責任の取り方②
「え、本当?」
「ああ」
次の日のホームルーム前に俺は葛城にバンドをやることを伝えた。
「何で驚いてるんだ?」
喜ぶかと思いきや意外にも葛城は驚いた顔をしていた。
「昨日の様子からするとすぐには頷いてくれないだろうなって思ってて……」
「どうせもうやらなきゃいけない流れになってたからな。決めるのは早い方がいいだろ?」
「そりゃそうだ。土井先生にも伝えなきゃ」
「あとで伝えておくよ。それよりも聞きたいことがあるんだけどいい?」
「何でも聞いて」
「葛城はどういうプランで学園祭に出るつもりだったんだ?」
「プラン?」
「どういう歌をやりたいとか何の楽器を集めるとかは決めてるんじゃないのか?ギターが何人でドラムはいるとか」
「全く決めてないよ」
「…………」
どうやら俺の予想は悪いことに当たってしまったようだ。
「……まあ、いいや。で、他のメンバーはどうなってるんだ?」
「昨日色々回ってみたんだけど、残念ながら誰も集まりませんでした……」
葛城は休み時間などに学年関係なくクラスを回り声をかけていたらしい。
「じゃあ……2人でするってことか……。まあ、音源を何とかすればできるか……」
「あとはボーカルをどうしようかなって少し悩んでる」
「葛城が歌うんじゃないのか?」
「それでもいいけどね。やりたい人がいればその人に歌ってもらうのもありだね。歌ってくれそうな人に心当たりある?」
「歌が上手い人……がいいよな……?」
「それは理想だけど、別にこだわってない。誰か知ってるの?」
「…………」
言われて歌が上手い人を考えてみる。
「いや……心当たりないな……」
「そっか。こっちでも探してみるよ」
「任せる」
俺よりも葛城に任せた方がいいのは間違いない。
「ちなみにだけど葛城はこういうステージに立ったことはあるんだよな?」
「ないよ」
「…………えっ、ないの」
「うん。大勢の人の前で実際に弾くのは初めて」
「……お前のその自信はどこから来るんだ?」
「どこからって言われてもなぁ……。世の中何とでもなるよ」
「……………」
俺は苦い顔をする。まさかステージ未経験だとは思わなかった。予想以上にヤバいことになっているのかもしれない。
(ギター2人ってのも問題だよな……。ドラムは欲しいけど……難しいだろうな……。普通楽器始めるってなるとギターだよなぁ……)
最初からバンドすること前提だったり、よほど関心がないとドラムから楽器を始めるという人は少ないと個人的に思う。
(シンセサイザーとか使えたらなんとかなるけど使えないしなぁ……。CDとか音源を流して何とかなるか……?)
少し物足りない気はするが仕方がないだろう。何より時間がない。
(何の曲をやるかはともかく練習して感覚を取り戻さないとな……)
バンド全体のことも不安ではあったが、まずは自分の事を心配しなければいけなかった。昨日の夜に少しさわったが、だいぶ弾けなくなっていることを実感した。
「バンドやるんだな」
高見は少し嬉しそうだった。
「あまり期待しないでくれ」
「期待しちゃうよ。やっぱり学園祭といったらバンドだろ」
「わかるけどなぁ……」
「というか何でギター弾けること、俺に教えてくれなかったんだよ」
「ギターは高校に上がる前に辞めたんだ」
「始めた理由は?」
「…………別に何でもいいだろ」
「もしかして莉愛ちゃんにカッコイイところ見せようとか思ったのがきっかけじゃないのか?」
「…………う……」
高見にしては珍しく察しが良かった。
「えっ……意外だな……」
「悪いかよ」
「お前はそういうのはしないタイプだと思ってたからさ。どちらかといえばそういう奴を内心笑ってそうなイメージ。マイルドに言うと冷めてる奴」
「…………ヒドイな……」
「だから驚いてるんだよ。お前にもそんな年齢相応な行動をすることがあるんだなって」
「それは褒め言葉なのか?」
「もちろん」
「……一応、ありがとうと言っておくよ」
