99 村祭りは全面戦争
こんな最中でも「村の祭があるぞー」と連絡が来た。
暫くぶりに、温泉へ寄ってから診療所に帰って、後続部隊を待つ事にした。
これだけ世間が大騒ぎしている時でも、村の祭は行われるのだからたいしたものだ。
聞くところによれば、戦争があろうが飢饉だろうが続けられてきた祭で、内戦如きでは中止にならない。
いつもの年なら何の心配もない祭だが、今年はエネさんに敵対する過激派の勢いが異常に強くなっていて、危険な祭になるとの予想が成されている。
昭和会の爺婆が万一に備え、天使だか悪魔まで呼び寄せている。
少しばかり安心している風な事になっているが、呼び寄せたのが俺の知っている奴なら、かえって逆効果だ。
妙なまじないで患者の痛みを和らげる事はできるが、あいつは見境のないスケベ野郎だ。
他の事で心配の種になりかねない。
温泉でのんびりしたら、すっかり帰る気が失せた。
このままここでゆったり過していたい。
気乗りはしないが、皆が参加すると言うから仕方なし村に向った。
不穏な動きが活発な時期。
夜間は危険で昼間の移動だ。
しかしながら、村に近付けば近付く程、帰らない方が宜しい雰囲気が増してくる。
毎年の事ではあるが、十月になると村は悪霊祭りで活気付く。
神無月由来の、神を無視した祭り。
起源は神代の昔にまでさかのぼるとされているが、近年はハロインと混同傾向。
祭の趣旨がまったく不明になっている。
数少ない村のイベントだ。
残念な事に、普段から危ない村の犯罪発生率は、この時期に急上昇して暫く下降しない。
過激派エネが、村を侵略するには絶好の祭りだ。
ここはしっかり診療所で御留守番を決め込もうと、浴衣に着かえてテレビを点けたら、あおい君に景気よく消された。
「今回の御祭は名ばかりですよ。実際は、過激派エネに操られた反乱軍と、政府軍の全面戦争なんですよ。第二病院で待機していなさい」
強い命令口調だ。聞いてないよ。
祭で飲んだくれてやると思っていたが、今回ばかりは当てが外れた。
診療所では危険だから、急いで病院に向かう。
部屋でまったりしていると、近所で車から出火して怪我人が出たの一報が入った。
ここのところ鉄砲の弾ばかり摘出していたから、真面な怪我人は久しぶりだ。
しっかり手術の準備をして、ついでに院長の芙蘭も呼び出す。
急患受け入れ口兼正面玄関で、救急車の到着を待ってやる。
「久しぶりだもんなー。銃撃戦以外の急患、ワクワクウズウズだもんなー、急患。先生顔色悪いよ」
隣りで蒼くなっている芙蘭を、心配してやるふりをしてみる。
「副理事、サングラスかけたままですよ」そう言われてみれば「おお、そーだったねー。血の色がねー、どうも苦手でねー。早く来ないかな、急患。弾取り飽きたもんねー、何か息苦しいよね。久しぶりに事故の急患で緊張しちゃってるのかな」
「副理事、ガスマスクしたままですよ」
「おお、そーだったねー。血の臭いがねー。どうも苦手でねー。早く来ないかな、急患」
血の色と臭いが苦手なので、この装備はいたしかたない。
今更ながら、この急患を担当する意義があるのだろうかとも思うが、興味本位野次馬的執刀の方が優先されている自分が偉い。
腕を骨折した若衆が担ぎ込まれると、すぐに放射線検査室に向かった。
ここには15号が勤務している。
ロボットだから放射線に頗る強い耐性で、照射しているその脇で直接観察できるのがこの病院の強みだ。
「放射線が漏れています、患者の知識も漏れています」
知識が視覚的に感知できるものかどうかは別問題として、確かにこの若衆は幾分足りなくなってきている。
腕の骨が五つに増えている。
細かく砕けたのは放っておくとしても、腕の形は元に戻さねばならない。
したがって、若衆は即刻手術室行きとする。
手術室では信じていない神に祈ってやる。
「神よ、我に力を与えたまえ。何か見た事あるよね、この人。ほらチン○《ピーーー》の先っちょ撃たれて、一回来た事あるよね。パンツ下ろして見る?」
メスを握ったままパンツを下ろそうとして、手が予期せぬ所を切ってしまった。
「あらっ?」
玉袋辺りから血が噴き出してきたが、あわてる風を見せるとスタッフが動揺しかねない。
「副理事、またやっちゃいましたね」
「んー、成功率がかなり低くなりましたねー。神に祈りましょう」
「副理事、一昨日神様ともめてませんでした」
神様とはどういった事か、この質問あたりから意識が薄っすらとしてきて、記憶が曖昧になっている。
世の中色々有り過ぎて、神はとうとう俺とまで付き合う様になったか。
それならそうとはっきり教えてほしい。
いつの間にか手術を終えていた。
戦場で色々あったから、そろそろ医者を引退した方がいいかなーなどと考えていると、またもや呼び出され手術室に向かわされた。
未来科研へ泥棒に入った者らしいが、あそこにも銃弾を摘出する程度の医師が待機している。
わざわざこの病院に搬送してー。
遙は俺が病院で手術をしていると聞いて、泥棒を殺す気か拷問のつもりでいるに違いない。
期待に応えて、ガーゼを傷口にあててグリグリしてやと、患者がバタバタする。
そうしておいてから、看護師が患者を殴って気絶させる。
麻酔はこの後に嗅がせてやった。
「先生、ちょっと時間いいですかね。言っておくべき事があるんですけど」
遙が手術中に話掛けてくる。
明らかに、気を散らして手術を失敗させる作戦と見た。
「んー、いいけどさー。治療しながらでいいかなー。まーた馬鹿チンどもが出入りで撃ち合いやっちゃったみたい、忙しいのよ」
と……この患者は出入りの撃ち合いで負傷したのではないようだ。
遙が、大口径のリボルバーを腰からぶら下げている。
こいつで撃ったのかと聞いてやりたかったが、ついでに俺まで撃たれたのでは割りが合わない。
黙っておいてやった。
「副理事、この人口心臓……」
手術室に放置された人工心臓を看護師が俺に見せる。
「忙しくてさー、まだやってないんだよね。延期って言わなかったっけー」
「聞いてませんよ、患者さん退院しましたよ。先生は名医だって言ってましたけど、傷跡も残さないって」
「……奇跡でも起きたかなー」
とにかく、最近は記憶が曖昧で困っている。
手術を片付けて未来科研に行くと、遙がパソコンのデーター解析画面の異常を見せてくれる。
二人で修復の為に試行錯誤をするつもりらしく、よく分からパソコンを操作させられる破目に陥った。
遙はどんなチョンボをしでかした。
酷く混乱している様子だ。
いくら混乱していても、携帯でメールを送れない機械音痴に手伝いをさせていい訳がない。
「時間は未来にしか進まない」
遙が訳の分ないからない言葉を呟く。
「時間とお前さんがやっちゃった事と、何か関係ある訳ー」
質問はしてみいるが、聞いたからとて理解できるとは思っていない。
「特に関係は無いわ」
関係無いなら言うんじゃない。
「これでダークエネルギーをいじくっちゃったのかな」
適当に知っている言葉を並べてみた。
「うん、最近の異常現象が収まる筈だったんですけどね、ダメだったみたい」
「いいじゃん、元々この村は異常な事ばっかりだったんだからさー」
「そうはいかないわよ、村が破壊されているんだもの」
「村の破壊ってさー、御前がやらなくたって誰かがやったと思うけどなー」




