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雲枕  作者: 葱と落花生
99/158

99 村祭りは全面戦争

 こんな最中でも「村の祭があるぞー」と連絡が来た。

 暫くぶりに、温泉へ寄ってから診療所に帰って、後続部隊を待つ事にした。

 これだけ世間が大騒ぎしている時でも、村の祭は行われるのだからたいしたものだ。

 聞くところによれば、戦争があろうが飢饉だろうが続けられてきた祭で、内戦如きでは中止にならない。

 いつもの年なら何の心配もない祭だが、今年はエネさんに敵対する過激派の勢いが異常に強くなっていて、危険な祭になるとの予想が成されている。

 昭和会の爺婆が万一に備え、天使だか悪魔まで呼び寄せている。

 少しばかり安心している風な事になっているが、呼び寄せたのが俺の知っている奴なら、かえって逆効果だ。

 妙なまじないで患者の痛みを和らげる事はできるが、あいつは見境のないスケベ野郎だ。

 他の事で心配の種になりかねない。


 温泉でのんびりしたら、すっかり帰る気が失せた。

 このままここでゆったり過していたい。

 気乗りはしないが、皆が参加すると言うから仕方なし村に向った。

 不穏な動きが活発な時期。

 夜間は危険で昼間の移動だ。

 しかしながら、村に近付けば近付く程、帰らない方が宜しい雰囲気が増してくる。

 毎年の事ではあるが、十月になると村は悪霊祭りで活気付く。

 神無月由来の、神を無視した祭り。

 起源は神代の昔にまでさかのぼるとされているが、近年はハロインと混同傾向。

 祭の趣旨がまったく不明になっている。


 数少ない村のイベントだ。

 残念な事に、普段から危ない村の犯罪発生率は、この時期に急上昇して暫く下降しない。

 過激派エネが、村を侵略するには絶好の祭りだ。

 ここはしっかり診療所で御留守番を決め込もうと、浴衣に着かえてテレビを点けたら、あおい君に景気よく消された。

「今回の御祭は名ばかりですよ。実際は、過激派エネに操られた反乱軍と、政府軍の全面戦争なんですよ。第二病院で待機していなさい」

 強い命令口調だ。聞いてないよ。

 祭で飲んだくれてやると思っていたが、今回ばかりは当てが外れた。

 診療所では危険だから、急いで病院に向かう。


 部屋でまったりしていると、近所で車から出火して怪我人が出たの一報が入った。

 ここのところ鉄砲の弾ばかり摘出していたから、真面な怪我人は久しぶりだ。

 しっかり手術の準備をして、ついでに院長の芙蘭も呼び出す。

 急患受け入れ口兼正面玄関で、救急車の到着を待ってやる。

「久しぶりだもんなー。銃撃戦以外の急患、ワクワクウズウズだもんなー、急患。先生顔色悪いよ」

 隣りで蒼くなっている芙蘭を、心配してやるふりをしてみる。

「副理事、サングラスかけたままですよ」そう言われてみれば「おお、そーだったねー。血の色がねー、どうも苦手でねー。早く来ないかな、急患。弾取り飽きたもんねー、何か息苦しいよね。久しぶりに事故の急患で緊張しちゃってるのかな」

