表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲枕  作者: 葱と落花生
94/158

94 アルトイーナ撲滅祝い

 この夜、アルトイーナ撲滅祝いと称して、久蔵マスターがスペシャルディナーショーを開催した。

 いつからかヘコと久蔵が、二人で関わっていた御釜軍団のショーも行われている。

 おおよそこの手の不運な少数派が生業とするのは、酒を客の胃袋に無理矢理流し込み、ぼったくる飲食店の接客係。

 客の肝臓にアルコールを強制処理させて、ぼったくる見世物小屋の踊り子。

 日頃から行われている厳しい芸事の練習が、世界の要人を楽しませるに十分な結果をもたらしている。

 少数派の悲哀と、開き直った笑いを織り交ぜたダンスとトークショーは、男にも女にも出来ない芸当だ。

 悲劇的少数派のみが表現できるものだから、見慣れない者には衝撃的に面白可笑しい。

 しかし、何故にこの場に釜軍団がいる。

 ショーを見せる為だけにいるなら、下品すぎる。

 いかに世界規模の無礼講とはいえ、下手にこの手の連中が冗談トークを好き放題に放ったなら、紛争の火種を撒き散らしているのも同然だ。

 本当の無礼講など、この世に存在しない。

 よほどの事情が無い限り、この場へ出しゃばって来る事の無いように計らうのが国際平和の為だ。


 久蔵が玄武と打ち合わせのふりをしているが、どうせ今世紀最悪のコンビ、ロクでもない話ばかりだ。

 この宴会が原因で、世界のあちこちに核の雨が降らん事を願う。

 賑やかしもほどほどに済んだところで、久蔵が釜軍団を紹介する。

「これからこの者達は、既に地球に到達しているアクエネ偵察部隊との直接交渉に向う予定であります。現在地球で起きている異常現象は、この偵察部隊が引き起こしていると考えられます。先行きどうなるか分かりませんが、皆さんが立っているこの基地から彼等が発進完了するまで、航空機の飛行を一切停止してください。まだ実験さえも行われていない未知の発進手段ですので、上空で何が起こるか予測できません。安全の為ですので、どうか御協力お願いします」

 アクエネ偵察部隊って……もう来ていたのかよ! 

 この日から全地球の制空権を遙の未来科研が握った。

 巨大な宇宙船がバックについているアウトロー軍団・未来科学研究所。

 逆らえば地球の半分でも吹き飛ばしかねない連中の御願いとあっては、聞かない訳にはいかない。

 地球の武力は軟弱としか言えないのが現状で、こんな状態で地球外知的生命体との交渉も何もあったものではないと強く感じる。


 数日して、有朋が学生を連れて母国に帰ると言い出した。

 アメリカでは彼に敵対していた組織がほぼ壊滅状態となり、身の安全が確保されたからだとしている。

 実の処、日本で学んだシェルター活用のノウハウを、アメリカで生かす為だと正直に話しているふりをしている。

 俺の知る限りこ、いつが日本で学んだのは、丁半博打の胴元と裏稼業の危なっかしい起業方法だけだ。

 危険な資金調達方法なら、アメリカの方がはるかに進んでいる。

 もっと別の只ならぬ荒稼ぎの方法でもあるのか。

 科学的技術云々といった類でないのだけは自信を持って言える。

 有朋達がアメリカに帰って、プロジェクトを援護するのは悪い事ではない様に見えるが、奴の事だから、非合法の嵐がアメリカに吹き荒れるのは必至だ。

 アメリカ政府も、とんでもない奴を雇ってしまったものだ。


 アメリカに行ったと思ったら、一週間もしないで有朋とその一団が帰って来た。

 どこにも行く当てが無いのか、組事務所に数十人がひしめいている。

 地代を踏み倒してアメリカに行ってしまったので、この時とばかりに卑弥呼が取り立てで喚き散らしている。

 何と言っても気になって仕方ないのが、組事務所の上空に浮かんでいる宇宙船だ。

 静かに浮かぶ宇宙船。

 騒めく気配が無いのが救いだ。

 地域性だろうか?

