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ギメイでも愛してくれますか?  作者: りんご飴
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望み②

「どうしたの?」


 固まっている俺に莉愛は首を傾げる。


「…………俺、葛城の家に行くって言ったっけ?」


 自分の発言が藪蛇だということはわかっていながら質問してしまった。このまま何気なくそうだと肯定してしまうのが、一番良かったのだろう。


「言ってないよ」


「…………そ、そうか……」


 俺は莉愛の顔を見れず、下を向く。


「何度も行ってるんじゃないの?」


「…………」


 沈黙はイエスと同義だった。俺はどう答えたらいいのか悩んでしまう。


「…………いつから……気づいていたんだ?」


「私が初めて葛城さんの家に行った時だよ。なんかいつもより様子が変だったし、トイレも場所聞かないで行ってたよね?」


「ぁ…………」


「その時にギターの上達が早かった理由とか葛城さんといつの間にか仲良くなかっていた理由にピンときたんだ」


「…………なるほど……な……」


「あっ、こんなこと言っておいてあれだけど……私、怒ってないからね。というか私、怒る権利はないし……」


「……権利はあるだろ。だって、お前は……」


「だって、私が幸一君にギターをやって欲しいって言ったんだから。幸一君はギターを上手くなるために葛城さんの家で練習していたんでしょ?」


「それは……そうだけど……」


 莉愛が言うようにギターを上達させるさせるために葛城の家に行っていたことは真実だ。しかし、俺はそれを莉愛に言っていない。理由はシンプルで間違った行動であることをわかっていたからだ。彼氏としても間違っているし、バンド仲間としても間違っている。ギターを上達させるためだということが真実だとしても、俺に後ろめたい気持ちがある以上それは言い訳でしかなかった。


「じゃあ。私はもう何も言わない。少し……寂しい思いをしちゃってけど……」


「本当にゴメン」


「私の方こそゴメンね。変なこと言っちゃって」


「…………ああ」


 莉愛の表情はいつもと変わらないように見えた。


「………………じゃあ……行くよ」


「うん。練習頑張ってね。葛城さんにもよろしくね」


「…………ああ」


 俺は逃げるように莉愛の家から出る。


「…………………」


 最悪な気分だった。しかし、身から出た錆なので受け止めるしかなかった。


「……もっと怒ったりしてくれた方が楽だったな……」


 変に許される方が辛かった。怒られた方が気持ち的には楽だっただろう。


「…………この前、葛城にあんなに嘘を語っておきながらこれとは情けない」


 嘘と隠し事は別物と言われることがあるが、隠された側が嘘をつかれたと感じたらそれは嘘だ。葛城の家に行ったことを隠していた俺にはバレないだろうというどこか甘い考えがあったのだろう。


