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雲枕  作者: 葱と落花生
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62 終末論で破廉恥宴会

 ペロンの病院があるのにそこへ連れて行かないで、わざわざ銚子に行くのはどういった理由からか……ようく考えると、これまで遥を港屋に連れて行った事がなかった。

 誰かにあそこはいいぞとか聞いちゃって、そんでもって俺達がちょくちょく行っているのも聞いちゃって、私もと自分からは言い辛いから、この機会に連れて行けとほのめかしているのか?

 なんて気をつかって、やっちゃんに連絡を入れてからすぐに、ハリネズミに宿での宴会を仕込んでくれるように頼んだ。

 どうせ国を相手にむしり取っている極悪企業の頭だし、ちょいと酔わせておだてれば、全額遥持ちの宴会になる。

 金の心配はいらない。


 沖で沈みかけている客船から怪我人を助け上げ、軽い怪我人は中で応急処置を済ませると、脱出用のボートに戻ってもらった。

 入院が必要な患者を乗せて、銚望医院前の広場に着陸する。

 連絡が遅かったのか飛ぶのが早かったのか、病院スタッフが慌てたようすで、やっちゃんが口をあんぐり開けて宇宙船を見ている。

 ここで奴に、宇宙船がああでもない、何者なんだと騒がれると面倒だ。

 「訳は後から説明するから、急いで病室に患者を入れてやってくれ」急かしてみた。

 引き継ぎが終われば俺達は用済みだ。

 さっと引き上げるつもりだったが、後で説明するといった手前何か言っておかないと、執念深いやっちゃんに何をされるかわからない。


「自衛隊の最新鋭機でね、垂直離着陸可能の反重力装置付きよ。いいだろ、あれ」

 チラッと説明してやった。

 すると、ばれないと思っていたのに「そんなもん自慢してる場合じゃねえだろ。どう見たって宇宙船じゃねえかよ」利口なふりをして俺をビビらせようとする。

 しかたないから「やはり、そのように見える? デザインしたの僕なんだよね」嘘の上塗りをしてようすを見てやる。

「世間の誤解を招くからさ、ああいった飛行物体をデザインする時は、もっと気を使った方がいいんじゃねえの」

 やっちゃんが単純な男で良かった。

「細心の気遣いをしているように見えない? 機体の周りにイルミネーション付けたから夜空でチカチカできるし、レーザーでスリーディー画像も空中に出せるんだよ。それからさ、横にも飛べるんだよ。凄いだろ」

 ダメ押しに装備についてもちよっとだけ触れてみる。

「SFに出て来る宇宙船のまんまじゃねえかよ」

 どう言ったってやっちゃんには、冗談と嘘の区別がつかないからこれでいい。

 今夜起った事は、決して口外しないように、関係者に口止めしたが、子供達の口に蓋はできない。

 宇宙人の着ぐるみを着て、小児病棟で記念写真を撮ってやった。

 これを見れば、親でも子供の話が病院のイベントだと思ってくれる。


 変に勘ぐられると、今まで隠しておいた秘密が全部やっちゃんにばれてしまいそうだ。

 早々に病院を引き上げ、港屋に向かった。

 日本全国どころか世界中で災害が頻発している。

 食糧の供給もままならなくなってきている。

 特にここいら界隈は、診療所周辺がおとなしくなってからも地震が続いていて、宴会をやったとしてもたいした料理は出てこないと諦めていた。

 そうなのだが、金はいくらでも出すとハリネズミに言われ、板長が喜ばない筈がない。

 漁港の水槽をそっくり買い占めたか、最近ペットにしたと自慢していたハリネズミの牛を絞めたか、近所の畑から盗んできたか、豪勢な料理がズラリと宴席に並んでいる。


 宴会が始まりチャンチキやっていると、もうすぐ世界中が大戦争に巻き込まれるとか、人類が経験した事のない地球外知的生命体との対戦だのと、話題が昨日のSF映画になってきた。

 ここで、ペロン星人が母星を破壊されて地球に辿り付いてから直ぐに、地球防衛の計画を実行しているのだと自慢し始める。

「我々が地球にいる限り、猫の国に鼠が攻め込むようなもの、どんな外敵が襲来しても、必ずや地球を守って見せる」

 自身満々に、現実離れした連中が現実と絵空事をごっちやにして話す。

 こちらも正体不明になってくる。

「失礼ですが、あなたはやっぱり宇宙人ですか」

「地球人に見えるかい」

「見えるかって、解剖でもしない限り地球人と変わりませんよ」

「どこの国の人間に見えるー?」

「そうさなー、こってこての日本人」

 そう言って笑ってやると、スッとペロン星人の顔色が白くなる。

「今度はどうー?」

 答えに困る白さで、ほとんど色素がなくなっている。


「どこで覚えたのそんな芸当」

「城島君に教わったのー」

 城嶋には何度か会って知っているが、あいつは元から白い男だと思っていた。

 それがよくよく話を聞けば、白いばかりでいると疲れるので、たまに色付きになるのだと……。

 根性曲りの大嘘つきが言うのを、危うく信じてしまうところだった。

「お前、それって嘘だろ」

「まあそんな見当だろ。よく分かったな」

「こう見えても医者だよ。あいつは普通の人間だくらいは分かるよー」

「普通の人間ねー……」

 この先何か言いたそうだったが、酔った勢いで遥がペロン星人の頭にドロップキックをかまして意識がなくなった。

「先生、なんであたしはー、ここに連れてきてもらえなかったのー」

 そのまま勢いづいた遥が俺に絡んでくる。

 いつだって自分の飛行艇でビュンと来られるのに、俺よりごっそり金を持っているのに、やはりみんなと一緒に遊びたいのか、つまらないところで恨まれているものだ。

 地元の医師にとっては尋常ならぬ忙しさの中、一仕事終えた俺達は、ひたすら馬鹿騒ぎに走って一晩過ごすと、帰りも派手な宇宙船で送ってもらえた。


 遙か沖で起こった海底火山の噴火でも、それ以前に環太平洋火山帯がどうしたこうしたと騒がれている上に、地面がひっきりなし揺れている。

 港屋周辺は、毎日落着けない日が続いているようだ。

 港屋贔屓の山城親分が、シェルター事業を俺がやっていると知って、どうにかしてやれないかと相談しに来た。

 親分に相談されては断れないところだし、どうせ付け払いはやっちゃんだ。

「港屋のついでに、山城組の近くにもシェルターを設置してやってよ」有朋に御願いしてみた。

 踏み倒す気でいるもので、金はいくらかかってもいいからデカいのをと一言付け加えたら「それでは早速今日にでも」

 予約の順番も何もあったものではない。

 ドンと穴を掘ってポンとでかい箱を埋けて、ホイと土を被せ「完成です」

 数時間後には工事完了の連絡が入った。

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