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第16話 呪具店 カンタレラ

 俺は普段、様々なデバフアイテムを身に着けている。強くなりすぎた俺は、自分の身体能力を抑えないとうっかりで事故を起こしかねないからだ。


 例えば俺が首から下げているシルバーネックレスは、常に魔力を吸収し続け百分の一にする(代わりに吸収した魔力を蓄えておいて、いざという時に放出できる)。

 右腕につけてるブレスレットは回復阻害効果がある。怪我をした時の回復時間を千分の一にするのだ。俺の身体はこれをつけてないと腕が吹き飛んでも一瞬で再生してしまう。

 左手にもゴツい指輪を二つはめている。それぞれ、スピードを五分の一、パワーを十分の一にするものだ。


 これらを身に着けてさらに力加減をして、ようやく日常生活を送れているわけだ。

 先ほどチタン合金製タンブラーを壊したときは、戦闘訓練のために指輪を外していた。それでつい本当のパワーで握ってしまったわけだ。

 しかも最近は、パワーを十分の一に落としても力を持て余すようになってきた。


 デバフアイテムがないと気楽に料理もできない。今まで以上に強力なアイテムが必要だ。


 デバフにも色々あるが、一番強くて効果が長続きするのが呪いアイテムである。

 そこで俺は、はきだめ横丁にうってつけの店があるのを思い出した。



 ◆◆◆◆



「カンタレラ……ここだな」


 そう、喫茶店シリウスの常連、コハクの呪具店だ。

 俺も訪問するのは初めてである。呪具店という禍々しい響きとは裏腹に、瀟洒な三階建ての洋館風だった。


 コハクは、どうしようもなく呪いを愛し呪いに愛されているという特殊体質を持っているが、普段は常識を持った大人の女性である。

 呪い憑きという体質のせいで嫌われがちだが、偏見なく接すれば真っ当に付き合える相手である。色々と相談することもできるだろう。

 俺はためらいなくカンタレラの扉を開いた。


「お邪魔するよ。コハク、いるか?」


 店の入口から見える奥のカウンターで、コハクが刀を抱えるように持ち、抜き身の刃に舌を這わせていた。


「はぁ……はぁ……君すっごいきれいな呪いだね。素敵……♡ 妖刀でしょ、わかるよ……はぁ……はぁ……」

「お邪魔しましたー」


 何も見なかったことにして扉を閉じる。

 閉めた扉の先から悲鳴が聞こえてきた。


『ギャーーー!!!! マスター!? マスターナンデ!? 待って待って違う違うの〜〜〜〜! つい素敵な呪いを見てテンション上がっちゃっただけなの! お願い戻ってきて〜〜〜!』


「ごゆっくり。俺は今日見たことは忘れるから」


『違うの! ほんと違うの! お願いだから待って〜〜〜! ホントお願い再チャンスをください。待たないと呪っちゃうよ!!!』


 そこまで言われたら仕方がない。五分ほど待ってから再び入店する。


「どーも。コハク、落ち着いたか?」


 中ではコハクがカウンター裏に腰掛け、(しと)やかな姿勢で本を読んでいた。長い白髪をゆっくり耳にかきあげたところで、初めてこちらに気づいた風に顔を上げる。


「……あ、マスター。いらっしゃい」


「よくそんな何もなかったように取り繕えるな……」


「何の話かな???」


 どっこいしょ、とカウンター前の椅子に座る。


「さっきの刀、ありゃ一体何だったんだ?」


「もー、忘れるって言ったじゃん……。あれね、ムラマサっていう天八津国の刀なんだ。前から海賊店長に頼んでいたんだけど、この前ようやく極東で買い付けて届けてくれたの」


 海賊店長……ああ、サイモンのことか。


「あいつ、相変わらずとんでもないブツ運んでるな。極東まで行ってたのはそういうことか」


「そうそう。すごいよねあのひと。天八津国って遠すぎるし島国だしで正規ルートじゃ全然交易できないんだよね。海賊店長がいてくれてよかったよ。ちょっと観るだけのつもりだったんだけど、抜いたら我慢できなくなっちゃって……。キャッ、天八津国の妖刀が手に入るなんて、シ・ア・ワ・セ」


「またやばい顔になってるぞ」


「おっといけないいけない興奮しちゃった。すーはーすーはー」


 深呼吸してコハクが落ち着きを取り戻す。


「それで、今日はどんな用件かな?」


「それなんだが……」


「あ、ちょっと待って! マスターうちの店来るの初めてだよね? うちってほら呪いの店だから細かいルールが色々あるの。ちょっと先に説明させて」


 コハクはそう言ってカウンターの下をごそごそすると、ドン、と紙の張られたボードを出してきた。


「うちでいちばん大事なルール九つです。ちゃんと覚えてね!」


「九個もルールがあるのか!?」


 なになに……。


【店主コハクから、『カンタレラ』ご利用に当たってのお願い】

一、私の身体に断りなしに触れちゃダメ。


二、店内の道具にも断りなしに触ってもダメ。必ず私に聞いて。


三、店の二階には上がらないで(呼ばれてもダメ。私は絶対呼ばない)


四、店内に44分以上いちゃダメ。4日間続けて来てもダメ。


五、店を出るときは必ず聖水を全身にかけること(店内販売あり)。


六、どんなにのどが渇いても店内で飲食をしないこと。


七、店に来るときはなるべく手荷物を減らすこと。また店を出た後荷物の中に見覚えのない品物が入っていた際、絶対に触らず私に相談すること。


八、店内で背中に視線を感じた時、絶対に振り返ってはいけない。


九、店内で自分のフルネームを口にしてはいけない。名前を呼ばれても答えてはいけない(私はお客さんを名前で呼ばないよ。その特徴からなるべく抽象的なあだ名を使うので、察してね)


「こっわ」


 読み終えた俺は思わずつぶやいていた。

 コハクがにこやかに言う。


「怖くないよ。ルールさえ守れば安心安全なお店だよ」


「いやこのルール見せられて怖くないは無理があるんだが……。まあいい、わかった。必ず守るよ」


「ありがとー」


 嬉しそうに笑って、コハクがボードを片付ける。

 なんというか、本当に呪具店なんだなあ……。

 コハクがあらためて尋ねてくる。


「で、今日は何の用?」


「デバフアイテムになりそうな呪具ってないか? なるべく強力なやつがいい。ああ、周りに呪いは振りまかないやつでな」


「いがーい。マスター倒したい相手でもいるの?」


「いや、使うのは俺だ」


「へ? 使う? じぶんで???」


 コハクが心底不思議そうな顔をするので、俺は一から説明することにした。

 俺が、元高ランク冒険者だった時からの話だ。

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