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【3月25日書籍発売】元最強冒険者の路地裏カフェのんびり開業録  作者: 氷染 火花


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第45話 ビールと女騎士 後編

 俺とイルザが出会ったのは10年前だ。その時俺は27歳。イルザは17歳。俺はこの世界にも慣れてきて冒険者として上り調子だった頃、対してイルザは、まだピカピカの新品騎士だった。

 ダールントン侯爵領に出たダークドラゴンの討伐を、冒険者ギルドと王国騎士団合同で行ったのが出会いのきっかけだった。


 そのダークドラゴンはギルドの事前予想よりだいぶ強い個体だった。当時は魔王軍がロワール王国へ度々侵攻してきて、冒険者ギルドも王国騎士団も一線級の実力者が出払っていた。そのためダークドラゴン討伐にはまだ実力不足なものも多く混ざっており、討伐部隊はかなり苦戦した。


 俺はその時Bランク冒険者だったが、チートスキル『竜の心臓』のお陰で実力はもっと上だった。ダークドラゴンにダメージを与えつつ討伐部隊のフォローもこなしていた俺は、その過程でたまたまイルザのことも竜の攻撃から救ってやったのだった。


 イルザが当時を思い出しながらビールを傾ける。


「いやー、あのときのギルバートはかっこよかったな〜。まさに救世主って感じで。私のピンチを颯爽と助けてくれるんだもん。本物の英雄(ヒーロー)みたいに見えたよ」


「……昔の話を何度も語るなよ」


「えー、私にとっては大事な思い出なんだけど」


 酔ってるな。

 もう一樽空けてるしそりゃそうか。ほんとよく飲むなこいつ。

 俺達の会話を聞いたソラちゃんが信じられないという目でこっちを見てくる。


「マスターが? イルザ様のヒーロー?」


「何だいその疑いの目は」


「いやだってただのおじさんですよ」


「失礼な。その通りではあるが」


「私にとってはヒーローなんだよ。かっこよくて、憧れた。もう〜、なんで冒険者やめちゃったのさ」


「前に言っただろ。冒険者に疲れたんだよ」


「それで喫茶店主なんてもったいないよ〜。魔物と戦うかっこいいギルバートを私はもっと見たかったのに! ずっと一緒に戦いたかったのに!」


 ごきゅごきゅとビールを飲みながらイルザが絡んでくる。


「あんまり絡むとつまみ作らないぞ」


「あーうそうそ!? ごめんごめんもう言わないって。だからおつまみください!」


「まったく……。さて、準備できたぞ」


 俺は下ごしらえの済んだ食材を持って店内へと戻る。イルザが目を輝かした。


「待ってました! ってあれ、料理は?」


「あのな、うちは喫茶店だぞ。急にやって来られても簡単につまみなんか作れんよ。そこで今日はこいつだ」


 俺はアイテムボックスからまず簡易台を設置した後、最近倉庫から掘り出した備品道具を取り出した。

