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雲枕  作者: 葱と落花生
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37 フェイクばかりの大列車強盗

 いつもなら一時間以上かかる道のりを、僅か三十分で走破した。

 パリダカ真っ青の走りっぷりだ。

 残り少ない寿命がさらに短くなった。

 ついでに、酷い乗り物酔いでフラフラしている。

 療所所に帰ると、過激な現実が待っていた。

 病院占拠が続いたままで、警察は解決策を出せずに時だけが過ぎている。

 この体たらくに対して、なんと院内スタッフの偉いこと。

 患者は潜入部隊と全員入れ替わり、作戦完結期に入っている。

 老人会だけでは人手不足になって、クロの知人やペロン星人にも加わってもらっている。

 まったく不自然さがないわけではない。

 クロの知人は戦闘慣れしている上に、非合法に銃火器を個人所有している。

 裏を返せば口が堅く、ペロントンネルの秘密は墓穴までと約束してくれた。

 地下トンネルでサバイバルゲームをやらせてあげる条件での参加だが、案内人なしでは地獄の迷宮だ。

 一度入ったら死んでも出られない。

 ペロントンネルの実力を彼等は知らない。

 トンネル案内人として最適なのが、もう一方の協力者ペロン星人。

 彼等には心臓が無い。

 頭さえ吹き飛ばされなければ、命に別状はない。

 と、思うから参加してもらっている。

 仮にバラバラになっても、彼等の科学力なら蘇生できそうな気がしないでもない。

 自然の摂理に反する雰囲気なので、考えないことにしている。


 人質のレベルは、善良な一般市民からちょいと悪ぶっている戦闘傭員に入れ替わりしたが、囚人に巻き付けられたC4がそのままになっている。

 警察と密に連携が取れていない今、うかつに動けない一般人としては、しばらく様子を見るしかない。

 温泉から帰ったその日のうちに、犯人グループが感染症のワクチンを要求してきた。

 自分自身の発熱に、少しはビビッてくれているようだ。

 ブドウ糖か生理食塩水でも瓶詰してやればいい。

 交渉人に、ワクチンは俺達がすぐに準備すると伝えた。

 製薬会社に事情を説明して、生理食塩水をバイアルに詰めてからワクチンのラベルを貼り搬入する。


 病は気からのとおり、気の持ちようで生理食塩水でもワクチンになってしまう。

 注射一本打っただけで、伝染病が治った気になったか。

 アルトイーナに動きがあった。

 逃走先と思われていた古民家を吹き飛ばし、近くを走る線路を陥没させ列車の脱線を起こした。

 金塊を運ぶ予定は数日先の筈で、目的は不明だが積荷が強奪されたとの報告が県警に入った。

 この凶行からして古民家へのトンネルは逃走用ではなく、列車から強奪した物を病院まで運ぶルートとして掘られていたと見るべきだ。

 古民家の外で張っていた警官達は肩すかしを喰らった形で、苛立ちを隠せないでいる。


 アルトイーナの計略は、古民家と病院の双方向から掘削してトンネル工事の工期を短縮したもの。

 病院に逃げ込めば、列車強盗をしてもとりあえずは捕まらない算段だ。 

 身代金と列車強盗の二本立て計画だったのか、地階で強奪品を並べて見ている。

 監視カメラ映像では小さくて確かでないが、廃棄紙幣とおぼしきシワシワインク札や小切手の束がある。

 小切手の額面を書き変えるのは詐欺師の常套手段だ。

 小切手の印字や札に付いた盗難予防インクは、ベンゼンで簡単に落ちるから大層な荒稼ぎになってくる。

 それから、どこかで見た事のある絵画や彫刻。

 美術品も見受けられる。

 これらは一見高価に見える物ばかりだが、不自然さを拭いきれない。

 まず廃棄紙幣だが、これを列車で輸送したりはしない。

 各地方の日銀で、親の仇かと思うほど細かく切り刻まれる決まりだ。 

 以前は焼却していたが、今は再生紙にしてトイレットペーパー等に変わる。

