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雲枕  作者: 葱と落花生
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61 勝手に国際救助隊

 地面が陥没したり温泉が噴き出したり、あれこれ異常な現象が頻発している原因について、環太平洋火山帯の活動が活発になっているからだとの報道があった。

 日本はこの火山帯にスッポリ入った地域だ。

 活動の影響で災害が発生するとなると、今までのような地域限定の揺れでは済まされない。

 この影響から逃げようとすれば、大西洋に面した地域まで行くしかない。

 ただ、この地域も極地で発生している磁気嵐の影響で、大気に乱れが生じて大寒波が襲っている。

 これまでの地震発生原因は、太平洋に面した活断層の影響だが、それよりもっと広く世界を見れば、環太平洋火山帯の活動がその根源にあるのは容易に推測できる。

 これらの活動を活発にしているのが、火山帯の中心付近にある巨大な海底火山だ。

 今回の活動データー解析で分かった。


 環太平洋火山帯はその名に示すとおり、太平洋に広がる環状火山帯で、この形は阿蘇やサントリーニのように、カルデラの外輪山に酷似している。

 地質学者や考古学者の間では百年も前から、巨大隕石や月と衝突した痕ではないかとか、巨大なカルデラの外輪山なのではとの仮説が立てられていた。

 外輪山ならばその中心には、太陽系最大規模の海底火山があるはずだとされていた。

 今回の災害と同時に火山帯の活動が活発になってきて、地上の計測器でも活動の中心となっている地域の特定が可能になった。 

 ほゞ太平洋の中心にあるだろうと予測されていた海底火山が、測定の結果は極めて残念なものだった。

 ホノルルと東京を直線で結んだ線状にあって、距離はホノルル東京間の三分の一相当東京寄りになる。


 とかなんとか解説しているが、何の事だか。

 朱莉ちゃんにもう少し分かりやすく説明をとお願いしたら「日本の沖にある月くらいの火山が噴火しそうだから、色々と災害がおきてるの」と教えてくれた。

 やはり、小学生相手の先生の話は理解しやすい。

 逃げ場がないのでは結局どこへ行ったって同じだ。

 一人用のシェルターのつもりだったが、みんなで入れるのがいいなと有朋に注文しなおした。

 それに、よくよく詳しい話を聞けば、巨大な火山といっても噴火したのは何億年も前だった。

 活動が活発化したからといって、すぐに地球が二つに割れてしまうほどの爆発がおこったりはしない。

 何年何十年何百年といった、人間の寿命が何回もつきる年月をかけて変わっていく自然現象で、その始まりが今回の異常事態となっている。

 地球には準備運動程度の地震で、何件かの家が倒壊する被害が出ている。

 本格的に活動が活発化した時の事を考えると、落ち着いていられないのが普通だ。

 でも、それが凄まじく長いスパンで起っているとなってはピンと来ない。


 いいかげん近所の災害騒動がおさまってくると、九州あたりで起こっていた騒ぎが北上して、東海沖を震源とする揺れが激しくなってきた。

 気象庁が発表する情報以外に、政府は公式な会見を一切開かず、救助隊の動きがどうなっているのかは報道で知るしかない。

 尋常でない状態が続いている。

 こんな時勢になってくると、被災しても救助をあてにできないばかりか、避難所さえも危ない。

 状況が状況だから、シェルター事業が忙しくなっている。

 前の事務所には、毎朝臨時の作業員が二十人ばかり屯している。

 俺も暇だから手伝ってやろうかと申し出たら「足手まといになる」と断られた。

 断るだけなら許せたが「今度、診療所に設置するシェルターは、どんなのがいいかね」新しいパンフレットを持たされた。

 しっかり俺からも金をとる気でいる。

 ちょっと腹が立つ。


 一基数百万の価格帯が最安値で、クラスが上がると価格が書かれていない。

 どこまでがオプションだか分からない写真は、怪しさ満点のぼったくりを公開して、証拠に残しているようなものだ。

 それでも、見ているだけでどんどん高価な方に誘導されていく。

 パンフレットの力恐るべし。

 どれにしようか迷っていると「シェルターが欲しいから金を貸してくれ」やっちゃんから電話が入ってきた。

 以前ならこの診療所は山城組と似たり寄ったりの台所事情で、金に関するお願いなど聞かなかったし、自分でも高利貸しをやっている奴が金を貸してくれなどと言って来るはずもなかった。

 しかし、いくら回りを気にしないで生きている奴でも、ここのところ俺の金回りがよくなっているのには気づいていた。

 これは丁度いいからこのまま売り付けて、その営業配当を元に俺のシェルターも作ってやろうと思いたった。

 俺が関わっている事業だからと言って、ローンを組んでやった。

 原価は同じでも、百年千年のローン金利で俺のシェルターは楽に建てられる。

 こんな時、高利貸しをやっているのに月賦金利の恐ろしさを知らない奴は扱いが楽でいい。

 もっとも、こんな契約だからと建てさせたら、一銭も払わないつもりはやっちゃんも俺も同じ。

 損害は全て有朋に押し付けるのが、この場合は最良の方法と心得ている。


 有朋組の連中は他からの注文に追い付けなくて、とうとうペロン星人にまで応援を頼んでいる。

 診療所のシェルターはペロン星人が埋けてくれるとかで、朝から上空に宇宙船が浮かんでいる。

 とりあえずと言って大穴を開けるまではやったが、おやつに準備したバーベキューを見るなり呑み始めて、それっきり作業が先に進まない。

「早くやっつけちゃってよー。穴あけたままで危ないからー」とか言ってはいるが、そう忠告している俺もすっかり出来上がっている。

 この先どうなろうと知った事ではない。


 診療所も閉めてみんなでデレーっとしていると、遥がペロン星人を探しに来た。

 鹿島沖の海底火山が噴火して、これから救助に向かうから宇宙船を使いたいらしいのだが、パイロットはとっくに飛べる状態ではない。

「工事は明日でもいいけどー、こいつすっかり出来上がってるよ。このまま飛ばせていいの?」

 世界のどの法律にも規定されていない飛行物体の操縦。

 飲酒についての禁止項目があるとは思えないが、いちおう聞いてみた。

「あたしが操縦するからいいの、それより暇してるんだったら一緒に来なさいよ」

 遥の強引な呼び込みで、ついついその場にいた全員が宇宙船に乗り込む羽目になった。

 それはそれで単なる遊覧飛行と思っていればいいので、さして問題ではないかった。


 艇に乗って救助隊の面子を見てからが驚きだった。

 学会誌や科学雑誌の表紙に載っているトップクラスの医師が、ズラリゴッソリ顔を揃えている。

 ペロン星人が作った病院の見学会に来ていたら、今回の事故が起きた。

 急遽、救難隊を結成していた。

 都合がよすぎるタイミングの見学会だ。

 遥が接客していたのなら、非常に怪しい集会ととれなくもない。

「ヤブー、遥ちんがれー、やっつんのひょういんへ、怪我人を運ぶから連絡しておいれって言っろー」

 操縦室にはいない方がよろしかろう、ろれつの回らないペロン星人が、ふらふら俺の缶ビールを奪って呑む。

 そのへんでよしておけ、今に事故るぞ。

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