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雲枕  作者: 葱と落花生
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65 大金持ちになったのか?

 のんびり七の雑貨屋で買った缶コーヒーを飲みながら、診療所に着いてみると宴の支度が忙しそうだ。

 日本どころか世界中で、人間に対して自然が妙な抗議活動を開始している。

 こんな噂が、ひっきりなし飛び交うこの頃なのに、地域に住んでいる奴等は変わった事件が大好きだ。

 誰も慌てず急がず、適当に災害ライフをエンジョイしている。

 良い事なのか困った事態かは、見る者の気の持ちようでどうとも取れる現象だ。

 そのあたりは俺と無縁の世界と割り切って、とりあえずは死なない程度に飲んで食う。


 派手な宴会が終わり、頭痛のきつい朝早く。

 山城親分が診療所へやってきて「いやー、なんだ。近所の者まで非難できるでっかいシェルターをなー。ありがとうよ」礼を言ってきた。

 組の者だけでも二十人ばかりは常にいるところで、近所の住人までとなると、中学校がすぐ隣に建っている事情からして千人は入れる施設になっている。

 当然、やっちゃんが一万人いたって払いきれる額の設置費用ではない。

 ここまで大きなのを作ってくれとは頼んでいないし、俺の発注だから無料で設置してくれると約束した記憶があるが、契約書など交わしてないので確証がない。

 どうやっても回収できない売掛になるぞ。

 有朋に教えてやろうかどうか悩んでいたら、卑弥呼までやってきた。


「先生、ずいぶんと大きなシェルターをご寄附なさったとかでー、ペロンの人達が関心してましたわよー」

 しっかり俺の預けた金をあてにして集金する気でいるが、いつから有朋の手下になって借金取りのバイトを始めた。

 こいつにかかったら、あそこの毛までむしり取られてオケラにされてしまう。

 今からでも遅くはない「払えるわけないだろ。いくらかかってんのよ」しっかり支払えないと意思表示をしてやる。

「お金の心配なんてしなくてもいいですわよー、先生がうちに預けてあるお金の利息だけで御支払いは余裕で完済してますからーん、いけずー」

 有朋が持ってきた大金を、芙蘭が勝手に卑弥呼に預けていたが、百億ともなるとどれだけ利益を出しているのか考えるのも面倒になって、頭の片隅からも消えていた。

「利息って、いくらあるの?」

 実感はないが持ち主の権利として、現在の総資産について質問してみる。

「現金はあまり増えてませんわよ。せいぜい二兆ていどじゃないかしら。総資産となると……面倒だから数えなくてもいいんじゃないかしら」


 どれだけ利益率の高い投資を繰り返しているんだ。

 南米から麻薬を直に仕入れて、末端価格で個人に売ってもこんな増え方はしない。

 紛争地域に武器を売り込んだとしても、純利だけで年に一兆円を超える稼ぎなんてできやしない。

 これが現金だけの話で、総資産は預かっている者が数えるのを嫌がるほどとはどれだけだよ。

 すでにあの金は、俺の物から一人歩きして、完全に公的資金になっている。

「その資産って、俺が好きに使っていいのかな」

 当然の権利ではあるが、幾分不安材料がないわけではない。

 確認のために質問してみる。

「使ってもいいけど、いっぺんにたくさん使っちゃだめよー、世界経済が混乱するからー」

 災害続きで世界は十分に混乱している。

 これ以上世の中をいじくってややこしくする気はない。

 しかし、この言われ方は、まるで幼稚園児が小遣いの使い方を教えられているようでしっくりこない。

「大金だよね」

「まあ、取り方によってですけどー、一気に使えないからあってもなくても変わらない現金がほとんどよねー。御小遣い程度なら、松林の人達の方がよほど自由にたくさん使えるわねー」

 そのとうりに残念な金持ちになっているようで、最近はくうねるだけあれば生活に不自由を感じない。

 適当な間隔で、誰かに好きな温泉へ連れて行ってもらっている。

 俺がそれでいいから、こんな生活でいいという事になっていて、ここまで平和でいいのかとさえ思える日々だ。

 という事は、ひよっとして、俺ってもう先が長くないとか、それをみんなして内緒にしているとか、少し心配になってきた。


 そんなこんなの個人的悩みにふけっていると、火山活動が鹿島海底火山から日本海溝に沿って拓洋第三海山へ南下し、さらには須美寿島近海・硫黄島擂鉢山の噴火と、太平洋プレートの動きが異常に早い。などと、地球規模の悩み事をテレビが述べ立てている。

 中米・北米の太平洋側での地震による被害も報告されている。

 昨日、鹿島沖の海底火山が噴火してからわずか二十四時間で、太平洋全体に脅威が広がっている勘定になる。

 何十年も続く災害のように言われているが、こんなのが何十年も続いたら、人類どころか生物が絶滅してしまうのは俺でも分かる。

 そこんとはこうなってんのよと、テレビで知ったふりしたコメンテーターがあれこれ言っている。

 どれも当たっているのか見当違いなのか、はっきりこの先どうなるのか誰も知らないようす。


 ジタバタしたってどうにもならないのに、バタバタ始めるのが必ず出て来る。

 スーパーやコンビニの棚から、日用品や食糧と飲料水が消えたと何度も放送している。

 音では皆さん落ち着いた行動をと御願いしながら、映像ですっかり品不足になった商店の画像を流してパニックをあおっている。

 こんな時まで数字に拘った結果の映像で、政府の備蓄庫や配送センターには物資が唸ってる。

 被災者に落着けと言いたいのなら、物がごっそりある所を探して映像を流せばいいだろう。


 昨晩だって何不自由なく宴会ができた。

 ただ、ペロン星人の力に頼り切った流通で成り立っている地域のインフラだから、他の被災地は別ものとして見るべきなのではないかと薄っすら感じてもいる。

 どこまでペロンの力が使われているかは不明だが、とりあえず診療所と港屋では電話が通じている。

 銚子に知りあいがいる近所の住人が、そんな噂を聞いて電話を借りにくるようになった。

 港屋もそれは同じで、電話待ちの客が行列を作っているらしい。

 温泉宿ではそれなり稼ぎになるが、診療所に電話を借りに来たついでに受診する奴はめったにいない。

 待合室が鬱陶しい状態になっている。

 テレビが映るのだから携帯電話で話せは良いだろうと思うが、揺れや温水の噴出があった影響で、所々電波塔が倒れていて、地域によっては圏外になっている。


 貴重な通じる電話を使って、やっちゃんが俺に因縁をつけて来た。

「俺が自由に使えないシェルターに、一千万年もローンを払い続けなければならないってのはどうしても合点がいかねえな。この先世の中がどうなっていくかも分からないし、下手すりゃ俺だってすぐにお陀仏って事もあるだろ。こんな御時世だから、シェルターの金を何とか誤魔化せないかなっ。人の弱みに付け込んだあくどい商売で金は余ってんだから、一億や二億や十億どうでもいい金だろう。それより、俺が注文したシェルターを勝手に企画変えて、馬鹿高い物にしたんだから、その分くらい面倒見る気になってもいいんじゃねえの」

 人にシェルターが欲しいから金を貸してくれと御願いしておきながら、いざできあがってしまったら払う気返す気がないと態度を急変させるあたり、俺が教え込んだだけある見上げた根性だ。

「てめえみてえな貧乏人から金がとれるなんて思ってねえよ。借金は踏み倒せって何度教えたら覚えるんだよ。冗談みたいな請求書を真に受けて払う気になってんじゃねえ、馬鹿野郎」

 親切丁寧に、君には支払いの義務はないと教え、派手に電話を切ってやった。

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