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雲枕  作者: 葱と落花生
67/158

67 火山列島日本

 この事件よりもっと差し迫った変化は、銚子の噴火が伝えられると前後して、十九ある九州沖縄の火山に、噴火の予兆が顕著であると避難勧告が出された事だ。

 遠くの地で起きている異変と言ってはいるが、この地域でも温泉が噴き出したり海水浴場が温泉になったりしている。

 宿屋や公共施設は、あっても殆どが木造の平屋か二階建てだ。

 唯一大きな津波や地震に耐えられそうな建物は、非常時の避難場所とされている学校の校舎だけ。

 それさえ耐震基準は、恐ろしく昔のもので作られている。

 実際に耐えられる保証などない。

 仮に耐えられたとしても、海から一キロ以上離れている。

 海岸沿いに住む松林の住人や、ペロン星人には逃げ場がない。

 このさいだから思い切って、有朋をだまくらかしてあの辺りに住む全員が入れるくらいのシェルターでも作ってやろうか。

 提案してみたが「俺達は時と運に任せて生きているから、余計な心配しないで、自分の逃げ場だけ確保しておけばいいさ」逆に諭された。

 もっとも、ペロン星人と松林の住人は、随分仲良くつきあっている。

 いざとなったら宇宙船に乗り込んで、どこへでも避難できる。

 それを考えると、余計な御世話だったのかもしれない。


 地震や津波といった災害時には、自然の力に負けないだけの科学力を彼等は持っている。

 ただ、呑んで酔っ払うと後先見境なく浮かれまくって、常識が通用しなくなる。

 困った連中になっているだけだ。

 自力で解決できない地球人の情けなさを置いておけば、この地域は災害時に世界で一番安定した一帯だと言える。

 一時的に診療所まで忙しくなる現象はあるものの、この忙しさが過ぎれば、そこそこ平和に暮らしていけそうな気がする。

 もう少しだけ頑張っちゃおうかな、などと思って過ごすこと数日、騒ぎがドンドン遠くの火山に向かって行った。

 千葉はこれで一段落したか。

 住民も救急も安心していた。


 九州の噴火が本格化して、もうすぐ本州にも飛び火してくるのではと噂していたら、一気に関東まで飛んできて、利根川の銚子・神栖間に掛っている銚子大橋が落ちた。

 やっちゃんのいる病院や港屋は、噴火口から少し離れている。

 灰を被る程度で済んでいるらしいが、河底が隆起してせき止められ、河が反乱していると報道している。

 上空から災害現場を撮影中、隆起した川底から水蒸気が登った瞬間、激しい爆風にヘリが巻き込まれた。

 ゆっくり落ちながら回転する映像は、うねる海と街に溢れた水が大きな波紋で道行く人を飲み込む姿だ。

 アナウンサーの背後に写された噴火口は話している側から凄まじい勢いで成長して、中継車が慌てて逃げるので忙しくなると現場からの中継もなくなってしまった。


 数分間、現地からの映像が途絶えた後に復活した報道画像は、被災者救済に駆け付けたボランティアが乗るバイクからの映像で、大型バイクに乗った一団が、次々と被災者を救出する様子も映し出している。

 やっちゃんの病院に急患が大勢担ぎ込まれるのは、確実な状況で、俺達にも院長からの応援要請が入った。

 ペロン星人と遙の未来科研が、噴火の現場に行くとはりきっている。

 未来科研と付き合いの長い自衛隊までも、上官の命令が出る前から現地で動き始めている。

 こんな時には誰が指揮を執るのかと気になっていたが、どうせ現場で救助活動している総ての動きは事後報告で、政府のお偉いさんが「夜も寝ないで頑張って被害を最小限に食い止めました」くらいの発表をするばかりだ。


 そんなこんなの事情から、勝手に俺を現地の最高指揮官にした奴がいる。

 これをできるのは、自衛隊の心臓部まで食い込んで、いつでも刺し殺せるようにナイフを突きつけた商売をしている遙しかいない。

 断る手もあったが、あっちに行ったはいいが、あれもこれも上からの指示があるまで動けません、では、助かる命を救えない

 どうせロクデナシのレッテルを張られた医者だ。

 刑務所に入れられても長い事ない命だから、適当に使ってやってくれ。

 現地調達の、にわか指揮官に任命されてやった。

 

 ペロン星人が提供した宇宙船で現地に行くと、市の消防本部が管制塔になって救急搬送を指示していた。

 浸水した住宅地から怪我人をボートで運び、そこから救急車に乗せてのリレー式救出は、消防だけでは追いつかない。

 自衛隊への出動要請が出される前に、駐屯していた部隊へ救助活動に参加するよう指示した。

 患者は橋から近い病院へと順次運び込まれているが、俺達は港屋に作戦本部を設置して、病院に行くほどではない患者の手当てをしながら、救出部隊の指揮にあたる配置についた。

 誰もが火山の噴火で上空を見ている中、宇宙船を飛ばして地域住民の不安をあおってはいけない。

 港屋沖で上陸用舟艇に乘り替え、宇宙船は海底に沈めた。


「お久ー」

 宿に着くなり緊張感なく、温泉気分の御気楽挨拶をする。

 俺ばかりか同乗していた者達が皆同じような雰囲気でいるとなればら、それまで宿に漂っていた暗い雰囲気が一気に消える。

 診療所とペロン星人と有朋組が、今日はここに御泊りするから部屋を確保。

 宿泊名簿に名前を書く。

 来る度に宴会をしているが、今回は災害が始まったばかりの大騒ぎで、食材どころか寝る所もないと言われそうだった。

 俺達の立場を先に告げる。

「非常事態宣言が布告されました。防衛大臣並びに内閣総理大臣の権限をもって、この宿を接収させていただきます。最前線は若い者に任せ、近所の怪我人・病人はここで応急処置をして、しかるべき施設への移動をいたします」

 素面で真面になって言えば、大嘘でもそれなりに聞こえるものだ。

 これでこの宿は俺が好きに使える。


「来る度に寝ている猫を見るとうらやましいなー」

 アインがボケーっと俺を見ているから、言っても分からないだろうが一言皮肉ってやった。

 ペロン星人が以前来た時に作った海底トンネルを、沖に沈めた大型宇宙船までの通路に復活させる。

 復活させても、できたばかりのシェルターに設置したエスカレーターでは患者をスムーズに運べない。

 計画性のない救護班だなーと落胆していたら、満更無計画でもない。

 有朋達がバスほどの宇宙船を使い、横坑を宿の出入り口まで延長、そこから地上まで立坑を作ると、患者搬送用の大型エレベーターを設置した。

 僅か一時間ばかりの早業で、宿にいた者達が拍手を贈る。

 有朋達が一旦エレベーターに乗って下に降り、カーテンコールに応えて再びエレベーターの戸を開けて深く御辞儀をする。

 何度か繰り返すといい加減客も飽きてきて、拍手が止んで設置完了となった。


 エレベーターが出来上がると、次はエレベーターを囲うように臨時の診療所が必要となる。

 プレハブで事務所を一軒完成させているので有朋組が作るかと思っていたら、自衛隊の大型ヘリがぶら下げて来た箱を置いて、トンネルやエレベターよりもっとお手軽に診療所設置を完了した。

 診療所が出来ると、慌ただしくトラックやヘリが資材を運んで来る。

 駐車場に次々仮設の病院テントが張られ、軽傷の者は少し休んで、症状が安定したら家に帰ってもらう様にした。

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