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第39話 戦い終わって慰労会、と、ソラちゃんの里帰り

 今日、『シリウス』は開店以来初めての満員御礼となった。もっとも客から金は取らないが。

 色々とあったがすべてが丸く収まり、俺は世話になった連中にお礼を兼ねて食事会を提案したのだった。

 みんな忙しいから全員と予定調整するのは難しいかな……と思っていたが、意外にもみんな二つ返事で集まってくれた。


「みんな、今回はありがとう。本当に助かった。ささやかだがお礼のつもりだ。今日は好きなだけ食べて飲んでくれ!」


 俺がそう言うと、カウンターに座っていたメルが腕を組んでふんぞり返る。


「とーーーーーぜんね! ほんと大変だったんだから。もっと労いなさい」


 パーティーを組んでた頃と少しも変わらない尊大な態度に、俺は嬉しくなって微笑してしまう。


「ああ、好きなだけ食ってくれ。ほら特製いちごパフェだ」


「わーい♪ ……ってちょっと! 子供扱いしないでよ!」


「そんなつもりはない。好きだっただろ?」


「好きだけど……フン」


 不満そうにスプーンを手に取ったメルだったが、クリームを一口食べると途端に笑顔になる。そのままパクパク食べ始めた。美味しかったらしい。


 続いて俺は一つにつなげたテーブル席に大皿料理を運ぶ。


「ほい、チキンの香草焼きにアクアパッツァ、それからピザとペスカトーレだ! 特にペスカトーレは今日の自信作だから、みんな食ってくれ」


「待ってました!」


 レオンとヘンリーが、ビールジョッキ片手に集まってくる。フレイアも料理を取りに来た。片手にはワイングラスを持っている。


「うん、とってもおいしいよギル」


「うまいな」


「おいしいわ。ふふ、懐かしい。パーティーで野営したときも、ギルの料理が一番おいしかったわね」


「良かった。どんどん食ってくれ」


 ニコやコハク、サイモンといったいつものメンツももちろんいる。いわばラストエリクサーづくりの打ち上げだ。


 しかしとんでもないメンツが集まってしまったな。コハクやサイモンはともかく、元勇者で英傑のレオン、魔法大臣のメル、女教皇フレイア、警視総監のヘンリー。こんなに集まって王宮は大丈夫か?

