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第35話 ソラちゃんとお医者さん

 一時間ほども泣いたり笑ったりしてから、ようやくソラちゃんは落ち着いた。そして、身体の重大な変化があったということで、念の為医者にも診てもらうことにした。


 近所の腕の良い闇医者(これも妙な表現だが)サリナ・カヴァラン先生の診察所へ向かう。ちなみにソラちゃんが風邪を引いたときにもお世話になった先生だ。白衣を着崩したダウナーな見た目の女医である。

 

 診察を終えてすぐサリナ先生は言った。


「驚いたね、本当に翼が再生している。信じられない奇跡だよ」


 表情が暗いので本当に驚いているのかわかりづらい。カルテに視線を落としたままサリナ先生は続けた。


「とはいえまだ生えかけだ。計ってみたが翼長10㎝といったところだな。私も初めてのケースだからなんとも言えないが、もとの大きさまで戻るには一年はかかるだろう」


「完治一年か……」


 ソラちゃんの後ろで思わず俺は呟く。再生も困難な翼が戻っただけでも喜ぶべきなんだろうが、長く感じてしまう。

 すると、ソラちゃんが振り返って笑う。


「そんな顔しないでくださいマスター。私、翼が戻っただけで本当に幸せなんですから。もう一生飛べないんだって絶望していたので。それにまだ小さな翼でも、身体は絶好調なんですよ」


 サリナ先生も頷いた。


「たしかに。先程診察して驚いた。魔力も含めた身体能力が桁違いに跳ね上がっている。翼人(エアリス)として覚醒するとこんなにも変わるんだな。身体の方はもう健康体と言っていい」


「そうか……。じゃあ後は翼がもとに戻るまで待てばいいんだな。良かったなソラちゃん」


「はい、マスターとニコさんのおかげです! ……というか、マスター、私が翼人だってことも怪我のことも絶対知ってましたよね」


「さて、なんのことかな?」


「むぅ。まあそういうことにしといてあげます。私に気を使ってくれたのはわかりますから」


 ニコニコとソラちゃんは笑っている。サリナ先生がカルテから顔を上げてこちらを見た。


「ま、とにかくそういうわけで身体の方は心配ない。栄養を取って翼をすくすく伸ばすといい。もし不調や違和感があったらまた来なさい」


「はい、ありがとうございます!」


「どうもお世話になりました」


「お大事に」


 ◆


 診察所からの帰り道、あっ、とソラちゃんが声を上げた。


「そうだマスター、お店の制服改造してもいいですか」


「制服?」


「翼が戻ったから、背中が窮屈で。翼人の服はみんな背中が空いているんです」


「ああ、なるほどなあ」


 といっても、シリウスの制服は俺がデザインしたものじゃない。知り合いに服飾の得意なやつがいて、まるっと依頼したのだ。


「じゃあ今度制服を頼んだ服屋に行くから、その時ソラちゃん向こうで相談してくれ。俺は制服のことはさっぱりだから」


「わーい、ありがとうございます!」


 ソラちゃんがはしゃいでくるんと回る。

 うっ、かわいい。

 ソラちゃん、翼を取り戻してから魅力が3倍増しくらいになっている気がする。


 もともと美少女ではあったが、纏うオーラとか、さらに溌剌(はつらつ)となった笑顔とか、人を引き付ける要素が増したのだ。

 俺の勘違いではないようで、ソラちゃんが通りを歩くだけで町の人々が振り返り、ときには噂までしていた。


『おい、見ろよ……何だあの美人』

『あんなかわいい子はきだめ横丁にいたか?』

『俺恋しちゃったかもしれない……』


 そんな、主に男からの視線がソラちゃんへと注がれる。

 ソラちゃんは以前からはきだめ横丁に住んでいたはずだが、翼の再生はカリスマ的な魅力をもたらしてしまったらしい。

 ただモテるだけならいいがトラブルに巻き揉まれたりすると厄介だな……と俺が柄にもなく保護者目線で警戒する。


 こんな世界だから、女性の自衛用の道具もちゃんとある。守護結界の護符(タリスマン)何かがそうで、身に着けていれば眠っているときでも敵対者の悪意に反応して自動で防衛してくれる。ソラちゃんもこれを持って通勤している。ただこの護符は高価であり、ソラちゃんの場合は俺が交通費の一部として店の経費で負担していた。


 場合によっては、ソラちゃんの護符をさらに強力なものにしたほうがいいかもな……などと俺が考えていると。


 通りでソラちゃんを見つめる人々の中に、俺は嫌な目つきの者たちが数人混じっていることに気づいた。

 どうも、色恋とか、興味本位の視線とか、そういうのじゃない。お宝を見つけた、あるいは人の財布を値踏みするような視線だ。


『ソラちゃんをおとりにする気は毛頭なかったが……もしかするとこれは、ビンゴか?』


 ヘンリーから聞かされた、壁外マフィアのことが頭をよぎる。

 視線を送っている奴らの顔をしっかりと覚えつつ、俺はソラちゃんとともシリウスへと帰った。


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