 かつてニコと一緒に作ったものだ。といっても、これの開発はそんなに手間がかからなかったが。


「今日はこいつで食材を焼く!」


 ドン。

 道具をひと目見てすぐにイルザが反応する。


「おお、七輪!」


 対してソラちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「シチリン? なんですかこれ」


「これに炭を入れてその熱と赤外線で食材を焼く道具だ。まあ簡易バーベキューコンロだな」


「へ〜、初めて見ました」


「俺の故郷にあった道具だからな。昔ニコに頼んで作ってもらったんだ」


「ふうん、便利そうですね。色々焼けそう」


「誰かさんがもし銀杏を持ってきても、もう焙煎機を出さなくてすむようにな」


「あ! そういうことですか!?」


 イルザが昔を思い出すように目を細める。


「なつかしいね〜。昔ギルバートと一緒に魔物討伐に行ったとき、これでよく野外調理してくれたよね」


「よく覚えてるな。正直名前まで覚えているとは思わなかったぞ」


「えへへ、これでイカのスルメ(あぶ)るとおいしいんだよね」


「お前本当にロワール人か?」


 味の好みが日本人すぎる。

 イルザはとことん外見を裏切るやつで、洋風のツマミより何故か和風の居酒屋のようなメニューを好むのである。


「よし、と」


 あらかじめキッチンのかまどで起こしておいた炭火をセットして、準備完了だ。

 イルザがやる気満々の顔をする。


「楽しそう〜。さっそく焼いて……」


 そこでソラちゃんが待ったをかけた。


「あ、ちょっと待ってください。これで焼くと煙出て匂いも店内につくんじゃないですか?」


「あ」


「うーん、そこなんだよな」


 俺もそれは懸念していた。この前ソラちゃんに栗を焼かされた時は外でやったが、今は店内だ。


 まあ、今日はいい炭を使っているので煙は出にくいし、脂たっぷりの肉も用意してない。後で掃除がんばればいいかとは思っていた。この世界には清浄魔法という便利なものもある。


「まあ後で掃除すりゃいいかと考えてたんだが」


「それなら私が換気しますよ! 私の得意魔法風属性なんです。私っていうか、翼人はだいたい風属性得意なんですけど」


「ほう」


 ソラちゃんは風属性が得意魔法なのか。この世界では人それぞれ得意魔法があり、得意分野では大成しても苦手分野はてんでダメ、なんて極端な魔法使いもいたりする。

 ちなみに俺はだいたいなんでも使えるが、強いてあげれば炎魔法が得意だ。


「なんだか悪いな。それじゃあお願いするよ」


「ソラちゃん、いい子……」


「はーい、任されました!」


 そう言うとソラちゃんはさっと呪文を唱え、室内に空気の流れを作る。

 あらかじめ開けておいた窓から外の風が入り、七輪の上で空気が渦を巻いて煙を吸い込んでいく。風の流れは店内の暖炉へと流れ(冬用なので今は使っていない)、外の煙突へと出ていった。


