、焼き網に並べる。

 やがて、表面にうっすら焼き色がついてきた頃


「よし、いける! 砂糖醤油、準備!」


 リュウが取り出したのは、秘蔵の【炙り団子専用タレ】。

 砂糖を煮詰めて醤油と絡め、わずかにとろみを加えた黄金比の甘辛ダレである。


 それを刷毛で団子に塗り、再び炭火へ。


 ジュウッ……!!


「……っ!?」


 その瞬間、甘くて香ばしい匂いが、芋王城まで突き抜けるようにログハウスを包みこんだ。


「リュウ……この匂い、やばいばい……っ!」


「うおおおおお、香りが暴力的……!!」


 リュウとルナは団子をそっと口に運ぶ。


 外はほんのりカリッと、中はもっちり。

 炙った醤油の香ばしさに、砂糖の甘みが追いかけてくる。


「ん……んんんんっ!」


「おいしっ……おいしかばい……っ!」


 二人は言葉にならないまま、もう一本、また一本と団子を平らげていった。


 その頃


 筆の家本館ログハウスの厨房では、ミランダが鼻をひくつかせていた。


「……この甘辛く、焦げた香ばしさ……。まさか」


 扉がバンッと開き、エルドが駆け込んできた。


「リュウくぅぅん! すっごい香りが漂ってきたよぉ! 甘辛香ばし幼女味ってやつ!? ごちそうさまでーす!」


「その最後のワードはおまわりさん案件や!」


「そもそも食ってねえだろ!」


 こうして、筆の家に、新たな革命の香りが立ち上った。


 次なるステップは、この“焼き団子”を、王都のスイーツにすることである。


 リュウは立ち上がり、空を見上げながら高らかに宣言した。


「王都に、スイーツ革命を起こすぞぉぉぉぉ!!」


「……でも、寒かけん、あんまり出たくないばい」


「そこはがんばろうよ、ルナぁぁぁぁ!!」

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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