50 不毛恥体
ペロン星人と一緒してディスクドライブに入れて見ると、中は数字が不規則に無限とも思える長さで並んでいるだけで、まったく意味が分からない。
「これだよー、これ探していたんだよねー」
ペロン星人の顔が急にプッと二倍に膨れる。
極端な驚きと喜びが同時に発生すると、フグ顔になる連中だ。
よそ様でこうなったら、周囲で心臓を止める人が出て来てもおかしくない。
絶対に外で同じ感情を抱くんじゃないと注意してやった。
「探してたって、なんなのこれ。なんで俺のみかん箱に入ってるの」
「これなー、朱莉ちゃんが持って来たファイルの暗号解読ソフトの設計図だー。ビデオ借りて返す時に混じっちゃったんだな」
「借りた時って、貸した覚えはないぞ」
「ああ、御前に貸してくれと言った覚えもない」
人の物を勝手に持ち出してヘロヘロしてるんじゃない。
「ビデオを持ち出したのは許してやるから、その暗号どうこうのデーターについて教えてくれないかな。なんだか消化不良で気分が悪いんだよね」
ずっと気になっていたが、何を御大層にしまい込んでいる。
ヘコが銃撃されたり獣医が死んだり、嫌な事件が続いていて、ひょっとしたら暗号に関係があるのではと思えてならない。
「先生に話ちゃっていい事になってたんだろか? 知らねえって事は言っちゃいけないんだよなー」
ペロン星人のくせに、悩んでいる思考がそのまま言葉になって出てきている。
この場合は、誘惑に弱いペロン星人特有の生態だか本能をくすぐると、簡単にしゃべくりだしてくれるのが常だ。
「昨日はいい酒をもらってさ、これから一人で吞もうと思っていたんだが、せっかくだから一緒にどうかなー、一人より二人の方が何かと楽しいからさー」
お手軽なところで、高級酒の瓶に詰め替えた安酒で口の滑りをよくしてやろう。
「んー、それって美味しいのかなー、他の連中も誘っていいかなー」
「もちのロン、当たりだよ」
この一言からものの数分。
町のそこらじゅうに散らばっていたペロン星人が、診療所に集まってきた。
どこまでいっても暇ばかりしている宇宙人だ。
俺がペロン星人を好きな理由の一つに、根っからの単純思考が全星人に染みわたっている事があげられる。
地球に長く住んでいれば、人間のいやらしいくも卑怯で身勝手な生態を嫌というほど見てきただろう。
それなのに毒される事なく、悪戯好きな子供のまま大人になったような性格で生き続けられた来たのは、卑弥呼の一族が彼等を手厚く保護してきたからなのだろうとしみじみ思う。
最近では、あおい君とキリちゃんのおかげで稼ぎも安定して、じいちゃんが残して有朋が増やした金を当てにしなくても生活できるようになっている。
したがって、診察料のかわりにと爺婆が持ってくる食材が、てんこ盛りで余っている状態が続いている。
俺の気がむけば、バーベキューをやって食い尽くすのだが、正月に飲み食いが過ぎていた上に、目の前に温泉施設なんかできたものだから、余り食材に手を出す余裕がなかった。
ずいぶんと貯まった食材を処分するにはいい機会だ。
久しぶりに診療所で焼きゝを始めると、中から外から部外者まで集まりだしてきた。
「たらふく食ったし呑んだんだから、いい加減に話せよ」
いつになっても暗号の真実を語ろうとしないペロン星人の尻に、炭火で真っ赤になった焼き串を突き刺してやる。
「いってー、先生よー、俺を焼いたって旨くないんだぞー、知らねえだろー」
加減知らずの酔っ払いだ。
どこまで信じていいかは自分で判断するしかないが、お前らが煮ても焼いても食えないのは知っている。
「そうじゃねえだろ、早く話しちゃいなよー」
自白を待って呑み食い接待をするのも疲れてきた。
さっさと白状するよう急かしてみると、あとから来たこいつよりは少しだけしらふに近いのが代わりに答えてくれた。
「あのデーターはですねー……」
ここまで言葉を吐いてそのまま寝た。
「起きろー、このまま寝たら死ぬぞー」
酔った勢いの睡魔に、この程度の脅しは効かない。
そのまますっかり寝入って起きる気配がない。
するとまた別の、こいつよりももうちょっとだけまともに見えるのが、寝ている奴の頭を椅子替わりに座って教えてくれる。
「ありはですにゃぇー、どこの誰だか知らないけれど、誰もがみんな知っている、未来予想図ってやつでニョヘー。近い将来、遠い未来、中途半端に先の事なんかが分かるんだでベー、ウッ!」
青くなったこいつは、トイレに駆け込んでそれっきり出てこない。
分かったような分からないような、途中まで聞かされると、かえってストレスになるのは俺だけか。
仮に、あの資料が未来予想データーで信用できるものなら、世の中に不幸はなくなるはずだ。
博打場は一年もしないで総て廃業に追い込まれる。
未来予想データーと称した、科学的に見える占いと誤魔化されたか。
それとも、そんな物が本当にあると信じているのか。
バラエティー番組の冗談がわからない思考回路を持った宇宙人だと知っていたのに、本気になって聞いた俺が馬鹿だったと気づいた時には、診療所の備蓄食料は底をついていた。
深く反省していると、今度はこれまた別のペロン星人が近寄ってくる。
今度は何を話そうとしているのか、結局いい加減な言葉に騙されて、ご馳走しまくっているのは俺の方だ。
すっからかんになった食品庫を見てもなお、これから何かを俺から奪おうとしているのかどうか。
適当に生きている平和な民族に見えるが、本性はずっと強欲なのかもしれない。
用心してかからなければ、あそこの毛までむしり取られて、すっかり不毛地帯にされてしまう。
しかしながら、いつも思っている事が一つある。
不毛地帯と言うが、毛が生えた大地を俺は生まれてこのかた一度も見た事がない。
したがって、知る限り地球で観察できる総ての地域は不毛地帯だ。
ここは不毛地帯だと言われても慌てなくていい。
毛のある動物の毛があるべき所にないのを指して不毛地帯と言うにしも、漢字だといささか妙な書き方になっている。
それより不毛恥体と書かれるべきだ。
これは決してハゲを小馬鹿にしているのではない。
しかし、ハゲに対する社会の偏見と個人の羞恥心がなくなったら、かつら屋はくいっぱぐれてしまう。
世の中なかなかうまくいかないものだ。
こんな妄想に思いを巡らせ、一人でヘベレケになっていると、データーが何であれ結局のところ、俺にはまったく縁のない物だと気づいた。
こんなつまらない結果のために、貴重な安酒セットまでそっくり呑みつくされてしまった。
「あー! またろくでもない事の為に酒を使ってしまったー」一人嘆く。
「そんな事はないでべす。明日、うちらの船に来てくださいな、いい所へ案内しますでベロンチョ」
俺が一人悩み苦しむ姿を、にこやかに眺めていたペロン星人が、手書きの招待状を渡してくれる。
それにしても汚い字だ。
「何がべろんちょだ馬鹿野郎、どうせ温泉出すのに掘っくり返した地下トンネルじゃろうがー、あー」
少しばかり荒げて聞いてやる。
「とんでもねえでべす。俺達が作った病院だー」
病院ならば見てやってもいいが、こいつらが作ったのなら科学の塊に違いない。
俺が見てもチンプンカンプンだ。




