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12/18

喫茶店『舞夢』の忙しない一日(クローズまで)

 十七時。普段ならPBシフトにバトンタッチして上がる時間だけど、今日はまだ三時間以上働かないといけない。

 夕方の混雑は日によって波がある。

 今日は一般的な給与支給日の直前ということもあって、大混雑とまではならないだろう。

 この時間にやることは、ごはんやカレーなどの余り具合のチェックだ。

 今日はランチタイム終了後もカレーライスのオーダーがちょこちょこ入った。

 ごはんの残りはカレー皿で五杯分くらい。カレーは三人前くらいだろうか……

 カレーが売り切れた場合は、裏メニューのオムライスが登場する。

 カレーライス。パスタ(ミートソース、ナポリタン、カルボナーラ)。サンドイッチにホットドック。それにパフェとケーキ。

 もう少しフードメニューのバリエーションを増やしたらどうかとも思い、店長にレシピを含めて提案するんだけど、めんどくさがり屋の店長は首を縦に振らない。

 オムライス、グラタン、ドリア、ピザトースト辺りなら、今すぐにでもレギュラーメニュー化出来るんだけど、仕事が増えるのが嫌なのだろう。

 

 カウベルが鳴り、体格の良い男性二人組のお客様が来店された。

 由美子ちゃんがお席に案内した後、律子ちゃんが準備していたお冷とおしぼりを持ってオーダーを聞きに行く。

 厨房の中では、由美子ちゃんとお客様の会話のやり取りは聞こえないけれど、雰囲気からして、初めて由美子ちゃんを見かけたのだろう「君、新しく入った子?」的な会話が交わされているようだ。

 すぐ近くには律子ちゃんがいるし、お客様の顔を覚えるのも、お客様に顔を覚えて貰うのも、フロア担当としては大切なことだ。

 一分ほど会話を交わした後、二人分のオーダーを伝えに由美子ちゃんは早足でサービスカウンターにやってきた。


「オーダー入ります! カレーライスセットごはん大盛。大里交番スペシャルをお願いします!」


 あら、ごはんの残り具合からして、スペシャルメニューの提供は厳しいんだけど……


「うわ〜 ライス足りないわ〜!」


真樹ちゃんがなんだか嬉しげな声を上げる。


「由美子ちゃん、スペシャルがつくメニューを受ける時には、先に厨房に提供できるか確認しなくちゃダメよ……」


大里交番スペシャルはカレーライス大盛とナポリタンのセット。今日のごはんの残量からして、提供は難しい。


「ライスの大盛りができない時は、別メニューの大盛りでいいそうです」


 すかさず律子ちゃんがサポートに入ってオーダーの内容を説明してくれる。なるほど、一分ほどのやり取りのなかで、ライスが少ない時はスペシャルのオーダーを受けられないことを説明済みなのね。


「ナポ大盛は大丈夫だから、ピザトーストか、パングラタンでいいか聞いてみてくれる?」


 今の時間帯の調理のメイン担当は真樹ちゃんだ。彼女は私の目配せをしつつ、由美子ちゃんに提供できるメニューを伝える。


「ピザトーストかパングラタンですね! お客様に確認します」


 由美子ちゃんは了承を示すかのように、右手を軽く上げた後、客席に戻っていく。そして、彼女をいつでもフォローできる立ち位置に律子ちゃんも戻っていく。


「パングラタンだといいな。パンの耳、まだ、たっぷり残ってるから、オーナーに出したのと同じで、ガーリック効かせてあげれば男性に受けると思うんですよね!」


 ああ、真樹ちゃん、本当にパングラタンのレギュラーメニュー化を狙っているのね。

 夕方の時間帯、ライスの在庫が底をつき、カレーライスのオーダーストップはちょくちょくある。

 追加で炊けばよいのだけれど、戦争経験者のオーナーは食べ物を廃棄することに強い忌避感を持っているので、追加で炊くより他のメニューを提案しろという。

 でもカレーライスの代わりがパスタとかサンドイッチとはならないのよね……

 オーナーの方針が徹底されているので、うちのお店の食品ロスは、他の喫茶店に比べて少ないと思う。

 野菜をカットした時に出る、お客様に提供出来ない部分(キャベツの芯とか人参、ジャガイモの皮等)は、日替わりスープの出汁として使う。野菜出汁のスープは甘みがあって、やさしい味わいと評判で、お味噌汁の代わりにスープをってリクエストするお客様がいるほど人気がある。

 お客様の食べ残しとか、ドリップしたコーヒー豆の残滓。出汁を取った後の野菜屑。そういった物はオーナーの家の畑の肥料になる。

 紙ナフキンや包装に使われたビニールやプラスチックゴミはさすがに業者に回収してもらうけど、それはさすがにしょうがない。

 

 私が産業廃棄物に思いを馳せている間に、オーダーが決まった様だ。先ほどと同じく由美子ちゃんがやってきて


「オーダー入ります! カレーライスの代わりはパングラタンでお願いします!」


と高らかに宣言する。


「はーい ナポリタンとパングラタンの提供は十五分ちょうだい!」


 真樹ちゃんの念がお客様に届いたのか、パングラタンのオーダーが入る。

 

「じゃあ、私がナポ作るね」


 真樹ちゃんに一声かけて、冷蔵庫で保存している茹でおきのパスタを準備しておく。

 ナポリタンとパングラタンを同時に提供するには、グラタンの焼き具合を見計らうのが大事。


 トーストしたパンの耳を一口サイズにカットして、大き目の耐熱皿に並べる。同時並行で具材を炒め、それをグラタン皿に投入。


「焼き上がり、八分でお願いします」


「はーい」


 真樹ちゃんの言葉に、カットしたソーセージと玉ねぎ、ピーマンをフライパンで炒め始めた。


 オーダーストップの十九時三十分。お店に残っているのは、ほぼ常連のお客様。

 律子ちゃんと由美子ちゃんが各席を回って追加オーダーを確認したけど、残念ながら追加は無しで、厨房的には閉店状態だ。

実際には十八時半以降はフードメニューのオーダーは入らず。私と真樹ちゃんは一足早く、厨房内の片付けと掃除を始めた。

 ガスコンロの五徳部分を外して、カネヨンと金属タワシで徹底洗浄。厨房の床は、洗剤をぶち撒けてデッキブラシでゴシゴシ擦る。その後はホースで水を撒いて洗剤を洗い流す。

 一日の終わりの最後の重労働。本当にキツイ。

 床洗浄が終わったら、専用のゴム手袋とマスクを装着。

 グリストラップの蓋を開けて、籠状の網に溜まったゴミを取り除いて水を撒く。

 厨房内の排水はこのグリストラップに流れて、油分やゴミは水槽内に沈澱する。臭いし、排水が跳ねて手や顔に付いたりするので、一番嫌な作業だ。


 厨房の片付けが終わる頃には、最後のお客様もお帰りになり、サインボードを店内に収納して、駐車場を鎖で閉鎖する。

 私がレジを〆ている間に、食器洗浄、各テーブルのシュガーポットをカウンターに集めて、害虫や異物が混入することが無いように業務用ラップをかけたりする。

 レジ〆作業は十時、十四時、二十時と三回行う。本日の売上金、釣銭準備金ともに過不足なし。スタッフみんな優秀って褒めてあげたい。


 私が通し勤務の時は閉店前にオーナーがやってきて、売上金を回収していくのだが、今日は私達が帰った後で回収する予定。

 レジ下の手提げ金庫に、釣銭準備金と共に入れておく。

 これにて閉店作業完了。





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