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おまえが神様やってみろ

作者: D9610

   おまえが神様やってみろ




 神代光は、三十二歳の冴えないサラリーマン。残業帰りに夜空を見上げ、ため息をついた。

無意味な上司の叱責、政治家の汚職、SNSでの炎上騒ぎ。ニュースを見れば、世界は終わる寸前に思えてくる。

彼は疲れ果て、深い虚無感に囚われていた。

「なんでこんなに世界はクソなんだ……。神様ってやつがいるなら、ホンット無能だな」

 その瞬間、空が割れるように眩しい光が降り注ぎ、ぴっしりとしたスーツを着た厳つくも神々しい老人が現れた。

「おい、お前。今なんつった?」

 突然の登場に、光は呆然として立ち尽くした。

「おい、お前だよ。お・ま・え」

 老人は光に詰め寄り、舐めるように睨みつけた。

「あ、あなた一体なんなんですか……?」

「あ? 見りゃわかるだろ? 神様だよ。か・み・さ・ま!」

「は……?」

 混乱する光にかまわず、神は強引に話を続けた。

「お前、私のことを無能だとか言ってたよな? だったら、お前が神様やってみろ」

「は……?」

 眩い光が全身を覆った。


気づいたときには、光は真っ白な新世界に立っていた。『創造の力』と『不老不死』を与えられた神として。


「ふざけんな! 元の世界に戻せ!」

「なんだ? 戻りたいのか? クソだとかなんとか言ってたくせに。お前には今、全知全能の力があるんだぞ。クソみたいな世界に戻る必要なんてない……造ればいいだろ? お前の理想の世界ってやつを」

「……確かにそうだな。いいだろう! つくってやるよ! あんたがつくった世界よりも完璧で美しい世界を!」


 光はすべてをゼロから創ることを決意した。まずは、新世界にふさわしい完璧で美しい生物を造ることにした。

「なぜ人間がああも醜く愚かな生き物になったのか……。それは欲望が原因だ。ならば、それを排除すればいい」

 光は欲望を取り除いた新たな生き物を創り出した。彼らは感情を持たず、知性だけでうごく。計画通りの作業をし、必要最低限の食事を摂り、争いもせず、効率よく生きていく存在だった。

彼らは失敗などせず、世界は安定した。殺人も戦争もなく、清らかな静寂が続く。まさに光が思い描いていた完璧で美しい理想の世界だった。


「どうだ! 見たか神様! これが俺の世界だ!」

「なるほどなるほど……素晴らしい」

 老人は感心したように頷いた。

「よし! お祝いにお前を元の世界に戻してやろう」

「は? あんたが創った出来の悪い世界にか? やだね! 俺はこの世界で神として君臨し続ける!」

「そうか……わかった。だったらたっぷりと堪能するがいい。神様ってやつを……」

 老人は意地の悪い笑みを浮かべ、煙のように消え去った。


穏やかで美しい神様生活が始まった。貧困も差別も争いもなく、優しい時間がながれつづける。

だが、数年、数十年、数百年と時が経つにつれ、光の胸にはある感情が芽生え初めていた。

「……退屈だ」

 どれだけ観察しても、変化がない。新しいものは産まれず、ただ同じような日常が繰り返されるだけ。不老不死の光にとって、この完璧な世界は何よりの苦痛だった。

「完璧とはこれほどまでに退屈でつまらないものだったのか……」

 その時、どこからともなく神の声が響いた。

『どうだ? 楽しんでるか?』

「んなわけあるか! 退屈すぎて、頭がおかしくなりそうだ!」

『だったら、アドバイスをしてやろう。みんなに『欲望』を与えてみろ。きっと楽しくなるぞ』

「ふざけんな! 俺の世界にそんなもんは必要ない!」

『そうかそうか……じゃあ、堪能し続けろ……『完璧』ってやつを』


 そしてまた数百年が過ぎた。光は退屈に耐え切れなくなった。ついに生き物たちに『欲望』を与えることを決意した。


愛欲、競争心、憎悪、そして夢――欲望は進化の火花となり、生き物たちの行動に変化を生んだ。

欲望を持った生き物たちは次々と新しい発明をし、新たな社会を築き始めた。一方で、裏切り、争い、破壊も始まった。

世界は目まぐるしく変容していく。ある者は身を滅ぼすほどの恋をし、ある者は仲間と理想のために命をなげだし、またある者は果てしない夢を追い求めて空へと飛び立った。

「すごい……なんて面白いんだ……」

 光は目の前の劇的な変化に目を奪われた。欲望の火花が生む進化と破滅、その繰り返しに、光は欲望――そして人間が持つ計り知れない魅力を見出しはじめた。


しばらくして、神がふたたび現れた。

「どうだ? 完璧じゃなくなった世界は?」

「ようやくわかったよ……人間ってやつは、愚かで哀れで矛盾だらけの問題しかない生き物だ……でも、だからこそ面白い! ホント! 神様がつくった最高傑作だよ!」

「理解してもらえてよかった。それじゃあ、お前を元の世界、元の時間、もとどおりの人間に戻してやろう」

 神は激しい輝きを放ち、光を包み込んだ。


気がつけば、光は元の街に立っていた。

前と変わらない人間の世界。だが、今までとは違って感じた。光にはどこか輝いているように見えた。

だが再び前と同じ日常が始まるとまた、どうしようもなく嫌気がさしてきた。クソみたいな上司、クソみたいな政治家、クソみたいな民衆、クソみたいなニュース……。

死んだ目でテレビを見ていると、緊急ニュースがはいってきた。隣の国が光の国へ核ミサイルを発射したらしい。

 光は諦観と絶望の中、思わずぼやいた。

「神様は面白いかもしれないけどさぁ……人間からしたら、たまったもんじゃないよ」

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