 まったく、店の中が壮観だ。

 そこでレオンが、コハクの方を見ながら声を潜めて聞いてきた。


「ところでさ、ギル……呪いの女王がなんでここにいるの?」


「呪いの女王? ああ、コハクか。いつの間にかシリウスの常連になってな。なんか懐かれた」


「懐かれた!?」


「危険はないから安心してくれ」


「ギルは相変わらず妙な交友関係を築くね……」


 レオンが頭を?マークだらけにしている。

 が、しばらくして気を取り直して、


「そうそう、完成したラストエリクサーって一本だけじゃないんでしょ? 残りはどうするんだい?」


 と、(たず)ねてくる。レオンの言う通り、ラストエリクサーは全部で10本完成していた。

 そこでニコが大きく手を上げる。


「はいはいはい! 半分はボクがもらうことになってるよ。作った報酬ってことでさ」


「なるほど。一本はその翼人の子に使って、残り4本は?」


「一本は俺も将来のために保管しとこうと思っているが……残りはどうするかな」


「なら良ければ王宮に収めてくれないかな? 実は国王陛下が大陸初のラストエリクサー完成に興味を示していてね。一本1億リルで買い取りたいって言っているんだけど」


 なるほど。レオンは陛下の連絡役も兼ねていたのか。レオンに頼まれると俺も断りづらい。国王、相変わらずしたたかな人だぜ。

 ま、国王にまた貸しを作れるならそれもいいか。


「わかった。じゃあ残りは王宮に収めるよ。後で渡すからレオンが直接持ってってくれるか」


「ありがとう。そうなったときのために大金貨も用意しているから、後で交換しようね」


「おう。しかし合わせて3億リルか……経費を差し引いてもだいぶ多いな。素材を提供してくれたみんな、よければ報酬を……」


 俺がそこまで言いかけたところで、全員が首を横に振った。


「ラストエリクサーを作ろうって言い出して動いたのはギルバート自身だ。だから君が全部受け取ってくれ」


「そうそう、報酬はこの料理と飲物でもらってるからね」


 そう言ってみんな笑う。まったく、俺も大概だがみんな欲のない連中だ。


「わかった。それなら料理をもっとがんばらなくちゃな。みんな、食いたいもんはあるか?」


「チキングラタン!」


「パフェをおくれ!」


「ミートソースパスタ!」


「私にはアイスクリームよこしなさい!」


「ははは、よし任せろ!」


 俺は腕まくりしてキッチンへ向かう。

 ふとした拍子でメルが聞いてきた。


「そういえばそのソラって子、今日はいないの? せっかくだから会ってみたかったんだけど」


「ああ、本当は俺もみんなに紹介したかったんだけどな。ちょっと大事な用があったんだ」


「ふうん。それは残念ね」


「ま、また会う機会もあるさ」


 翼の復活したソラちゃんは今、故郷の実家に帰省しているのだ。



 ◆◆◆◆



◆ 空に一番近い場所で


 SIDE:ソラ



 ソラは翼人の里に帰ってきていた。

 成り行きで王都で暮らすようになってからも両親とは手紙でやり取りしていたが、翼を奪われたことは伏せていた。親に心配させたくなかったからだ。


 翼人の里は大陸で最も高い山の、さらに峻険(しゅんけん)な断崖絶壁の上に築かれている。翼人でなければたどり着けない土地だ。翼を奪われたときのソラは、このまま一生帰れないかもしれないと思っていた。

 それがギルバートのお陰で翼が戻った。まだ生え揃ってはいないものの、魔法を使えば飛ぶことはできる。これを機会に一年ぶりに帰省しようと思ったのだ。


 家の扉をノックすると、すぐに二人の男女が飛び出してきた。


「ソラ!」

「ソラ、帰ってきたのね!」


 すぐに二人から抱きしめられる。ソラと同じ青い髪と翼を持つ、父と母だった。


「お母さん、 お父さん!」


 母はソラを抱きしめるなり泣き出し、父はやさしく頭をなでてくる。両親に翼の件は伝えていない。それでも手紙から何か、感じるところがあったのだろう。二人から自分を案ずる気持ちが痛いほど伝わってきて、ソラは申し訳ない思いと同時に嬉しさが胸にあふれてきた。


「お母さん、お父さん、ただいま」


「ああソラ、無事で良かった」


「元気そうで安心したよ。おかえり、ソラ。さあ、遠慮しないで入ってくれ」


 ◆

 

 ソラが翼人の里を出たいと思ったのは16歳のときだった。翼人は16歳で成人となる。その機会に、生まれ育った村の外を見たいと思ったのだ。


 ソラの住む翼人の里は平和だったが、同じ毎日が続いて退屈で、ソラはいい加減飽き飽きしていた。翼人はエルフと似て他の種族とめったに交渉を持たない。そのためソラは生まれてから村の翼人以外の人類に会ったこともなかった。

 ソラは成人した時に思い切って両親に村の外に出たいとお願いした。翼人は元々は閉鎖的な種族だったが、近年ではいくらか開放的になっていた。またソラの両親も進んだ考えの持ち主だったので意外とすんなり許可してくれた。ソラの成人と同じ年、地上の人間と魔王の戦争が集結して平和になっていたのも大きかった。


 成人になってから一年間、ソラは地上のことをたくさん勉強して、荷物を準備して……17歳になったとき、地上に降りた。旅立つ前の日、両親は涙を浮かべながらも笑顔で送り出してくれた。

 しかし地上に来て二日目……たった二日目のことだった。観光がてらソラは王国のいろいろな場所に行った。空を飛べるのいいことにあちこち好きに出入りしていたソラは、そのうちうっかり王都の治安の悪い区画に降り立ってしまった。


 ……気づいたときにはソラは翼を失くしていた。


 翼人なら誰もが知っている。一度失った翼人の翼は、二度と元には戻らない。

 二度と空を飛べない。


 飛べない。

 飛べない。


 何もかも失ったと思った。


 警察の質問にもろくに答えられず、幽霊のように王都をさまよって。

 自分がどこを歩いているかもわからないまま歩いて、歩いて……。

 そしてソラはギルバートの店に……喫茶店「シリウス」にたどり着いた。



 ◆


 実家の居間で落ち着くと、最初に父親が切り出してきた。


「それでソラ、言いたくなかったら話さなくていいが……その翼は?」


「……うん。ごめんね、お母さん、お父さん」


 そこからソラはこの一年のことを両親に語った。

 話しながら、ギルバートの顔を思い出す。初めはだらしない人だと思っていた。やる気がない店長だと思っていた。

 でも、自分を助けてくれた。翼まで取り戻してくれた。ギルバートに出会わなかったら、人間をずっと恨んだままだったろう。


『マスター、私、自分が信じられなかったんですよ』

『シリウスで働くうちにいつの間にか……、このまま翼がなくてもまあいいかなって』

『マスターといっしょに、人間として生活していけるなら、翼を失くした自分でもがんばれるって』

『生きたいなって』

『翼を失って絶望しかなかった私が、マスターに出会って、初めて思えたんです』



 ――起きた出来事を語り終えてから、ソラは、実家を出たときより少し大人びた表情で言った。


「でも、安心して、悪い人もいるけどいい人もいる。みんなに助けてもらいながら、なんとか頑張っているよ。私、地上に降りて良かった!」

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