「副理事、ガスマスクしたままですよ」

「おお、そーだったねー。血の臭いがねー。どうも苦手でねー。早く来ないかな、急患」

 血の色と臭いが苦手なので、この装備はいたしかたない。

 今更ながら、この急患を担当する意義があるのだろうかとも思うが、興味本位野次馬的執刀の方が優先されている自分が偉い。


 腕を骨折した若衆が担ぎ込まれると、すぐに放射線検査室に向かった。

 ここには15号が勤務している。

 ロボットだから放射線に頗る強い耐性で、照射しているその脇で直接観察できるのがこの病院の強みだ。

「放射線が漏れています、患者の知識も漏れています」

 知識が視覚的に感知できるものかどうかは別問題として、確かにこの若衆は幾分足りなくなってきている。

 腕の骨が五つに増えている。

 細かく砕けたのは放っておくとしても、腕の形は元に戻さねばならない。

 したがって、若衆は即刻手術室行きとする。


 手術室では信じていない神に祈ってやる。

「神よ、我に力を与えたまえ。何か見た事あるよね、この人。ほらチン○《ピーーー》の先っちょ撃たれて、一回来た事あるよね。パンツ下ろして見る?」

 メスを握ったままパンツを下ろそうとして、手が予期せぬ所を切ってしまった。

「あらっ?」

 玉袋辺りから血が噴き出してきたが、あわてる風を見せるとスタッフが動揺しかねない。

「副理事、またやっちゃいましたね」

「んー、成功率がかなり低くなりましたねー。神に祈りましょう」

「副理事、一昨日神様ともめてませんでした」

 神様とはどういった事か、この質問あたりから意識が薄っすらとしてきて、記憶が曖昧になっている。

 世の中色々有り過ぎて、神はとうとう俺とまで付き合う様になったか。

 それならそうとはっきり教えてほしい。


 いつの間にか手術を終えていた。

 戦場で色々あったから、そろそろ医者を引退した方がいいかなーなどと考えていると、またもや呼び出され手術室に向かわされた。

 未来科研へ泥棒に入った者らしいが、あそこにも銃弾を摘出する程度の医師が待機している。

 わざわざこの病院に搬送してー。

 遙は俺が病院で手術をしていると聞いて、泥棒を殺す気か拷問のつもりでいるに違いない。

 期待に応えて、ガーゼを傷口にあててグリグリしてやと、患者がバタバタする。

 そうしておいてから、看護師が患者を殴って気絶させる。

 麻酔はこの後に嗅がせてやった。

「先生、ちょっと時間いいですかね。言っておくべき事があるんですけど」

 遙が手術中に話掛けてくる。

 明らかに、気を散らして手術を失敗させる作戦と見た。

「んー、いいけどさー。治療しながらでいいかなー。まーた馬鹿チンどもが出入りで撃ち合いやっちゃったみたい、忙しいのよ」

 と……この患者は出入りの撃ち合いで負傷したのではないようだ。

 遙が、大口径のリボルバーを腰からぶら下げている。

 こいつで撃ったのかと聞いてやりたかったが、ついでに俺まで撃たれたのでは割りが合わない。

 黙っておいてやった。


「副理事、この人口心臓……」

 手術室に放置された人工心臓を看護師が俺に見せる。

「忙しくてさー、まだやってないんだよね。延期って言わなかったっけー」

「聞いてませんよ、患者さん退院しましたよ。先生は名医だって言ってましたけど、傷跡も残さないって」

「……奇跡でも起きたかなー」

 とにかく、最近は記憶が曖昧で困っている。


 手術を片付けて未来科研に行くと、遙がパソコンのデーター解析画面の異常を見せてくれる。

 二人で修復の為に試行錯誤をするつもりらしく、よく分からパソコンを操作させられる破目に陥った。

 遙はどんなチョンボをしでかした。

 酷く混乱している様子だ。

 いくら混乱していても、携帯でメールを送れない機械音痴に手伝いをさせていい訳がない。

「時間は未来にしか進まない」

 遙が訳の分ないからない言葉を呟く。

「時間とお前さんがやっちゃった事と、何か関係ある訳ー」 

 質問はしてみいるが、聞いたからとて理解できるとは思っていない。

「特に関係は無いわ」 

 関係無いなら言うんじゃない。

「これでダークエネルギーをいじくっちゃったのかな」

 適当に知っている言葉を並べてみた。

「うん、最近の異常現象が収まる筈だったんですけどね、ダメだったみたい」

「いいじゃん、元々この村は異常な事ばっかりだったんだからさー」

「そうはいかないわよ、村が破壊されているんだもの」

「村の破壊ってさー、御前がやらなくたって誰かがやったと思うけどなー」


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