表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/76

第五十七話 スローライフには戻れないけど、悪くない日々

 舞踏会の翌朝。

 王都ルミアステラの空は、まるで何もなかったかのように澄み渡っていた。だが、筆の家だけは例外だ。


「おい誰だー! また冷蔵庫の芋ぜんぶマオ様用に移したやつー!」

「魚介の在庫、倍に増えとるやん! 誰のせいー!」

「王宮から感謝状が届いたってよーーー!!」

「いらねええええええええええええええ!!!」


 リュウの魂の叫びが、厨房の壁に木霊した。


 ルナが豪華な蝋封の封筒を開き、ティアとともに呆れ顔で報告する。


「ほんとに来たんだ、感謝状。しかも“筆の家全体”じゃなく、“リュウ殿個人宛”……」

「王様、筆の家を“国家レベルの宝”って呼んでたらしかよ?」


 リュウは封筒を握りしめ、重苦しくため息をつく。


「王族イベント、二度と関わりたくない……!」


 すると、玄関の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは王子レオ。


「やぁ、リュウ」

「うおっ、まじで来た!? 護衛は!? 護衛どこ行った!?」


「近くにいるよ。今日は一人で話がしたくて、ちょっとだけ抜け出してきた」

 

 レオはスッと手紙を差し出す。


「これは僕個人から。君たちに助けられたお礼と……

 それから、舞踏会の件、ちょっと話があるんだ」


 リュウとレオは並び、静かにお茶を啜る。昨日の喧騒が嘘のような落ち着きだ。


「結局、僕は踊ったけど……誰とも“決まらなかった”よ」

「そうなんだ。……まぁ、なんかそういう気はしてたけどな」

「うん。でもそれでよかったと思う。誰かを“選ばされる”より、いつかちゃんと“選びたい”って気持ちを大事にしたかったんだ」


 リュウは少し照れ笑いを浮かべる。


「……なんか、大人になったな。……あ、年齢は元から俺より下だけどな」

 レオがクスリと笑い、リュウの手をそっと掴んだ。


「君の料理があって、君の仲間がいて……そして、君自身がいたから、僕はあの夜、ちゃんと王子としての責任を果たせたよ」

「……そっかよ」

「でも、君は君のままでいていいと思う。スローライフを目指す筆の家の主。僕の憧れの人だ」

「やめろやめろ、くすぐったいから!」


 リュウは慌てて湯呑みを顔に寄せるが、頬は少し高揚していた。


 夜、屋根の上ではマオが、いつものように芋を干している。


「ふふ……この空気、やはり我の第二の魔王国にふさわしい……」

「やめろって、そのネーミング!!」

 リュウのツッコミが焚き火の火花に混ざって飛ぶ。


 ルナはスープをかき混ぜながら目を細める。


「でも、なんかん〜……ようやく落ち着いた感じやね?」

「そうね。事件も終わったし、舞踏会も大成功。

 ……しばらく、静かになるかしら?」

「いや、逆にそろそろ“次の騒動”来そうな気がしてきたんだけど……」

「不吉な予言はやめい、今だけは、平和を味わわせてくれ」


 こうして、また一日、筆の家ににぎやかで、やかましく、でもあたたかい日々が戻ってきた。

 スローライフには、ちょっと遠い。

 でも、それもまぁ、悪くない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