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雲枕  作者: 葱と落花生
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69 宴会の費用は公費から横領

 ミンチにしてから水分を抜いて、微粉末にしてもシェルターに入りきれない数の会員を、いざという時になったらどうやってさばく気だよ。

「そんなやり方で大丈夫なのかよ」

「平気さ、僕は経営に関わっていない人間になっているからね、書類上は。もうすぐ会社更生法の申請をするんじゃないかな。まあ、上の連中の腹積もり一つでどっちに転がるかは分からないってのが本音だよ」

 リゾートから手を引いてシェルター事業に鞍替えしたとはいえ、山城組と対立するクランク商事が絡んでいるとなると、終いには食い潰す気で関わっている。

 それは分かるが、投資話が出た時から首謀者が誰なのか気になっていた。

「そのー、上の連中って、何者。誰。名前あるの?」

「それが分かっていたら、こんな深みまで関わらないのだよ。大きな組織だってのは分かるのだけどね。どこまで活動範囲が広がっているのか現在調査中ってところかな。下手に手出ししたら、こっちが食われてしまうからねー」

 こっちが食われかねないと用心深い発言ではあるが、ヘコは俺より卑弥呼や遥との付き合いが長い。

 この前も、俺に出資の相談をしながら、既に二人との協力体制はできているような口ぶりだった。

 ちっこい国なら半日で乗っ取れるだけの科学力と武力を持った二人をバックに控えているヘコを、用心深くさせる相手とはどれほど強大な力を持っている奴なんだ。

 調査中なら聞きようがない。

 諦めるしかないのが非常に辛い。


「リゾートに医師の代表で転任したって、野ざらしから連絡があったけど、それっきり梨の礫なんだよなー。あいつから聞き出せないのか」

 ヘコに提案してみる。

「ああ、彼とならどうにか連絡しあっているのだよ。潜入捜査官みたいな事をやっていてね、今は噴火があったばかりだから、リゾートで医師団を結成して被災地のど真ん中にいるのではないかな。しばらくは音信不通になるだろうね」

