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雲枕  作者: 葱と落花生
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80  俺、ホスピスに入るわ

 周りの一大事が見えていないのか、昨日は近所の物置に隕石が落ちて火事騒ぎになった。

 病院の駐車場にも落ちて、止めてあった芙欄の車を直撃した。

 奴は車両保険に入っていないと泣いてた。

 もしも願いが叶うなら、明日は芙欄の寝室を直撃してほしい。


 流星に御願いは本当に叶うものだったのか? 

 最近つくづく思う。

 今朝、芙蘭の家に隕石が落ちた。

 家と言っても病院敷地内にある寮で、幸いにも他のスタッフは外出中だった。

 部屋の窓から飛び込んできた隕石被害。

 コンクリートの床に、人が出入り出来るほどの大穴が開いた。

 破壊力は凄まじかったいのに、芙欄が無傷だったのが残念でならない。


 昼になると、隕石やオーロラ等の超自然現象の原因について、政府見解が発表された。

 地球地軸のズレと、太陽フレアからの磁気嵐が原因? 

 地軸はズレていない。

 北極星の位置が変わっていない! 

 磁気嵐とのたまっているが、これも疑問だ。

 電子機器に何の異常もない。


 人口密度の低いこの地域でも、ボチらボチら隕石による人的被害が出てきている。

 直撃を受けた人はまだいないものの、住宅に落ちた隕石の影響で家屋が倒壊し、下敷きになって担ぎ込まれた急患がついさっき亡くなった。

 緊急避難警報がそこら中に出されている。

 都市部では、ビルのガラスが飛散して怪我をするのは日常茶飯事。

 もはやニュースにもならない。

 病院も、隕石予報が出た時の一時避難場所になっている。 

 昼夜を問わず人が大勢だが、その病院の寮にも隕石が飛び込んで来るのだ。

 安全と言い切れる場所は、地下施設くらいしかない。


 日本中がパニックになっている時に、第二病院買収の頃に一度来たきりだった親父が診療所にやって来た。

 着くなり「バーベキューだー」はないだろう。

 診療所までわざわざやって来て、何か言いたい事があるのだろう。

 昔から自分の考えを人に伝えるのが苦手な人だった。

 今日は一際無口だ。

 無言のまま食っては飲むを繰り返している。

 曲がりなりにも病人だ。

 少しは自重してもらいたいものだ。

「俺、ホスピスに入るわ」

「ちょっと待てよ、いくらあんたが理事長の病院だかって、旅行気分で入れる施設じゃないよ」

 言ってはみたが、本気モードの食いっぷり飲みっぷり。

「御前には随分と苦労を掛けた、これからは兄弟仲良く病院を守っていってくれ」ネチネチ始まった。 


 兄に電話して「親父がいかれちまったから、迎えに来てくれ」と頼んだが

「今日ばかりは診療所に泊めてやってくれ。癌が転移して手の施しようがない」突き返された。

 兄と姉も、夕刻になって診療所にやって来た。

 二人とも忙しい身で、白衣のまま病院スタッフに送ってもらう車中で仮眠していた。

 枕を抱えている。

 ここ十年、家族全員が一つ屋根の下に集まっての夕食はなかった。

 第一病院の屋上でキャンプごっこをした時のように、家族でバーベキューをと思ってはいたが、こんな形で実現するとは思ってもいなかった。

 山武家伝統の夕食と言えば、病院食の残りと売店の軽食、御祝い事にはバーベキューだったが、祝う事態ではないし病院食の残りもない。

 それでも、家族一緒が一番いい。


 あおい君とキリちゃんに朱莉ちゃん、第三病院の城嶋も参加して、芙欄が裸踊りを始める。 

 病院関係者でなくとも、ホスピスに入るのが何を意味するかは分かっている。

 それでも、奇跡を星に願った。

「親父が治りますように」 

 これだけ多くの流れ星があるのだ、一つくらいは道を外れた奴がいる。

 総ての患者にこんな感情を抱くのではない。

 結果は同じだが、経過で患者を差別している自分に少し腹が立った。

「御前、バーベキューって言ってるけど、これ、正式にはグリルだからね。光る土偶持ってるだろ、持ってきなよ」

 持ってはいるが親父、発言に脈絡が無くなっている。

 土偶をどうしようというのだ。

 数日して、この疑問が解決した時は収拾がつかなくなっていた。


 ホスピスの警備は厳重で、末期の痛みを和らげる為に禁止薬物がそこかしこ無造作に置かれている。

「痛い」と言われたら、すぐに鎮痛剤が投与できるようにしている為だ。

 それもこれも、患者の負担を極力軽くする工夫に他ない。

 勿論、患者が好き勝手に取り扱えるほど簡単な保管状態ではない。

 だが、盗もうとすれば、これ程容易い薬物保管状態は極めて稀だ。

 特徴的なのは、現行法を無視している点だ。

 法律がどうであれ、患者にとって良かれと思えるならば、出来うる限りの我がままに付き合う。

 病院内のビニールハウスで薬草を栽培しているのも、その一環だ。

 病院が扱う薬草は、殆どが漢方薬になる。

 証人保護プログラムで保護している証人が、山間の温泉宿で行き会った霊だったから御願いできた事で、臨機応変に警察と駆け引きをしている。

 証人保護プログラムで、警察が使っている敷地の地代は支払われていない。

 取り決め自体があやふやなのだ。

 契約書など作ったのでは、秘密保持の観点から都合が悪い。

 その辺りをチョチョンとツツイテやれば、話の解らない人達でもない。

 病院としては、時代の先取りをしただけだ。


 ホスピスは病院施設内で唯一の喫煙可能エリアでもある。

 当然だが、飲酒もありだ。

 あと僅かの命。

 死への恐怖を忘れてもらう為。

 束の間の極楽を味わってもらっている。

 死刑を執行するのは死神でも、患者に告知をしたのは医者だ。

 余命を告げる時ほど情けないものはいない。

 挫折感の塊になる。

 せめてもの罪滅ぼしがホスピスだ。

 うなだれた自分の感情を、患者と一緒に立ち直らせる為、ホスピス送りにした主治医が、その後の容体を気にかけチョイチョイ面会に来る。

 短い期間に、出来るだけの事をしてあげなければならないのがホスピスだ。

 復讐などのように、第三者に危害を及ぼすような行為について、病院は完全に否定している。

 ただ、当ホスピスにあっては、有朋がコンサルタントとして出入り自由になっている。

 詳しくは書けない。

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