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雲枕  作者: 葱と落花生
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91 脱税所得が公然の秘密

 ドームを案内してくれる15号が、病室のドアをノックしてぶち破った。

 力加減のセンサーが故障している。

 修理をしてもらいに行く途中のついで仕事に、俺のドームめぐりが組み込まれていた。

 出来れば、修理した後にしてほしかった。

 病室から車に乗るまでの通路に、何枚か壊れた扉が転がっている。

 15号、俺に触るんじゃない。


 ドームと呼ばれている地域。

 こんな場所があったのか。

 長くこの街に住んでいるが、高層住宅が立ち並び、綺麗に整備された公園や歩道の街路樹。

 洒落たブティックに喫茶店、レストラン。

 立派に都会している様はSFの未来都市だ。

 行き交う車には車輪がない。

 車輪がないから車とは言わないか。

 学校はあるけど生徒も先生もいない。

 病院に人影はなし。

 車で移動している者は全員作業員風だ。

 彼等がいなかったら、ゴーストタウンと変わらない。


 少し行くと人通りが増えて来た。

 先ほどの町並みとは打って変わった現代の街に、生活する人々の活気がある。 

 当たり前に街の風景だが、教科書に載る程の過疎地域にはふさわしくない人口密度だ。

 こんなに人がいるのを見るのは、のん兵衛祭の時くらいだ。

 どこから湧いて出た。

 人間なのか、人間じゃないのか。

 これだけ人間がいたら、も指定過疎地域になんかならない。

「この人達、普通の人じゃないんですよ。地上で行方不明になった人ばかりなんです」

 アンドロイドの御前が、人間を指して普通じゃないと言うな。

「普通じゃないのは自分だと自覚しろ……今、地上って言ったね」

 青空が見えているのでてっきり地上だと思っていたが、ここは地下と理解すべき発言でいいのかな。

「おおよ、ここは地下じゃ。ゴニョゴニョ」

 いつから隣にいたんだ、酷く心臓に悪い奴だ。


 地下に建造中のシェルターってのは、ここだったのか。

 でかすぎる。

 シェルターの規模を超えた巨大地下都市だ。

 労力は行方不明とされている人達で、もう数代にわたって地下で暮らしている家族も珍しくないとか。

 地上に出られない生活ではないようだし、そこそこ快適であろう事は街の活気を見れば分かる。

 極秘の工事ではあるが、彼等は全員が世界公務員の扱いとなっている。

 生活と身分は保障されているし、費用の殆どを磯一族が負担しているのは、一族のエゲツナイ商売からして想像がつく。

 地下都市は幾層にもなっていて、俺が卑弥呼と初めて会ったペロントンネルは施設の最上階に位置し、地下都市入口の一つだった。


 俺はてっきり、宇宙船とペロントンネルが施設の全貌だと想像していたので、この規模の大きさには開いた口が塞がらない。

 それでもなお拡張工事中だと言うのだから、永久に続く公共事業に、尽きない財源と強大な影響力。

 過激派エネでなくとも、トップの座を狙いたくなるだろう事は俺でさえ考えが及ぶ。

 磯家代表代行など引き受けてはいない。

 周りが勝手に決めて勝手に思い込んでいるだけだ。

 事情を飲み込み理解するほど、この命が風前の灯であるのが真実味を帯びてくる。

 診療所のヨレヨレ医者に戻りたーい。


 婆ぁは何処ぞに用事があるとかで消えた。

 修理の終わった15号と、数日かけて地下シェルターの都市部を見学して回る。

 地下施設の規模と形からすると、琴音が手記に残した神社の全景は、地下都市にそのまま投影されているように思える。

 神社の配置は、そのまま地下シェルターの設計図だったようだ。

 実際に居住している区域は限られているが、施設の殆どは完成している。

 有事に備えた施設だから、利用されていない方がいいとは言うものの、少々勿体無い気がする。

 見学した施設で総てではない。