◇
「今日は何を歌うかを決めよっか」
放課後、俺と葛城は音楽室に集まっていた。テスト週間ではあるが俺達は放課後一時間だけ特別に音楽室を使って良いことになった。
「持ち時間は何分なんだ?」
「15分。他の有志がいなければ20分使ってもいいって」
「15分なら3曲くらいか……」
「そうなるね」
「葛城は何の曲をするつもりだったんだ?」
「盛り上がる曲!!」
「……学園祭だし、そうなるよな……。要するにノープランってことだな」
「違うって。一緒にバンドする人と考えようと思ってたんだ」
「弾きたい曲とかあるかもしれないしな」
「そうそう。ということで何か弾きたい曲はある?」
「弾きたいというより弾ける曲から選ぶのがいいかなって思ってる。時間もないし」
「現実的な話だね。何が弾けるの?」
「ゴメン。弾けるんじゃなくて弾いていた曲だ」
「別にどっちでもいいけど」
「少し古い曲だけど『恋華』って知ってる?」
「名曲じゃん。いいね」
「ただ、結構大人しめの曲なんだよなぁ……」
「じゃあ、2曲目にしよ」
「そんなにあっさり決めていいのか?」
「うん。『恋華』って曲名は知らなくても一度は聞いたことあるから文句ないよ」
『恋華』は俺達の親世代のヒット曲だ。しかし、今でもCMで流れたりするため知っている人は多い。
「……葛城がいいならそれでいいけど……。次は葛城の希望を聞かせてくれよ」
「実は1曲目に歌いたい曲があるんだ」
「なんだ。そういうのあるんだ」
「うん。バンド組んだらやりたいなって曲があって」
「何?」
「それは……」
葛城が曲名を口に出そうとした時だった。音楽室のドアがノックされる。
「誰か来る予定があったのか?」
「ううん、ない。もしかしたらバンド参加希望者?はーい、どうぞ」
葛城返事をするとドアが開く。
「えっと……吉野さんだっけ?」
「吉野 莉愛です」
「あれ?帰ったんじゃなかったのか?」
驚くことに扉の奥にいたのは莉愛だった。莉愛にはバンド練習をするから先に帰るように言っていたのでてっきり帰ったものだと思っていた。
「ちょっと用があってね」
「用?」
俺とであれば話す機会はあったので葛城にあるということだろう。
「私もバンドに入りたいなって思ってるんだけど……」
「え……」
これまでそんなことを全く言っていなかったので俺は驚く。
「うん、いいよ」
葛城は莉愛に何も聞くことなく即答する。
「ちょ……ちょっと待って」
「何か問題ある?」
「いや、あるって……。お前は楽器できないだろ?」
「うん。だから……ボーカル希望。もし、ダメだったら裏方でもいいんだ。とにかくこのバンドに関わりたいなって思ってる」
「……聞いてないんだけど……」
「言ってないからね」
莉愛は軽くはにかむ。
「あのなぁ……。葛城どうする?」
「いいじゃん、やってもらおうよ。ボーカル」
「いいのか……それで?」
「前にも言ったけど私の目的は上手い演奏をすることが目的じゃないよ。私達が楽しむのが目的なの」
「…………まあ、葛城が言うならそれでいいけど……。というか、お前はどうしてバンドに参加しようと思ったんだ?」
「一生ものの思い出を作りたいなって思ったんだ。来年は受験だし、こういうことができるのって今年だけだと思うんだ」
「そりゃそうだな……」
「正直言って人前で歌える自信はないよ。だから失敗しちゃうかもしれない。でも、いい思い出になる。こんな自分勝手な理由でバンドに参加するのは……ダメかな?」
「大歓迎だよ。それでいいんだよ。バンドに参加する理由なんて。生駒君は深く考えすぎ」
「そうだよ。あとは昨日、一幸君をやる気にさせた責任を取らないといけないなって思ったんだ」
「……お前らしいよ」
「せっかくだから楽しくやろうよ」
「……ああ」
莉愛と葛城は意外と気が合うのかもしれない。
「じゃあ、3人でバンド成功させるぞー」
「おー」
「お、おー……」
こうして3人でのバンド活動が始まった。