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雲枕  作者: 葱と落花生
33/158

33 イカレキ〇タ〇野郎

 囚人を集めた立て籠もり犯の、さらなる企みは直ぐに解った。

 爆弾を巻き付けた囚人を、警戒中の包囲陣に向けて歩かせ、犯人が止まれと指示する。

 その場で囚人が爆破された。

 同時に、地下の掘削現場に砂埃が舞う。

 地下道掘削で障害物を破壊する折、削岩機でバリバリやっていたのでは気付かれてしまう。

 地下の発破と同時に、囚人を吹き飛ばしたのだ。

 ライブ映像は流れてしまったが、流石にテレビ中継もこの瞬間から一時画像を消した。

 表向き「我々は本気だ」と言っているが、これは立て籠もり犯の本意ではない。

 主義主張で動いているのでもないだろう。

 強欲な金目当ての強行。

 ひたすら手段を選ばず、鉄道に向けて地下道を掘っている。


 病院内画像は警察と共有している情報だ、気付いていないのだろうか。

 北山を通して彼等の計画について、こんな可能性もあるとして対策本部に提起した。

 目的がばれたとなると、何をするか分からない連中だ。

 刺激しないよう気取られないよう、地下道の掘削状況を把握させようとしたが、警察が探知できたのは線路方向の一本だけだった。

 金塊の輸送ルートと日時が変更された。

 しかし、人質が解放されるまでは予定通りに列車は走らせなければならない。

 タングステンの偽造金塊を運ぶ計画だとの情報を得た。


 この計画が決まってすぐ、犯人から再び要求が出された。

「身代金を負けてやる、一人当たり一億と逃走用車両」

 やはりそう来た。

 列車の金塊に比べ、身代金は実入りが桁違いに多い。

 そうなると、トンネルが逃走手段と見るべきだろう。

 要求している車両はダミーで、人質の何人かと囚人を乗せて走らせるつもりだ。

 政府はこの要求に、身代金を準備する気満々だ。

 払ってしまったら、トンネルを包囲していても意味がない。

 人質と囚人の乗った車両を爆破すると脅されれば、手も足も出せず犯人は自由の身になる。

 対策案が出るまで、今度はこちら側が時間稼ぎをするしかない。


 入院中の犯人グループの食事に炭酸リチウムを混ぜて、伝染性疾患と診断するように指示した。

 院内感染予防の為と称して隔離し、数人の偽入院患者を見張り役で同室にした。

 これで病室の監視がなくなる。

 犯人グループの食事にも、炭酸リチウムを盛った。

 発熱・おう吐・下痢等々、副作用はいかにも伝染病だ。

 入院患者を装った老人会や医師にも演技してもらい、いよいよ本格的な院内感染の拡大を装う。

 これで暫くは時間が稼げる。

 後々の布石に「一旦小康状態となるが、しばらくして再発する。根本的な治癒にはワクチンの接種が必要だ」主犯格に伝えるよう指示した。

 まるっきり信じ込むとは思えないが、いざ症状が再発すれば嫌よゝとばかり言っていられなくなる。


 何を目的とした犯行かはっきりしない今は、逃走を阻止する方法を練る時期だ。

 掘削の終わった脱出用トンネルは、見張りが一人張り付いているだけとなり、トンネル内に人はいない。

 犯人グループが掘ったトンネルの出口は、線路を超えて古びた民家まで伸びている。

 既に数人が、逃走準備で民家に待機している。

 ここでも、警察の手が入れば囚人と人質を乗せたバスを爆破すると脅す気だ。

 起爆には無線か携帯を使うにしても、電波ジャックで爆破阻止出来る位の知識はある。

 別の逃走方法も複数考えてある筈だ。

 総ては掌握出来ない。


 エイリアンのトンネルから、犯人グループが掘った海方向のトンネルにバイパスを作る。

 犯人がトンネルに入った所で、バイパスからペロントンネルへと誘導する。

 一度入ったら逃げ場がなくなる設計にして、犯人グループを閉じ込める計画だ。


※ ペロントンネルとは

 エイリアン達の母星がペロン星だと言うので【ペロン星人】と彼等を呼ぶ事にした。

