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第二十一話 商人の誘い、王都へ進出!?

 朝靄の中、ログハウスの台所にバターの焦げる甘い香りが満ちる。木製の薪ストーブの炉口では、チーズとバターがたっぷり染み込んだ黄金色のジャガイモがじゅうじゅうと音を立て、湯気をくゆらせていた。


「ん~~~っ! やっぱこの香り、たまらんばい!」

ルナが夢中でフォークを突き立て、ほくほくのじゃがバターを口に運ぶ。


「朝から芋でテンションMAXなのは、お前ぐらいだぞ……いや、エルドもか」

 リュウはポケットからクリップボードを取り出し、取引書類の到着を確認しつつ笑う。


「芋は正義です! 芋こそ至高です!!」

 エルドはすでにフライパン一杯分の刻みチーズをじゃがバターに重ね、「さらなる美味を追求せよ」とばかりに頬張っていた。


 だが、その平穏を破るように、外から軽やかな足音とお馴染みの声が聞こえてきた。


「リュウさん、いらっしゃいますかなー?」

 庭先のドアがノブを回って開き、にこやかな商人がぴょこんと頭を覗かせる。手には分厚い書類と、カラフルなパンフレットを小脇に抱えていた。


「いるけど、朝のジャガイモ最中なんで、手短に頼むぞ?」

 リュウは慌ててエプロンの紐を直しながら呼びかける。


「そう仰ると思って、特製ジャガイモ味クッキーもご用意しました!」

 商人は得意げに袋を差し出し、ルナとエルドも思わず手を伸ばす。


「じゃあ今すぐ話を聞こう。用件は何だ?」


 商人は一呼吸おいて、満を持して地図とプランを広げた。


「ズバリ、王都に直営店を出しませんか?」


 ルナが思わず床に落としたひと切れがトントンと跳ねる。 エルドはクッキーを口に詰めたまま目を見開いた。


「……なんだって?」

 リュウは一瞬、スプーンを空中で止め、事態を呑み込もうと必死で脳を働かせる。


「お店です! 野菜も果物も、エルドのスクロールも、今や“筆の家”ブランドで大人気! 王都中で話題沸騰です!

『農作物に魔力が満ちている』だの『手書き巻物が安定爆発する』だの、お客様の嬉しい驚きの声が絶えません!」


「その後半、完全に私のせいだけどな!? ティア様にも褒められたバーター・スパークだし!」

 エルドが得意げに胸を叩く。


「落ち着けエルド。最近“光るポテト”とか試作品を出してるから、評判ヤバいぞ?」

ルナが呆れ顔で制し、商人は地図上の一等地を指差す。


「ここです! 城下町最大の市場前広場、空き物件が出たのは奇跡なんですよ! 直営店を構えれば、収益は今の三倍、いや四倍見込めます!」


「王都かぁ……人も多いし、騒がしい人も多そう……それに毎日通うの、面倒くさくないか?」

 リュウは眉間にしわを寄せ、地に足が着いてない様子。


「うちが接客するけん、リュウは執筆に集中してよかよ!」

 ルナが笑顔でひと押し。ティアも静かに頷き、穏やかな目で励ます。


「つまり全会一致で出店賛成ってことですね!?」

 商人はその場でガッツポーズを決め、エルドは眼鏡をくいっと押し上げた。


「いや、俺だけ反対なんだけどなぁ……」

 リュウは申し訳なさそうに頭を掻く。だが、その口元には決意の色も垣間見えている。


「……でもな、芋で人が笑顔になるなら、やらんわけにはいかんな」

 ついにリュウは小さく呟いた。


 ルナとティアは同時に笑みをこぼし、商人が万歳三唱をする。


「よう言うたばい、リュウ」

「“筆の家”、王都進出、始動じゃ」


 こうして、新たな舞台は王都に移される。

 直営店開業、顧客獲得、商品の魔力調整。

 だが、この先リュウはまだ知らない。

 筆先が開く“扉”が、単なる商圏拡大を超え、想像を絶する冒険へと彼らを誘うことになるのを。

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