「…………行くか……」


 俺はゆっくりと歩き出した。



「どうしたの?調子悪い?」


 俺は葛城の家に来て練習をしていた。


「えっ……そうか?音、外してたか?」


「ううん。そんなことない」


「じゃあ、一体……」


「何か音が元気ないように感じる。あと心ここにあらずって感じがする」


「音が元気ないって……そんなことわかるものなのか?」


「何となくだよ」


「すごいな……葛城は」


「休憩しよっか。持ってきてくれたチーズケーキでも食べながら」


「…………ああ」


 俺はギターを下ろした。


「わー美味しそー。店で売ってるやつみたい。莉愛のお母さんめっちゃお菓子作り上手くない?」


「ああ。昔から上手かったよ。簡単なものから手間がかかるものまで何でも上手かったな」


「じゃ、いただきまーす」


 葛城はチーズケーキを一口食べる。


「うまっ……。これお店に売ってるやつより美味しいかも」


「俺もそう思う」


 俺も葛城に続いてチーズケーキをいただく。


「で、どうかしたの?身体の調子悪いなら帰った方がいいよ」


「……莉愛に……葛城の家に行っていたことがバレた。いや、バレてた」


「あー……そっかー……。バレちゃってたかー……」


 葛城はバツの悪そうな顔をする。


「どうだった?怒ってた?」


「いや……。普通に許してくれた」


「そっか……。それはそれでキツイね。怒りを爆発させて滅茶苦茶言われるのはその場で結構くるけど、許すのは後からじわじわとくるね」


「……そうなんだよなぁ……」


「何で怒らなかったんだろ?」


「俺をバンドに参加させる気にしたのは自分だし、ギターを上手くなるために葛城さんの家に行ってるんだから怒る権利はないって言ってた」


「聖人じゃん。わかっていたけど性格良いなー」


「…………ああ」


「というか何で来てるの?」


「えっ……」


「指摘されたのって今日の夕方でしょ」


「……うん」


「バレて数時間後にまた来てるって生駒君反省してなさ過ぎ」


「でも、あいつは止めなかったし……」


「そりゃそうでしょ。止めたら嫌な女になっちゃうからね。怒る権利はないって言ってるのに、止めたら怒ってるって言ってるようなものじゃん」


「……………」


「たぶん行って欲しくないって思ってるよ。でも、生駒君が頑張ってることがわかってるから言えないんだよ」


「…………そう……か……」


「普通に考えればそうでしょ。彼氏が自分以外の女の家に泊ってるって知っていい気持ちなわけないじゃん。しかも2人きりだし。生駒君って女心わかってないね」


「……知ってる」


 反論などできるわけがなかった。


「俺、どうしたらいいと思う?」


「どうしたらって……。そんなこと私に聞かないでよ。吉野さんのことを一番わかってるのは生駒君でしょ。まだ1カ月ほどしか付き合いのない私よりもいい答えを出せるに決まってるよ」


「女心がわかってなくてもか?」


「そりゃ女心をわかってる方がいいよ。けど、そこじゃないよ」


「どういうこと?」


「彼氏である生駒君が吉野さんのことを想って行動することが大切なの。誰かに言われて動くんじゃないの」


「………………そっか」


「幼馴染なんでしょ。だったら彼女のして欲しいことわかるはずだよ」


「……ありがとう。俺、今から電話かけてくる」


「そうしなよ。私、片付けしておくから」


「いや、片づけはいい」


「え。何で?」


「今からあいつをここに呼ぶから」


「はっ!?」


 葛城は信じられないという表情をしていた。


「い、今何時だと思ってんの?もう夜の10時過ぎだよ」


「わかってる」


「それに体調よくないんじゃ……」


「もう治ってるさ。今、あいつが望むことをすべて叶えるためにはこれしかないんだ」


「…………もう、勝手にして……」



「お待たせー」


「早っ……」


 葛城は驚き半分呆れ半分といった感じだった。俺が電話をすると莉愛はすぐに着替えてきた。


「じゃ、練習しよっか」


「おう。葛城?」


「……ちょっと待って……。吉野さん、本当に大丈夫なの?」


「心配してくれてありがとう。体調は大丈夫だよ」


「いや……体調じゃなくて……」


「?」


「生駒君が吉野さんに言わずに私の家に来てたこと……の方」


「そっちは最初からそんなに気にしてないよ。私、葛城さんのこと信用してるし」


「あっ……そうですか……」


「やるぞ。もう本番まで時間ないんだから」


「……わかったって。じゃあ音源流すよ」


 葛城が音源を流し、演奏が始まる。俺の心にあったモヤモヤ感はもう消えていた。


(そうだ……。こうすれば良かったんだ。初めから全部言っとけば良かったんだ)


 俺は今回の件を深く考えすぎていた。莉愛が望んでいること、それはステージの成功だ。もしも、莉愛を呼ばずに俺が帰ってしまっていたらきっと莉愛は自分のせいで練習ができなかったと思うだろう。だったら、莉愛を読んで練習するしかない。

 この案は女心のわからない俺の案だ。もしかしたら莉愛はこれを本当は望んでいないかもしれない。もし、後で違っていたら心から謝罪すればいい。大切なのは俺が莉愛のことを想って動くことだ。俺はそう信じてる。


(ふっ……俺は何て傲慢なんだろう)


 しかし、今日の俺のギターと莉愛の歌はいつもよりも乗っているように思えた。



「ふわぁぁ……」


 葛城の家での練習が終わり、俺は自宅に戻っていた。毎日のように徹夜を繰り返しているせいで欠伸が止まらなかった。


「学園休みてぇなぁ……」


 俺は制服のボタンを止めながらつぶやく。


「あ、あれ……?」


 ボタンが上手く止められず俺は困惑する。同時に視界がくらくらと回転するような感覚に陥る。


「う……やばっ……」


 立っていることが困難になり、俺はその場に座り込む。


「…………学園行かないと……。今日はステージ……で……リハがあるんだ……から……」


 俺の意識はここで途切れた。

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