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第21話 逃亡令嬢 2

 Aランクリーダーが叫ぶ。


「お前ら! 俺に構うな、こいつごと巻き込んでいいから攻撃しろ!」

「「あ、ああ!」」


 おおっと、意外に覚悟の決まってるやつだな。仲間の冒険者たちも剣を引き抜いたり斧と盾を構えて、ものすごい勢いで突進してきた。なるほど判断が早い。冒険者として場数を踏んでいる連中だな。


「やれやれ、接客以外で疲れたくないんだが」


 俺はいったんリーダーを突き飛ばすと、襲いかかってくる他の冒険者たちを迎え撃った。

 武器持ち相手に素手でだ。だが問題ない。襲いかかってくる剣や斧を次々かわしては、拳で鎧を砕き、盾を割り、兜越しに一撃を入れた。


「ぐっ!」

「がはっ!」

「ま、まぐれじゃねえ。このおっさんとんでもなく強いぞ!」

「くそ、素人のお嬢様さらうだけの仕事がなんでこんなことになるんだ」

「こんな強い護衛がいるなんて聞いてねえぞ!」


 俺にやられて冒険者たちが後ずさる。結構タフだな。店を壊したくないので俺も手加減したが、こいつら自身もBランクにしてはかなり鍛えてある。

 こんな手練れの冒険者が女の子一人を狙う理由、ますます気になってきた。


「が、ガアアアアアアア!」


 その時後ろから(けだもの)のような唸り声が聞こえた。


 振り返ると、最初に突き飛ばしたAランクリーダーの姿が変わっていた。全身の筋肉が膨れ上がり、髪は逆立ち、目は赤く血走っている。

 足元には薬瓶が転がっている。わずかに残った薬の色を見るに、あれは鬼人化薬だな。


「あーあー、物騒なもん使っちゃって」


 鬼人化薬は筋力など攻撃系のステータスを3倍にするが、寿命を縮める諸刃の剣だ。

 仲間の冒険者たちもこれは予想外だったのか、騒ぎ出す。


「あの薬を使ったのか!? 死んじまうぞ!」

「しかたねえ。ルチアーナ誘拐に失敗したら、俺達の身だって危ないんだ」

「あいつの覚悟を無駄にするな! 隙ができたら俺達も突っ込むぞ」

「ガ、ガアアア……! オマエラ、オレがコイツをヤル。アト、タノム」


 やれやれ、なんだか悲壮感ある戦いになってきた。

 とはいえ、鬼人薬を飲んだAランク冒険者の相手はさすがに()()()でもきついな。


「しかたない。俺も指輪外すか」


 俺は右手に嵌めているパワー制御の指輪を()()外しカウンターに置く。

 コトン。

 すると、冒険者たちにステータスを見れるやつがいたらしく、目を見開いた。


「ば、バカな!!? おっさんのステータスがいきなり跳ね上がったぞ!?」

「嘘だろ、あの強さで手加減してたってのかよ」

「グ、グルアアアアア!!!」


 鬼人化したリーダーが突っ込んでくる。俺はそれを両腕で受け止めた。

 ダンプの突進を食らったような衝撃が身体に走る。衝撃で足元の床が抜けた。しまった。床も張替えだ。


「ちくしょう、内装費高いんだぞぉぉ!」

「ガ!? ガアアアアア!!?」


 俺はリーダーを持ち上げると、頭から地面に向けて叩きつけた。リーダーは床に突き刺さり、犬神家みたいな格好になる。


 仲間の冒険者たちが驚愕した。


「鬼人化しても敵わないのか!!?」

「う、うそだ、なにかの間違いだ……」


 俺は振り返って告げる。


「さて……、後はお前たちだけだな」


「「「ひ、ひいいいいいい!!!」」」



 ◆◆◆◆



「やれやれ、とんだとばっちりだ」


「「「うう……」」」


 襲ってきた冒険者たちを片付けて店の外に積み上げる。俺はパンパンと両手についたホコリを払った。


 謎の女の子ルチアーナが、その光景を見てつぶやく。


「すごい……」


 ソラちゃんも感心したように拍手していた。


「さすがマスター、やりますね〜」


「ま、はきだめ横丁に店を構えている以上これくらいはな」


「マスター結構強いですよね。意外と冒険者とか向いてるんじゃないですか?」


「はっはっはっは、俺は冒険者をやる気はないよ」

 

 今はもう、な。


 冒険者たちは縛り上げて、一旦店の裏に転がしておく。ここははきだめ横丁、すぐに警察が来てくれるような場所ではないのだ。

 片付けを終えて、改めて俺はルチアーナと向き合う。


「さて、流れで助けちまったが、あんたにも聞きたいことがある。ルチアーナとか呼ばれていたな。一体何者だ?」


 俺が冒険者たちを倒したのは店に危害を加えたからだ。ガラの悪い連中ではあったが、あいつらが悪者だと決まったわけでもない。

 さすがにここまで関わっては、事情を聞かないわけにいかないだろう。


 ルチアーナはやや緊張した様子ながらも、口を開いてくれた。


「こんな事になったのだもの、説明しないわけにはいかないわね……。まずは助けてくれたことに礼を言うわ、ありがとう。……私はルチアーナ・ド・メルポート。ここロワール王国の隣りにあるシュヴァン公国の、メルポート伯爵家の長女よ」


 俺より先にソラちゃんが仰天した。


「えええ〜〜〜〜っ!!? 伯爵家のお嬢様!?」


「事情があって身分は隠していたの。ごめんなさいね」


「いえいえいえそんな。ひえ〜〜、私貴族のお嬢様って初めて見ました」


「貴方おもしろいわね」


 ルチアーナが手で口元を隠してころころと笑う。なるほど貴族的仕草だ。ソラちゃんは、ひえ〜と顔を赤くして黙り込んでしまった。


 後をついで俺が尋ねる。


「それで、シュヴァン公国の貴族のお嬢様がどうしてこんな場所に?」


「それは……」


 ルチアーナは最初言い淀んだものの、やがて意を決したように頭を上げた。


「私はシュヴァン公国の第一王子ナイジェル様の婚約者だった。だけどナイジェル様毒殺未遂の嫌疑をかけられて、国を追放されてしまったの」


「王子と婚約者? 追放?」


「毒殺!?」


 俺とソラちゃんが同時に声を上げる。にわかに話が物騒になってきた。マジで国家規模の事件と関わりがあったとは。


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