 有朋は日本に来る前に稼いでいた資産の殆どを、この小型宇宙船につぎ込んでいた。

 地球で一度も売り出された事の無い乗り物だ。

 どんな価格で取引してもいいが、有朋が俺に配当として差し出した額と同額で買い取ったならば、一億ドルの買い物となる。

 ペロン星人にとっては自転車程度の物だ。

 とても高く売れたと思っているに違いない。

 小型と言っても、ゆうに五十人は乗れる代物だ。

 地球人からすれば、一億ドルは安い買い物とするべき物。

 いずれ大金を持っている者にとっての安いで、常識的な金額ではない。

 宇宙空間に行っても、数年は帰還しなくても生活できる設備が整っている。

 変わった物好きの有朋は、組事務所の地代も支払わないで、この宇宙船を手に入れた。

 アメリカ政府に協力しているのだし、母国でやりたい放題荒稼ぎ出来る。

 地代くらい払ってやればいいのに。


「地代っていくらよ、代わりに払ってやろうかー」

 言って見て聞いてタマゲタ。

「月額一千五百六十八万円!」

 どんなに広く見積もっても千平米の敷地面積だ。

 この辺りの土地価格相場なら、一週間分の地代で買い取れる。

 有朋が勝手にこの土地に組事務所を建てたのに腹をたてた卑弥呼が、売り買いの話をしながら賃貸契約書にサインさせていた。

 紛れもない不動産詐欺のトラブル。

 過激な取り立てと過剰な払い渋りの攻防戦。

 この巻き添えを食って、毎月末には診療所に流れ弾が飛んで来ていた。                                

 有朋の引っ越しで、こんな事態から解放されると安心していたが「何で帰って来たのー」

「アメリカで割り当てられた宿舎が、地下施設の一角だったんだなー。やっぱり本物の太陽の下で生活したいからね。宿舎をこの組事務所にして、毎日ここからアメリカまで通う事にしたんだよ」

 小型宇宙船なら、ものの数分で行き付ける。

 可視光スティルス機能で透明航行しても、気流の乱れは隠せない。

「毎日そんな事して良いのか?」

「おいらの勤務地はエリア51だからね。何でもありだよ」

 同行している学生からの情報によれば、エリア51周辺の観光組合から、小型宇宙船の出演料をもらって可視航行している。

 ここしばらく大人しくしていた宇宙船の飛来とあって、地元メディアが大騒ぎして経済効果は鰻登り。

 学生達も着ぐるみを着て、宇宙人のアルバイトでウハウハしている。

 昔から思っていたが、アメリカって国は軍備費に莫大な出資をしておきながら、緊張感が今一伝わって来ないのは何故だろう。

 報道規制でもしているのか。


 ふと気づくと、事務所の奥にネイティブアメリカンのテントが張られている。

 乾燥した地域から来たらしく、薪を乾かさないでテントの中で燃やしている。

 目に浸みる煙が、診療所まで流れ込んで来る。

 暫くすると久蔵が、キャデラックのモデル314・千九百二十六年車に乗ってやって来た。

「なんつうか、俺、呼ばれちゃったかな。久しぶりに、ねっ! ねっ!」

「俺は呼んでないよ」

「だってさ、ほら、狼煙上ったからさ。決めて来たのさ」

「あー、上がっちゃってるね、目に痛くて暖かくない暖房の副産物」

 頭の羽根飾りがでかくて、どんな角度から見ても西部劇に出て来る酋長さんがテントから出てきた。

 テントが張られた時点で連想しなかった訳ではないが、あからさまに酋長だ。

 久蔵と酋長は知り合いだった。

 有朋の小型宇宙船に便乗して来ていたコヤツは、アメリカで活動しているエネさんが創った久蔵タイプの生命体モドキ。

 久蔵が現代に馴染んでいるのに対して、時代錯誤も甚だしいこの御仁、アメリカの懐の広さと言うか、大らかさとするべきか、日本で侍がうろついていたら、相当目立つだろうが、アメリカではこんな人がウロウロしていても平気らしい。                     


 エネさんは地球人にアクエネの襲来を警告する為、太古から土着宗教を利用してきている。

 限られた地域での小競り合いは有っても、現在まで土着宗教間での争いがなかったからだ。

 国際間のトラブルに成ろうはずも無く、国際交流が無かった時代からエネさんの活動は始まっていた。

 今でも土着宗教を継承する団体が、避難シェルター建設プロジェクトに携わり、建設に関わる人達が生活するカテゴリーの、中心的立場を維持している。

 観測や建築シェルターの維持管理をし、研究について情報共有する。

 世界規模の連絡網を持つ組織は、執拗に伝統を重んじる人達に運営されていた。

 酋長の情報によれば、世界各地で観測されていた赤い目の黒い翼を持った生物が飛び交う現象は収まった。

 新な問題として浮上して来たのが、日本でも観測されている小惑星の接近だ。

 アクエネの宇宙船ではないとの観測結果だが、このまま予測軌道を進めば地球に衝突する筈だった。

 これが、尋常ならぬ力が小惑星に働いたらしい。

 彼等にとっては小惑星が地球に衝突するよりも、何等かの力によって軌道を変えられた事の方が重大問題。

 アクエネの本体が、近い将来地球に飛来して来ると予想している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