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喫茶店『舞夢』の忙しない一日(ランチタイムは戦争だ!)

 官公庁の窓口はお昼時だからといって閉鎖するわけにはいかない。十一時を回る頃には、早めの昼休憩をとる市役所の職員さんでテーブル席の半分が埋まった。

 鯖おろし煮と豚肉生姜焼き。いつもは半々って感じでオーダーが入るのに、急に暑くなったせいか、さっぱりと食べられるであろうAランチの注文が多めにはいった。昼過ぎにやってくる常連さんの中には、魚メニューしか食べないって人が複数いる。このペースだと売り切れも考えられるので、とりあえず、五食分の鯖おろし煮を取り置いてもらえるよう伊藤さんに頼んだ。

 『舞夢』のランチは基本ごはん大盛無料。郵便局や警察関係の人はそれなりに量を食べる人が多い。二升焚きの業務用炊飯器二つ分用意しているけど、足りなさそうに感じたら追加で炊かないといけない。

 フロアを律子ちゃんに任せて、伊藤さんと二人でオーダーの盛り付けをこなしていく。豚肉生姜焼きはオーダーが入る毎に小さなフライパンで肉と玉ねぎを炒めてタレで仕上げる。伊藤さんが肉を焼いている間に

お皿にキャベツを盛り付け、お盆にご飯とお味噌汁と小鉢を並べて置く。定食やカレーライスはそれほど手がかからないけれど、オーダーが積み上がっていく中でパスタやサンドイッチのオーダーが入るとペースが乱れてしまう。パスタは茹でおきする訳にはいかない。麺を茹でる間、コンロを一口分占領するので、調理の効率が落ちてしまうのだ。

 サンドイッチもなかなかに手間がかかる。ミックスサンドは玉子とハムと野菜がワンセット。玉子サンドはパンにバターを薄く塗り、マスタードを少量加えたマヨネーズで和えたゆで卵を挟んだもの。ハムサンドはちょっと厚めにスライスしたロースハムに塩を振ったキュウリを挟んだもの。野菜サンドはレタスとトマトと鶏むね肉を細切りにしたものをドレッシングで和えたものを挟む。八枚切り相当とはいえ六枚の食パンを使ったミックスサンドは意外にボリューミーだ。それにポテトチップスを添えて提供している。

「サンド、あと2分!」

「ミート、8分待ち!」

「鯖、残十一。豚生姜、残十六!」

「サンドのドリンクとスープ準備済です」

オーダー品を少しでも早く、正確に提供できるように厨房とフロアで声を掛け合う。今日は律子ちゃんが入ってくれているからスムーズに回っているけど、あまり馴れてない子だと大騒ぎに拍車がかかるのだ。

 各メニューのオーダーから提供までの目標時間は決まっていて、定食やカレーは五分以内。パスタは茹で時間があるので十五分以内。サンドイッチは十分以内になっている。

「すみません、交番セットのオーダー受けていいですか?」

カウンター越しに律子ちゃんが聞いてきた。交番セットというのは正式名称『国府宮駅前交番スペシャル』という裏メニューで、以前、国府宮駅前に有る交番のお巡りさんがカレーライスとナポリタンの大盛りをワンプレートで出してくれと注文した事が生まれた特盛メニューだ。注文できるのは稲沢警察署の関係者かつ混雑していない時間帯のみなのだが……

「ランチタイムは無理。カレーの特盛なら受けていいよ」

「はい」

 ちょっと客席を見てみると、注文したのは私服姿の地域課のお巡りさんだった。残業して帰るついでに立ち寄ってくれて、ダメ元で注文したんだろう。あの人は普段からどんぶり山盛りの御飯を食べる人だ。

 律子ちゃんにスペシャルのオーダーを断られ苦笑いしたあと、特盛なら受けますって言われて目を輝かせていた。

「オーダー入ります。Cランチ特盛お願いします」

「はーい。律っちゃん、モーニングの残りのバナナが有るから、それを一本つけてあげてね」

 お店で一番大きな深皿に、どんぶり二杯ぶんのご飯を盛り付ける。それにラッキョウと福神漬けを添えてカウンターに置く。カレールーの盛り付けは律子ちゃんに任す。多分、大き目のお玉でたっぷりとカレーをかけてくれるはずだ。

 ランチタイムの混雑第一波は十一時四十分過ぎに収まった。正午過ぎの第二波に備えて、野菜やサンドイッチの具材を追加で仕込む。

「美奈ちゃん、ごはん追加で炊く?」

 今の段階で準備した白米の半分近くが消えていた。ランチタイム終了の二時まで持つとは思えない。

「もう一升炊いちゃいましょうか?」

「その方がいいかもね」

 ランチタイムが終わったあともカレーライスはコンスタントに出る。夕方からの営業用に準備しておいた炊飯器に火を入れた。

 溜まっている汚れた食器を洗浄しているうちに第二波がやってきた。定食の注文はやっぱり鯖が優勢。それでも生姜焼き四人前のオーダーが一度に入ったので良いペースで売れてると言えた。

「鯖、残六。豚生姜、残十ね。」

「はーい このペースだと鯖が一時前に品切れになるかもですね?」

「どうする、鯖は何枚か冷凍してあるけど、それを追加で煮ようか?」

「いえ、品切れなら品切れでしょうがないですから」

 理想は仕込んだ魚も肉もランチタイムのうちに売り切れてしまう事だ。ちなみに材料が残った場合、高い確率で私のお昼ごはんになるので、出来れば品切れになってほしい。

 その後もコンスタントに日替わりランチのオーダーが入り、ランチタイム終了間近になって、AランチとBランチ合わせて四十食が完売になった。


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