 ペロン星人が造ったトンネルだから【ペロントンネル】施設名なんて、だいたいこんな理由で付けられているのだよ。


 身代金が届けられ人質が解放されたが、全員ではない 。

 わずかに十人。

 政府が犯人に渡したのは十億だけだ。

 やけに準備が早いと思ったが、犯人の感情を逆なでしている。

 苦労して解放作戦に対応できる人員と入れ替えたのだ。

 残すならXデーに対応できる人間にしたい。

 病院スタッフが「手術後の入院患者は動かすべきではない」指名した患者十名を解放するように交渉してもらった。


 要求に対して、期待を大きく裏切る結果となった政府の対応に、非情な一味が黙っている筈がない。

 二人目の犠牲者を出したのは、中途半端な対応でお茶を濁した政府にあると責められても反論できない。

 前回よりかなり先、二重包囲の一重目と二重目の中間辺りで囚人が爆破された。

 包囲の範囲を広げざるを得ない。

 囚人は人質であると同時に、犯人グループの攻撃手段でもある。

 何を血迷ったか、結果は見えていただろうに、身代金を犯人との合意なしに一方的に値切った。

 交渉人が無能なのか、対策本部の上層には、犯人グループと対等のイカレキ〇タ〇野郎がいる。


 囚人が爆破されて少しすると、院内の医師から「アインが院内をうろついていたよ。送り返すからね」連絡が入った。

 どこからどうやって入り込んだ。

 中は外の緊迫感を感じない平穏な雰囲気だとも知らせて来ている。

 猫程度の小動物には無警戒になっているのか緊張がとけているのか、アインが入って遊んでいられる。

 平和に思えるが、手段を選ばないのがテロの常だ。

 泥棒には人間性のかけらがあるのに、道を大幅に踏み外した行動を取り上げると、一味は過激なテロリストに違いない。

 その上、金欲しさの犯行となれば、動機が単純なだけに交渉の余地がない。

 金を用意できなければ人質は殺される。

 テロリスト並に残忍で強盗のように強欲、実に性質の悪いグループだ。


 患者に対する紳士的な対応は、内部暴動を起こされない為。

 差別の対象を明確にする事で、共同体意識を植え付ける一種のマインドコントロールだ。

 本性が穏便なのではない。

 事態がややこしくならなければいいが。

 危惧していると、犯人グループがマスコミを病院内に呼び入れた。

「我々は極東の騎士アルトイーナである。我々は、人民の人民による人民の為の政府を立ち上げる」

 人数分の身代金が用意できなければ、隔離病棟の患者を一般病棟に移動すると脅してきた。

 何をしたくて二人も吹き飛ばした。

 良識が完全に異次元空間へ飛んでいる。

「すぐには用意出来ない」交渉人が回答すると、即座に犯人グループが隔離病棟の解放を実行した。


 病原がないから感染するはずはない。

 そこは偽入院患者が微妙な演技で、感染拡大したように見せてくれた。

 ロビーで人質になっている患者にも、一芝居うってもらった。

 少々大げさでも、集団で苦痛を訴えればそれなりに見えてくるものだ。

 ロビーの患者を入院病室に移動してから、患者と作戦部隊を入れ替える。

 症状を軽くした犯人グループのスパイには、再び危篤になってもらった。

 死なない程度に具合悪くなってもらうのは、病気を治すより難しい。


 ロビーで患者の症状が悪化すれば、同じ空間で長期間一緒に生活している犯人グループに感染する。

 院内感染が事実ならばだが、状況から推して自分達もいずれ感染すると犯人グループは信じている筈だ。

 このままだと最悪の決断をしかねない交渉人が入れ替えられた。

 警察に「感染症は中にいる医師が仕組んだ芝居だ」教えてやった。

 再び長期戦の様相が色濃くなってきた。

 案の定、第二病院占拠事件が長引くと、感覚が麻痺して占拠が当たり前になってくる。

 人間の心理は不可解だ。

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