表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/76

第五十一話 ワガママ少年、爆誕す

 まだ陽の光も柔らかな時間帯。筆の家の木製の廊下に、低く響く声がこだました。


「ふむ……足が、軽い。背も……低い。鏡はどこだ? 余の威厳を確認せねば」

 マオはまだ慣れぬ十四歳の体を確かめるように呟き、廊下をそろりと歩く。


「ちょっとマオ! パジャマのままうろつかんと! 朝食前に顔を洗いなさいってば!」

 ルナがタオルを握りしめ、颯爽と駆け寄る。


「我は魔王であるぞ!? 洗顔など、側近の仕事ではないのか!?」

 マオはふんぞり返り、片眉を上げる。


「ちがーーーう!!」

 ルナは躊躇なくマオの耳を引っ張り、強制的に洗面所まで連行した。マオはむくれつつも、洗面台に無抵抗で顏を寄せる。


「……まるで猫やね。されるがまま」

「されるしかないというか、気づいてないまであるよね」

 廊下の陰で見守るティアとロッテが、小声で笑い合った。


 食堂にて、和やかな朝食の準備が進む中、マオは席に着くと堂々とメニューを告げた。


「ごはんは白米と味噌汁、焼き魚、漬物に煮物……そして芋だ」

「朝から品数、多っ!?」

ミランダが慌ただしく大皿を並べながら驚く。


「食卓は“国の縮図”である。多ければ多いほど、国が豊かになるのだ」

 マオは誇らしげに顔を上げる。


「国運までかけるな朝食に!!」

 ミランダはまな板に突っ伏しながら呟いた。


「……はいはい。卵焼きも追加ね。ところで、この子、王族育ちか何かなの?」

「魔王族です」

「納得したわ」

 ミランダが頷き、黙々と卵を焼き始めると、マオは満腹そうに腹をさすった。


「では、余の任務に戻るとしよう」

「ん? 何するの?」

「屋根で芋干しだ」

「やっぱり芋か」

 マオは涼しい顔で立ち上がり、背後の階段を上っていった。


 昼下がり、ぽかぽか陽気の下、屋根の棟に並ぶ芋の列。その傍らで、マオは心地よさげに目を細める。


「よい……芋の香りと共に眠るこのひととき……これぞ真の平和……」

 マオは両手を腰に当て、満足げに空を見上げた。


だが、その瞬間──。


「ダルクス様ァァァアアアア!!!」

 木霊のように響く大声とともに、空気が震えた。


「!?」

 マオが慌てて飛び起き、リュウもハンモックから跳ね起きた。


「な、なに!? 空から!? あれ翼っ!? って、女の人が三人!?」

 リュウの叫びに、ティアとルナも庭先に出て空を見上げる。


 屋根に降り立ったのは、真っ黒な翼を持つ三人の魔族の女性たち。眼光鋭く、マオを見据えていた。


「ま、魔王様!? まさか、その姿は……」

 一人が震える声で問いかける。


「ふむ、久しいな。我が忠実なる側近、否、世話係どもよ」

 マオは肩をすくめ、かつての威厳そのままに挨拶した。


「やっぱり世話係だったぁああああ!!!」

 リュウの絶叫が、青空に高くこだました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