「お前、稼いだんなら救助活動に参加している医者の慰労会でも催して、その医師団ってのを招待しろよ。まあ、現場が落ち着かないとなかなかそうもいかないだろうがな」

「んー、それはいい考えだけど、僕はお金を出す気ないよ。最高責任者なのだから、国の予備費でもなんでも取り崩して、たんまり使い込んでやればいいのだよ。だーよ」

 無茶なわがままを言う野郎だ。


「宴会の費用くらいなら、防衛費か機密費から横領してやってもいいわよ」

 いつから入っていた。

 混浴でもないのに、遥が口をはさんできた。

「何してんだよ、男風呂だぞ」

「いいじゃない、女風呂はまだ掃除終わってないのー」

 自分達が入る風呂が終わったら、あとはどうでもいい連中が掃除を担当していた。

 女湯はすっかり忘れ去られている。

「それ以前の問題で、お前は恥ずかしくないのか」

「彼女達だって入ってるでしょう」

 湯船に浸かってしまえば、女にしか見えない下半身男を指している。

「いや、あいつらは……まあいいか」

 説明するのが面倒なので、費用は全額防衛省持ちとして、参加者制限なしの被災地救済慰労宴会の開催を、混浴と化した風呂場で決定した。


 こうなってくると、被災地だろうがどこだろうが、金さえ払えばマンモスの肉でも運んでくれる卑弥呼スーパーの出番だ。

 いったん運び込まれた非常用物資が、自衛隊によって他の所へ配給され、空いたスペースに一時間もしないで満杯の宴会資材が運び込まれた。

 一般的には金が絡んでくると不仲になるものだが、卑弥呼と遥の場合は金が接着剤替わりになっている。

 火事場泥棒より性質の悪い連中だ。

 被災地の救済を目的とした金を、まったく別の用途に使って当然といった風でいる。

 そんな奔放なやり方ではあるが、まるっきりでたらめにやっているのでもないから勘弁してやるしかない。

 放っておいたら死ぬまで現場で患者の治療にあたってしまうだろう医師や隊員を、むりやり現場から連れてきて宴会に参加させ、風呂に入れて休ませる。


 遠回りしているようだが、適度の休憩は現場での判断能力と処理能力を維持するのに必要不可欠だ。

 それが、いざ悲惨な現場に遭遇してしまうと、休憩の必要性を忘れ、終いには自分が二次被災者になってしまうなんて事にもなりかねない。

 しかしながら、どんな時でも何かが足りないのが政府やお役人の仕事。

 こんな事態になっても、医師や隊員の数が十分とは言えない。

 災害は戦争と同じだ。

 人の命がかかっている。

 こんな時こそ、予備役でも医学部や看護学科の学生でも、ドンと被災地に送り込んでやればいいものを、ちびちび小出しにして被害を広げている。


 こんな不満を見抜いたかのように、ペロン星人が秘密の病院からロボットやアンドロイドを次々と運んできた。

「あんまり大っぴらにはできないんだけんどよ、宴会に抜けてきた人の補充ぐらいはしてやんねえとなー」

 抜けた分の補充としているが、あいつらは二十四時間無休で働き続けていられる上に、二次災害に巻き込まれても自力で脱出できる。

 自衛隊員の交代要員として投入されたロボットは、重機なしでも瓦礫を瞬時に取り除けるだけの力持ちばかりだ。

 一部の者しか知らない超科学の結晶が、災害現場のいたるところで活躍する。


 火口ばかりを映して大騒ぎの、方向違いを報道していた連中も異変に気づいて、ロボットやアンドロイドを災害救助のエリート軍団として取り上げ始めた。

 ここでよせばいいのに、目立ちたがり屋の遥が出しゃばって「未来科学研究所で特別に訓練をした人達ですの、私達は政府に協力して、このような被災現場でより効率的な救助活動ができるように、日夜研究しているのですよ」

 こんな状況下でも、事後承認の報酬を当て込んで、適当な話で世間を煙に巻いている。

 ペロン星人が気をきかせてやっている救助活動を、金に換える段取りだけは怠らない。

 素晴らしいばかりの商人魂。


 最初のうちはそれで済んでいたロボットとアンドロイドの活動が、一段と加速している。

「お人好しにも程があるぞ」と教えてやりたくなる過剰な投入で、次々と患者を病院へ送り込む。

 やっちやんのいる病院を含め、近所の病院は総べて満杯で、これ以上の受け入れができないと連絡が入ってきた。

「ほんならよー、試験的に俺達の病院をフル稼働させてみるべかー」

 まともに患者を扱った事がない病院に、実験台のように重症患者を送り込む気でいる。

「お前ら、モグリの病院に患者引き込んでいいと思ってるのかよ」

 医師として、いちおう意見だけはしてやる。

「遥さんよー、今すぐ認可取れるだべか?」

 常識など持ち合わせていない。

 お役所仕事が、現場にそぐわない【御のろま】だと知る由もない。

 しかし、俺の言うのをまともに聞き入れてくれたのは一歩前進とすべきだろう。

「んー、二・三時間待っててくれる。ああ、その前に運ぶだけならやっちゃってもいいわよ。請求書も先に作っちゃっていいから」

 ペロン星人が、日本の常識を理解できない最大の原因は遥だ。

 この時初めて知った俺も間抜けの仲間だ。


 勢いつけて患者を運ぶペロン星人から「やっちゃん達がチームを作ってだなー、現場で医療活動に参加してるっぺよ」報告が入ってきた。

 受け入れできないERにいても仕方ないと判断したか。

 もう三日も休まず働いているのだ。

 ここで一休みすればいいのに、自分は元気に動き回れるからいいと思っているのだろう。

 他の人間の体調まで気の回らない奴だから、こんな時に困る。

「やっちゃんは過労で死んじゃってもいいから、他の人は適当に引き抜いてきて。ここでしっかり休ませてやってねー」

 現場のペロン星人にお願いして、俺は宴会の幹事としての仕事をまっとうすると決めた。


 いつもゝ呑んで食って騒いでばかり。

 マンネリ化した宴会は飽きられてしまう。

 幹事職としてやるべき事はと考えるに、内容を少しばかりいじくってやる必要があると思えた。

 被災現場はロボットとアンドロイドが大活躍。

 隊員には緊張感がなくなってきている者も若干見受けられる。

 これではいざと言う時に役にたたない。

 何の為に要員補充をしたのか分からなくなってしまう。

 今一度、この現場に投入された時のような、切羽詰まった状態にまで精神を高ぶらせ、尚且つ面白おかしく過ごして体にリラックスしてもらう方法は……。

 このさいだから、カジノか鉄火場でもやっちゃうか。

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