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喫茶店『舞夢』の忙しない一日(出会いⅣ)

 重いガラス扉を押し開けて店内に入り冷蔵ケースのコーナーに向かう。自分用に缶コーヒー。律子ちゃんと美奈子さん用にも同じ物を買おうと思ったけど、喫茶店勤めの二人に缶コーヒーはないだろうと思い直して缶入り紅茶を手にした。

 

 会計を済ませて公衆電話のところに戻ると、律子ちゃんが「お父さんが酒飲んだからこんな事になったんでしょ!!」と電話の向こうにキレているところだった。一瞬、目が合ったら、ばつが悪そうな表情を浮かべたので黙って車に戻った。

 プルタブを引っ張り、コーヒーを一口すする。腕時計を見ると二十一時半少し前。これから律子ちゃんを事故現場に送り届け、警察が到着するまで待つとすれば、家に帰りつくのは二十二時を回りそうだ。それからゴチャゴチャやったら布団に入るのは二十三時近い。明日の仕事に差し支えるほどではないけど、起床時間を考えるとちょっとキツイな。そんな事を考えていたら助手席の扉が開き、律子ちゃんが戻ってきた。


 「オーナーさんに連絡ついた?」


 「はい。オーナーは出かけてたけど、娘さんが出先でオーナーを拾って現場にきてくれるそうです」


 「家の方は?」


 「母に事故の事を話したら、お父さん叩き起こして、一緒に来るって言ってました」


 お父さんが多少酔っ払っていたとしても、まあ、いないよりはマシだろう。


 車を駐車場から出して来た道をもどる。信号待ちで車を停めたところでビニール袋に入った紅茶を渡した。律子ちゃんはお金を払うと言っていたが「黙って飲んどけ」と言ったら、お礼は倍にして返しますと言って受け取ってくれた。


 「オーナーさんかお父さん、知り合いに自動車修理工場の知り合いいるかな?」


 現場検証が終わったらレッカー車手配して修理工場に運ばないといけない。ディーラー持ち込みだとしても、どこかに一晩保管する必要がある。もし伝手があるなら、それを活用した方がスムーズにいくだろう。


 「うちの親はJAFを呼んで、一晩、お店の駐車場に置いたらどうだって言ってました。オーナーの方は、まだ話してないから判りませんけど、ガソリンスタンドも経営しているから、修理工場とかも手配してもらえると思います」


 「そうか。あとは新幹線のフェンスが歪んでいるから、ジェイアールの管理している部署に警察経由で連絡するか、現場検証が終わってから早めに連絡した方がいいね」


 幸いフェンスが破れて人が簡単に侵入できるような状態ではないけど、連絡せずに放置したら当て逃げ扱いになってしまって後々面倒なことになる。連絡すれば、担当者が現場を確認して必要に応じて修理交換。あとは保険屋とジェイアールとの話し合いだ。


 「事故って本当にめんどくさいですね・・・・・・」


 「まあね。特に今回は、場合によっては業務中の事故って扱いになりかねないからね」


 「業務中の事故?」


 「うん、一応、仕事が終わった後、業務の一環として従業員を自宅まで送る途中って考える事も出来るから。保険屋によっては支払いを渋るかもしれない」


 「・・・・・・面倒くさい」


 「だからこそ、オーナーさんと君の親御さんも、現場検証に立ち会って、後処理に巻き込んだほうがいいんだよ」


 「どうしてですか?」


 「多分だけど、美奈子さんって事故責任を全部被るつもりでいるんじゃないかな」


 一言、二言会話をしただけだけど彼女は責任感が強いタイプだと感じた。毎日、朝から夕方まで働いて、店長に代わって店の諸々を回している。オーナーの血縁ならともかくアルバイトの身分でやる仕事内容ではないと思う。苦労を自分から背負いこむタイプ。そんな彼女の事だ、車や壊したフェンスの修理費も、諸々かかる経費も自分で払おうとするだろう。オーナーや律子ちゃんの家族には悪いけれど、現場検証に立ち会ってもらう事で、当事者意識を共有してもらって、費用負担について話し合って欲しいと思った。


 「確かに、事故を起こしたのは、自分のせいだからって言いそうですね」


 「まあ、通りすがりの人間が言うのもなんだけど、悪いのは無茶な運転したトラックであって、運転していた美奈子さんのせいでも、送ってもらった君でもない」


 君のお父さんが約束破ってお酒飲んでなかったらって思わなくはないけどね。務めて軽い口調で言った冗談に、律子ちゃんは初めて大きな声をあげて笑い「家帰ったら締めます」と言った。


 110番通報から十五分ほどが経ったところで、美奈子さんが待つ事故現場に戻った。

 律子ちゃんを降ろしてから少し先の畦道に頭を突っ込んで車をUターンさせた。車を降りて二人がいる場所に移動する。当然ながら発炎筒は燃え尽きていたけど、ハイビームを点灯させ、反射板を置いた事故現場を通る車は、多少なりともスピードを落として通過するようになっていた。


 律子ちゃんは、オーナーと自分の家族がこちらに向かっている事を美奈子さんに報告していた。美奈子さんの手には缶入り紅茶が握られていた。

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