1:市街の屋台で一番おいしいのは串焼きだ
「まあ、よくこの三人に決めたもんだよね」
石垣に座ったコーラは足をぶらぶらさせる。DDはその言葉に深く頷いた。DDの鼻先で、コーラの編み上げブーツのつま先が行ったり来たりしている。
「慧眼この上ない。誰が決めたのか知らないけど」
コーラの背後には、真っ青な空が広がっている。秋晴れの午後、DD、コーラ、アールの三人は、古い城壁の残る広場の一角にいた。旧王族の宮殿跡地が市民の憩いの場として提供されているその場所は、昔から三人の溜まり場だった。
「絶妙な人選だよね」
DDの隣で石垣にもたれているアールも同意を示す。目元まで隠している白に近い金髪が、秋の午後の日を受けてキラキラしていた。
まばらに生える木々を抜けてきた風が、さあっと草の頭を撫でていった。
三人は事あるごとにここにたむろした。幼いころから馬が合って、十年以上つるんできた三人だ。十九のDDと、二十歳のアールとコーラ。DDとコーラはいとこ同士、コーラとアールははとこ同士。つまりDDとアールも親戚だが、複雑な血縁関係のため、三人とも実はどういう血のつながりなのかきちんとした説明はできない。たくさんの家族と、たくさんのきょうだいと、たくさんの親戚。
多くのことを共有している。もしかしたら共有していないことのほうが少ないかもしれない。三人は、いいことがあった時も、そうでないことがあった時も、話したいことがあった時も、何も話題がない時も、つまり四六時中、一緒にここにいた。
遠くへ目をやる。広場敷地のなだらかな起伏の向こうには、町の市場が見える。領主の住む館を中心に広がった市街の建物の背は低く、古い石造りの館や、雑なつくりの屋台が寄せ集まっていて、まるでひっくり返したおもちゃ箱のように雑然としている。遠く離れているのだから聞こえるわけはないのだが、街の、人々のざわめきが耳の奥から湧き上がってきて、まるで今あの喧騒の中にいるように感じる。
「私の事情に二人を巻き込んじゃったみたいで、悪いな」
隣で呟いたアールに驚いて横を向くと、コーラの声が上から降ってきた。
「どうしちゃったの?アールらしくもない」
コーラのブーツの踵が城壁を蹴ると、崩れかけている壁から石のかけらが転がり落ちる。とんでもなく古い石垣だからいつ倒れてもおかしくないのに、コーラの足は苛立ちそのままにガツガツと蹴りつけるから、DDはハラハラする。
「コーラ、やめて。古いんだから」
上に向かって言ってから、DDはアールのほうを向いた。
「一人で行くよりいいだろ?」
隣の、前髪に隠れている目を覗き込むと、アールは無表情のまま顎をひく。いつも飄々としているアールがこんなことを言うなんて初めてだった。
「期限は一年だ。三人ならどうにでもなる」
DDは言い切る。
風が、三人のほうから市街の方へ吹き抜けていく。見渡す限りの草っぱらに咲いた、白い小さな花が一斉にさざめく。さざめいているのは風なのかそれとも草花なのかという古い問答を思い出す。
生まれた時からここにいて、別の土地へ行ったことはない。馬車で五日という隣国の首都が遠いのか近いのか、DDにはよくわからなかった。が、そこへ行ったらしばらくは、ここには戻って来られないだろう。
見上げると、二メートル近い高さの、半分崩れた不安定な石垣の上に腰かけて、コーラは吹く風に髪をなぶらせている。細いくせに量の多い茶色の髪が絡まりやすいことを、コーラはいつも嘆いていた。だからここに来るときはいつもスカーフで髪をまとめていたのに、今日はふきっさらしにしたまま、顔を太陽のほうへ向けている。ここに吹く風の匂いを、髪に含ませているかのようだ。
「素敵なおじさまとの出会いがあるといいなあ」
コーラの声は風に乗って市街のほうへ流れていく。