表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/77

第57話 バレる? バレない? 神のスリルゲーム

 王都ルミアステラ。筆の家 王都支店。


 朝の営業がひと段落したころ、普段より明らかに異質な来客があった。

 上質な法衣、整った顔立ち、無駄のない動き


「ご来店……ありがとうございます?」

 フィナが戸惑いながら頭を下げる。


 その人物は、周囲を静かに見渡してから、口を開いた。


「私はセラフィエル教の枢機卿、ディアノス・エルシオール。…ここに“神聖なる気配”があると聞いてきた」


「えっっ……は?」


 フィナの背筋が凍った。モモも持っていたにんじんをポロリ。


「り、リュウさん!ヤバい人来てるよおお!!」


 ◆◆◆


 リュウ、本拠地でハンモックから転げ落ちる。


「はァァァ!? 来たの!? 今!? なんで今来るの!?」


 ティアがすでに制服に着替えながら言った。


「今からでも王都支店に向かいます、エルドも来てください」


「僕、今日の天使将棋トーナメント係じゃなかった!?」


「任務優先、さあ変態、動いて!」


「扱い!?」


 王都支店、店内。


「これが……“筆の家”……神の息吹が漂っているようだ……」

 枢機卿ディアノスは、静かに目を閉じて言った。


 そこへ、駆けつけたティアとエルドが登場!


「お初にお目にかかります、こちら筆の家研究部門の代表補佐、ティア・リュミエールと申します」


「わたくしは補佐の補佐、魔導スクロール担当、エルド・マクシミリアン。専門は愛とロマンとたまに実用です」


「余計なの入れんな!!」


 ティアの肘打ちがエルドの肋骨に突き刺さった。


 ディアノス、店内をじっくりと歩きながら語る。


「この空間……穢れがない。光がある。しかし、それはまるで……“誰かの意志”で磨かれたような……」


 ティアが冷や汗を流しながら笑う。


「こ、ここは……皆さまにとって“癒しの場所”でありまして、いわば地上の……“神殿サウナ”みたいな?」


「つまり、神が……サウナに降臨してると?」


「ええと……はい?」


 ◆◆◆


 その頃、宙庭では


「リュウ、我は……暇である」


「セラ様、ダメ!! 今出たら大変なことに!!」


 リュウは両手を合わせて必死。


「お願い! いまだけは! おにぎり追加で握るから!! 芋プリンもセットで!!」


「……芋プリン。“許可”する」


 セラフィエル、再び将棋盤へ。現在49勝1敗(唯一の敗戦はティア)。


 ◆◆◆


 一方の王都厨房亭では、ディアノスがカウンターに腰を下ろし、静かに味噌汁を飲んでいた。


「……これは。どこかで、食べたことがある味……」


「ま、まさか!?」


「……いや、記憶違いか。どこか“神に捧げる供物”に似ていたのだ」


 ティア・フィナ・エルド:「ヒィィィィ!!」


 そして退店時。


 ディアノスは一度だけ、振り返って言った。


「……その“気配”が、どうか悪しきものではないことを、願っている」


 にっこりと、まるで“全てを知った上で黙っている”ような微笑みを浮かべて。


 筆の家、全員の背筋がぞくりと凍った瞬間だった。


 リュウ、本拠地でハンモックに顔をうずめて叫ぶ。


「こえええええええ!!! 絶対気づいてただろあれええええ!!」


 ルナが笑いながら肩をぽんぽん叩いた。


「うちが味噌汁、ちょっとだけ神々しく作りすぎたとよ」


「やめてよぉぉぉぉぉぉ!!」


 ◆◆◆

 

 ディアノス・エルシオール枢機卿の王都視察は、ついに最終日を迎えていた。

 その姿は変わらず穏やかで、瞳は静かに何かを見透かすようだった。


 教会への帰路、彼は最後にもう一度、筆の家 本拠地を訪れた。


 リュウ、ルナ、ティア、ミランダ、そしてマオまで揃って正座でお出迎え。


「ようこそ……ご来館いただき、光栄です」


「その様子、まるで裁きを待つ者たちのようですね」


 ディアノスは微笑んだ。柔らかく、けれど、やはり“深い”。


 ログハウスの応接間。

 リュウは心臓バクバクでお茶を差し出した。


「どうぞ、これはうちで育てた茶葉を焙じて……」


「いただきます」


 すす


「……素晴らしい。神にも捧げられる味だ」


 バシャッ!!!


 リュウ、見事にお茶を吹いた。


「それやめてくださいぃぃ! なんか怖いですぅぅぅ!!」


「ふふ、すまない。だが、真実を言っているだけですよ?」


 ティアがそっと口を挟む。


「枢機卿殿……やはり、何か……お気づき、なのでは?」


「“何も知らない”という顔で、正体を隠すのは得意ではないのですよ、貴女方は」


 ディアノスは、窓の外を見た。

 そこには……まるで、どこかを眺める天使の気配があった。


「我々セラフィエル教は、“神の復活”を恐れてなどいません」

「ただ、“復活の意味”を問うだけです」


 静かに、けれど確かに、ディアノスは告げる。


「その方が、我々が信じる“セラフィエル”そのものなら」

「それが、芋を頬張ろうと、味噌汁を好もうと……それもまた、神の姿の一つなのでしょう」


 ◆◆◆


 その頃、宙庭の茶室では


「ふむ……本日の芋プリン、前より甘さ控えめ。だが、香りは増しておる」


「さすがセラ様、コメントのプロ……」


 エルドが背後で涙を浮かべて頷いていた。


 ◆◆◆


 帰り際、ディアノスはリュウにだけ、静かに語りかけた。


「リュウ殿、貴方は“筆を通じて世界を変える者”……でしょう?」


「……まぁ、なんか、結果的にそうなってる気がしますけど」


「ならば、それもまた、神の使徒の一形かもしれません」


「やめて! 急にそんな設定背負わせないで!? スローライフ派なんで!!」


「ふふ……では、最後に」


 ディアノスは背を向けながら、ふっと笑みをこぼした。


「“セラフィエル様に、味噌玉をよろしく”」


「やっぱりバレてたァァァァァァァァ!!」


 そして枢機卿ディアノスは静かに王都を後にした。


 王は胸をなでおろし、宰相ラグレスは深く息を吐き、リュウはハンモックに突っ伏していた。


「……もうだめだ……俺のスローライフ、神に捧げられちゃったよ……」


 ルナがクスクス笑って言った。


「次は神様本人が来たりしてね」


「来んなあああああああ!!!!!」


 こうして、筆の家は神すら抱える“癒しの拠点”として、静かにその名を広めていくのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