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第30話 ソラちゃんの秘密 3

 翼人のこともその翼の治し方も何も知らない俺は、ひとまず頼れそうな友人に相談してみた。

 だが、海賊店長サイモンも錬金術師ニコも、話を聞くと難しそうな顔をした。


「ギル、そりゃあ無理だぜ」

「同感だ。翼人の翼を治すなんてまず不可能だね」


 シリウスに集まってくれた二人はほとんど同時にそう答える。さすがに様々な知識を持つ二人は、翼人についても俺より知っているらしい。


「どういうことだ?」


 俺が訊ねるとニコが答える。


「翼人の翼は特殊でね、たとえ万能薬(エリクサー)を使っても復活しないんだ。順番に説明していくが……まず、君はソラちゃんを見ても一般人じゃないとすぐ気づかなかっただろう。なんでだと思う?」


「いや……わからんな」


 言われてみれば、たしかに変だった。翼人というのは人類とは別種の上位存在だ。翼がなくても魔力量や身体能力で人間よりはるかに優れている。だが俺はソラちゃんを、普通の人間だとしか思っていなかった。

 パフェを食べながらニコが解説する。


「それはね、翼人の翼はそっちが本体と言ってもいいくらい非常に重要な部位だからだ。そこを失うと普通の人間並みに弱体化する。文字通り魂の一部なんだよ。

 生物はすべて魂と肉体があり、魂は肉体という器に収まっている。しかし翼人の翼だけは、肉体という器に覆われていない、魂がむき出しになっているような部位なんだ。君、翼人の羽を見たんだろう? 高密度の魔力結晶体だっただろう。翼人の翼は、魂が魔力によって実体化しているんだ。形としては神々が地上に降臨するときに(つく)星幽(アストラル)体に近い」


「つまり、実体があっても俺達の肉体とは違うってことか」


「理解が早いね。そういうことだ。こうなるとエリクサーでも再生できない。エリクサーはあくまで肉体を回復しているだけだからだ。肉体の中にある魂を読み取って、元の形に再生している。しかしソラちゃんの場合、魂そのものが欠けている状態だ。こうなるとエリクサーでもお手上げだ。魂そのものを再生させる必要がある。概念的には回復ではなく蘇生の領域だよ」


 魔法でほぼ何でもできるこの世界だが、死者の蘇生魔法だけは実現できていない。神話の時代に例があるのでまったく不可能ではなさそうなんだが、人類はまだ蘇生魔法を作ることができずにいた。たとえ瀕死の人間でも回復魔法やエリクサーによってたちまち回復させることができるこの世界だが、命そのものの再生はできないのだ。


 当然俺も、蘇生魔法なんて持っていない。蘇生の方法も知らない。ニコの話を聞いて俺は大きく落ち込んだ。


「なんてこった……ソラちゃんの翼は治せないのか」


 するとニコがパフェをつつきながら、何気ない調子で言う。


「まあ、まったく可能性がないわけではないがね。だがほぼ不可能だ」


「! なにか手があるのか!? 教えてくれ!」


 思わずニコを捕まえて揺さぶった。彼女が目を白黒させる。


「お、落ち着きたまえ、パフェがこぼれるだろう!

 ……まったく、ほぼ不可能と言っただろう? あり得るとしたら、万能薬(エリクサー)の更に上……超再生薬(ラストエリクサー)なら、ひょっとすると翼人の翼でも再生できるかもしれない」


「ラストエリクサー……!」


「な、不可能だろう? 伝説上の超稀少薬。ボクだって錬成したことがないよ。一国の国王ですら手に入れることのできない薬だ。あきらめるんだね」


「いや」


 俺なら、俺なら不可能ではない。そうか、ラストエリクサーか。


「ニコ、ラストエリクサーを作れば、ソラちゃんを治せるかもしれないんだな?」


「はぁ!? 君本気にしてるのかい!!? そりゃ手に入ればできるかもしれないが……。今回は蘇生ではなくて翼の再生だからね。ラストエリクサーの再生力なら、ひょっとすると魂ごと再生できるかもしれない。生まれつき目の見えないものや手足のないものすら再生させられるのがラストエリクサーだ。しかしね、材料がなければ作るのは不可能だよ。すべてがSランクの超稀少素材だ! しかも伝説の薬だから製造方法が正しいかもわからないんだぞ!」


「ニコ、仮に素材をすべて集めたら、お前が錬成してくれるか?」


 自分に話を向けられて驚いたのか、ニコが言葉をつまらせる。


「んぐっ。……そうだね。まあボクは天才錬金術師だし? たとえ成功例がなくても錬成してみせようじゃないか。素材が集まったなら、できなくはないと思うよ」


「よしっ、頼むぞ」


 ニコがいるなら大丈夫だ。何しろ大陸最高の錬金術師だからな。

 ニコが信じられないという顔で俺を見る。


「いや待て待て待て! ラストエリクサーに必要な素材がどれだけ入手困難かわかっているのか!? まず一番大事な賢者の石の粉末が……いやこれはボクが持ってるな。それから生命の水(アクア・ウィタエ)が……これもボクが持ってるか、しかしだねえ! まだまだ手に入れるのが難しい素材が……」


 そこで、サイモンが楽しげに言った。


「華元帝国の仙丹ならまだ俺が持ってるぜ。たしか素材の一つだったよな」


 ニコが驚いてサイモンを見た。


「なんと、華元の秘宝をよく手に入れたな! 中央大陸でこれを手に入れるのはほとんど不可能だと言うのに……いやしかし、まだ必要な素材が7種類はあるぞ!」


「ニコ、必要な素材をすべて書き出してくれ。俺が手に入れてくる」


「ギルバート!? いくら君でも無理だ。それに手に入れる過程が非常に危険なものもあるぞ」


 俺は自信満々に胸を叩く。

 

「心配ない。俺が、元SSSランク冒険者だって忘れちゃったか?」


「……ギルバート、本気なのかい?」


 唖然としてニコが呟く。どこまでも楽しげにサイモンが言った。


「欲しい素材があったら言ってくれ。海賊と戦ってでも手に入れてくる」


「ありがとうサイモン。もしその時は遠慮なくやってくれ。必要な金は俺が出す」


「友達の頼みだ。タダだってやってやるよ」


 そこで黙って俺達の会話を聞いていたニコが、両手をバンザイして叫んだ。


「……ああ〜もうわかったわかった! ボクも協力するよ! 考えてみればラストエリクサーを作れるかもしれない千載一遇のチャンスだ」


「ありがとなニコ。助かるぜ」


「はあ……まさか店員の子のためにラストエリクサーを作る店長がいるなんてね。この国の錬金術師が聞いたら全員泡を吹いて倒れるぞ」


 ニコはあきれたように笑った。

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