『ほおう、大したもんだ。煙が吹き散らされず見事に外へと流れていく……。言葉だけじゃない。自信に見合うだけの……いや、それ以上の魔力操作だ』


 ソラちゃんの魔法精度の高さに素直に感心する。まだ18歳で大したものだ。さすがは翼人。

 ……それが七輪の排煙に使われているのはどうかと思うが。


 イルザがヒソヒソと耳打ちしてくる。


「え? ていうかあの子翼人って言った? どういうこと? 魔力からして只者じゃないと思ってたけど……」

「色々あったんだよ。後で話す」

「いや気になるよ! なんでいつの間に美少女翼人を雇ってるの!?」

「よーしさっそく食材焼いていくか」

「あ、スルーした!」


 今回は余り食材の消費も兼ねている。突然やってきた厄介な客にはこれで十分だろう。


「さ、まずはきのこを焼いていくぞ。しいたけ、マッシュルームにエリンギもある」


「やったー! 私しいたけ好き!」


 案の定、イルザはあっという間につまみの方に夢中になった。扱いやすいやつだ。

 石づきを取って切れ込みを入れたしいたけを、七輪の上に並べていく。ひだひだに水滴が吹き出してきていい感じに焼けてきたら、醤油をひとたらし。


「さ、できたぞ。お好みで薬味をかけて食べてくれ」


「私七味!」


「ソラちゃんもどうぞ。レモンを絞ってもうまいぞ」


「わーい!」


 はふはふと美人二人がしいたけを食べる。イルザはそこへすぐにビールも流し込んだ。


「ぷは〜〜〜! おいし〜〜! ギルバートありがとう!」


「マスター! このきのこおいしいです!」


「はは、良かった。どれ俺も」


 俺はあらかじめ作り置きしておいた練り味噌とマヨネーズを合わせた味噌マヨネーズを少しつけて食べる。うん、うまい。

 練り味噌というのは味噌に砂糖、酒、出汁なんかを入れて弱火で煮詰めたやつだ。日持ちもするし何にでも使えるので、俺は特に秋になるとこれを大量に仕込む。


 マッシュルームの方はひと工夫した。傘のところに刻んだベーコンを詰めて、オリーブオイルをかけてある。これも七輪でじっくり焼くとうまい。


 イルザがひとくち食べてはビールを煽っていく。ソラちゃんもエリンギを食べていた。


「おいし〜! マッシュルームにベーコンの塩気がたまらない!」


「エリンギもおいしいです。歯ごたえが良いし、なんかコクがあります!」


「メインはこれからだぞ。次は……焼鳥だ」


 俺は下処理を終えて串にさした鶏むね肉を出した。鶏ももはオムライスなどのランチメニューで使うので、これも余り食材というわけだ。


 ちょうど新鮮な鳥を一匹仕入れたばかりで、鶏肉はふんだんにあった。

 日本と違って肉はパックで売られているわけじゃないので、下処理も自分でするのだ。肉屋さんに頼んでお金を払えば下処理も切り分けもしてくれるが、俺は自分でするのも嫌いじゃなかった。


 炭火でじっくり焼いた鶏むねの串をイルザが幸せそうな顔で見つめる。


「ああ……焼鳥にビール……この世の幸せが詰まっている……!」


「女騎士がそれでいいのか?」


 パクリ。

 ごきゅごきゅごきゅ。


「……ぷは〜〜〜っ! 焼き鳥とビール最高!!!」


「良かったよ」


 あまりにもいい飲みっぷりなので、俺もつられて軽くビールをあおる。

 うん、たしかにうまい。炭火で焼いた焼鳥には旨味が詰まっていて、ビールによく合う。

 あ、そういえば。


「ソラちゃん、今更だが鳥大丈夫か?」


「ふあい?」


 もっきゅもっきゅもっきゅ。

 ソラちゃんは焼き立ての鶏むね肉を貪っていた。


「ごくん。……ああ〜偏見ですよ! 翼人は鳥じゃありません!」


「まあそうか。今までもチキンサンドとかチキンカレーとか食べていたもんな」


「そうです。だいたい鳥人の人たちだって鳥肉食べるでしょ」


「たしかに」


「ところでマスター、この焼鳥っていうの初めて食べましたがおいしいです! 串焼きもいいですね〜」


「はは、気に入ってもらえてよかった」


 ますます酔っ払ってきたイルザが、流し目で絡んでくる。


「ギルバート〜、鶏むねもいいけどさー、砂肝無いの? あとハツ」


「こいつは……」


 遠慮なく要求してくるイルザに頭痛をこらえつつ、次のつまみを出してやる。


「ほれ、鳥モツ煮だ。モツ系まで串に刺すの面倒だったんだよ」


 俺はイルザの前に鳥モツ煮を置いてやる。レバーやハツ、砂肝と言った部位を、生姜と醤油、砂糖で煮込んだ料理だ。味付けが濃くてご飯にもお酒にも合う。


「やったーー! 私鳥モツ煮大好き! これおいしいんだよね。ギルバートの店でしか食べれないから嬉しいよ」


「ソラちゃんはご飯で食べるか? ちょっと独特だが、たぶんイケると思うぞ」


「食べます食べます! ご飯大盛りでください!」


 ソラちゃんも嬉しそうに頷いた。

 イルザはビール片手に、ソラちゃんは白飯で、それぞれ鳥モツ煮を食べる。


「「んん〜〜〜、おいし〜〜〜!!!」」


「どうも。さて、ご飯もあるしおにぎりにして味噌つけて焼くか」


「「それ食べたい(です)!!」」


「はいはい」


 飲兵衛と食いしん坊二人のために、せっせと俺は焼きおにぎりを作るのだった。

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