 一万円札で尻を拭いていると思えば、まんざら悪い気はしない。

 小切手にいたっては、束での移送などありえない。

 詐欺によく使われるアメリカ国債債権も見えるし、絵画や彫刻には知れ渡った名画名品もある。

 近隣で美術展の予定はない。

 ちょいと拡大すれば、カメラ越しでも贋作と分かるほどの駄作ばかりだ。

 こんな物を盗んでどうするつもりか。

 まさか売る気ではないだろう。

 故買屋に見せたら、その場で撃ち殺されても異議申立て出来ない代物ばかりだ。

 彼等の世界でクレームとは、銃弾のトルネードを意味する。

 犯人は偽物と知らずに強奪したのかもしれない。


 列車強盗の翌日、犯人グループは逃走用のバスを要求すると同時に、盗品を地下道で運び始めた。

 警察は未だにもう一本の地下道に気づいていない。

 このままでは簡単に逃げ切られてしまう。

 止むお得ず、地下道の一団をペロントンネルに迷い込ませ、妨害電波で司令塔との通信を遮断し、外界の状況を伝えられなくした。

 一旦迷い始めれば、勝手に堂々巡りで体力を消耗してくれる。

 三日もサバイバルすれば、自首する気になるだろう。

 しかし、盗品の運搬に駆り出されたのは五人ばかりで、大多数は病院に残っている。


 アルトイーナが、縛り上げた囚人の手にガムテープで銃を張り付けた。

 内部を監視カメラで見られている事に気付いていないから、囚人のシルエットを一味に似せて狙撃に備えているのだ。

 夜になって人質の一部を解放する代わりに、宅配ピザを要求してきた。

 毎日そば屋から直接出前を取っているのに、何か特別な日か誰かの誕生日か。

 ならばケーキを要求してほしかった。

 トンネルを使って逃げるなら、わざわざ人質を解放する必要はない。

 一時に大勢を解放したドサクサ紛れで、犯人の一人が脱出している。

 外界の安全確認か?

 盗品運搬班との連絡が途絶えたから、偵察としての脱出だろうが、この斥候に運搬班の失踪が知られたら劣厄介だ。

 十五号の顔認識システムで、我々は犯人の一人だと分かっているが、警察にこの事実は知られていない。

 衛星を使って逃走した一人を追跡すると、やはりトンネル出口の工事現場に向かっている。

 歩きながら、道路の検問所をチェックしている。

 北山とクロに職質を頼んだ。

 職質は犯人グループに気づかれず、偵察の動きを自然に止めるのに極めて有効な手段だ。

 重大事件が発生している病院の包囲内だ、犯人グループもこの程度のアクシデントは予想している。


 バスが到着すると、やはり人質に混じって犯人の何人かが脱出した。

 この一団はバスに乗ったまま調書を取る名目で、警察署まで護送された。

 この時脱出した犯人は、こちらの情報を持っている北山とクロが警察署で、こいつは怪しいと指摘して拘束した。

 徹底的に取り調べをしてやれば、そのうち自白する。 

 自白しなくても、画像証拠を捏造して突付けてやればいい。

 後で全員捕まえれば、誰かが白状する。

 悪人同士の結束は、伸びたパンツのゴムよりゆるい。

 所詮、同志ではないのだから。


 アルトイーナが、バスをもう一台要求してきた。

 軍服を着せられた囚人に、生体起爆スイッチを取り付けている。

 バスで脱出した犯人グループと、残った一味の人数合わせだ。

 突入して囚人の一人でも死ねば、爆破の連動で病院は跡形もなくなる。

 既に二人吹き飛ばされている以上、単なる脅しとは思えない。

 犯人グループはリーダーと数人の側近を残し、半数が人質に扮している。

 残り半数が、軍服覆面のままバスに乗り込んだ。

 十人の先生方を含め、患者も人質にしている。

 爆弾ベストの囚人も同乗し、起爆装置は犯人の一人が握り生命スイッチと連動させている。

 起爆装置を握っている奴が、人質に紛れていると分かっても狙撃はできない。

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