 最下層には戦闘傭員となった人達の専用施設があるらしいが、トップシークレットだとかで俺でも見る事が出来なかった。

 誰が建設してるのかとの疑問に、エネさんに頼まれてペロン星人が造ったロボットが従事していると説明された。

 エネルギー遮断バリアが張られ、エネさん達でも入れない地域になっていて、誰が入れるのかと聞いたら「誰も入れません」との回答も得られた。

 意味があるのかよ。

 秘密にし過ぎてないか。

 誰も入れないとなると、いざって時に使えない。

 矛盾だらけの施設だ。


 そんな事より、磯家代表ってのを辞退したい。

 もしくは、この最下部地下施設並に極秘にしてもらいたい。

「今にゃ、御前さんの死亡届出して来たかんね。ゴニョゴニョ」

 人の死亡届勝手に出すんじゃないよ。

 ひょっとして、俺が芙欄にやったのと同じ手を使われたのかなー。

「もう帰っていいから。ゴニョゴニョ」

「死亡届を出された身で、オメオメ帰ってノオノオと暮らせるか」

「その辺の所は、行き当たりばったりで。ゴニョゴニョ、ヨロシク」

「大丈夫なのかよ?」

 とりあえず脅威は排除出来たから用無しって事で、帰ってバーベキューやって酒飲んで寝るか。

 久しぶりの診療所だ。


 病院、診療所、砂防林。

 プラプラする日々を過ごしていたら、突然診療所に黒塗りのリムジンがやって来た。

 どこのお偉いさんが来たかと思いきや、いつも診療所でたむろしている昭和会の玄武爺さんだ。

 普段は和風パッチワークだらけの野良着なのに、今日は袴姿に必要の無い杖をついての登場。

 ケッタイだ。

 昭和会の総会に招待したいと迎えに来てくれたらしいが、実に具合の悪い事態だ。

 誰かに誘われて出かけた時、決まって良い事はない。

 きっとこの呼び出しも、都合の悪い事の前ぶれに決まっている。

 昭和会には病院占拠事件の時、果敢に協力してもらっておきながら、ありがとうの一言も言っていない。

 警察に協力しただけで、ありがとうと言わなければならない道理など無いと考えていた。

 加えて、昭和会は筋の通らない事が嫌いな人達と認識している。

 俺が御礼を言うような筋違いをやったらば、きっと殺されると思って何も言わずに今日まで来た。 


 今頃になって怒り出したか。

 ありがとうと言っても言わなくても、拳銃を撃たせてあげなかったから怒られて殺されるのか。

 埋めるなら九十九里浜にしてくれ。

 御礼しなかった事を怒るなら警察に言ってくれ。

 自衛隊に言ってくれ。

 つまらない所でケチな日本国政府に言ってくれ。

 琴音の手記から、昭和会の御老人方の多くは、神社に関わりを持って生きて来たのが分かっている。

 朱雀や玄武といった四神とか、猿や鳥と言った具合に干支だったり、一風変わった姓の方ばかり。

 診療所を開いて直ぐの頃は気になったが、土地柄かと思い次第に慣れてしまった。

 昭和会は昭和生まれのヤンチャ爺婆の集団で、元神主や巫女が多く在籍している。

 神社は出来た時から社を賭場として利用してきていて、博打場とする為に地域へ神社を多数建設してきたとも言える。

 この地域一帯に有る多くの神社は、個々特有の遊戯方法による博打場であっただろう事からして、太古のカジノシティーだったと推測できる。

 今も昔も非合法の手段を用いて、多額の収入を得ていたのだ。


 人口も少なく事業所も限られている。

 税収は予算を大幅に下回り、国からの助成金無しには成り立たない行政区。

 なのに、平均的営みが維持されている財源は、申告不要の脱税所得が有るから。

 公然の秘密だ。

 地域の経済発展は御老人達が影となり、日向に出る事無く尽力して来た結果だ。

 下手に弄れば、地域経済の崩壊を招きかねない。

 昭和会には、警察も滅多な事では手出し出来ない。

 久蔵は取り込み詐欺の件でしょっ引かれたが、取り調べだけで直ぐに出て来ている。

 ここまでは理解しているが、その先の暗黒部分については知りたくないのが正直な気持ちだ。

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