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雲枕  作者: 葱と落花生
29/158

29 エイリアン……でいいのかな?

「この人は、エイリアンとして処置すればよろしいのでしょうか? 先生」

 盗み聞きしていたあおい君とキリちゃんが、冷静に質問してきた。

 人のとっても秘密な話を立ち聞きしておいて、悪びれるでもなく、冷静でいられる神経の方がエイリアンだ。

「私、人種偏見持っていませんから」

 あおい君に言ってやりたい。

 この人は生物学的に人間ではない。

 それとも、脊椎はあるみたいだから、亜種としていいのか。参った。

 言いたくはないが、彼等は地球外知的生命体らしい。 

 とっても昔からここに住んでいる友好的で心臓と肺がない人達、なんて……誰も信じないよな。

 ついにメンタルが完全崩壊した。

 しかしながらこの奇怪な生物の存在を信じても、あおい君とキリちゃんは俺を診療所から追放する気配を見せていない。

 狭い地球でさえ、有性生殖が可能な個体がポリプ期へ退行するベニクラゲや、百に切っても百の個体になる著しい再生能力を持ったプラナリアのような生物が生息している。

 広大な宇宙空間ならば、いかなる生物の存在も可能性を否定できない。

 進んで人様に打ち明けるような話でもない。

 秘密を持てない俺には辛い現実が、目の前で苦しんでいる。どうしよう。


 治療するにしても、臓器の内容が魚類や節足動物とか無脊椎動物と同じでは、どこが具合悪いかの見当もつけられない。

 様子を伺えば、血色が悪く意識がはっきりしないでふらついてる。

 脈はないものの、血管はあるようだ。

 おそらく、人体の血管が幾重にもなっているのと同じ構造で、違いは層の一部としてある不随意筋が、心臓の働きをしているのだろう。

 静脈にあるような逆止弁が動脈にもあって、それが血液を循環させているとも考えられる。

 血液が赤いのだから、きっと酸素呼吸は人間と同じだ。

 血中成分の基本構成も似ていると見ていいだろう。

 肺も鰓もないとなれば、呼吸はもっぱら皮膚呼吸に頼っている。

 そう仮定すれば、津波にのまれても呼吸できた理由がつく。

 いくら皮膚呼吸で水中の生息が可能であるとはいえ、津波の衝撃に加え、泥混じりの汚い海水に揉まれては呼吸孔が詰まる。

 体表が汚れた時の皮膚呼吸は、空気清浄機能が著しく落ちる。

 顔色が悪く意識が朦朧としているのは、人間で言う所の呼吸困難・酸欠状態ではなかろうか? 

 このように診断。


「シャワーの後に、湯船で汚れを皮膚から浮かせて、綺麗に洗い流してみて」

 指示にしたがって入浴を済ませたおっちゃん。

 血色が戻り意識レベルも正常になった。

 地球人のように鼻はあるけど、肺がないのとなると、呼吸器官の役目を果たしていない。

 臭覚機能はあるようで、発声の為に声帯まで空気を運ぶ器官にもなっている。

 一時的に空気を貯めておく袋が喉の奥にあって、この器官は肺として機能していない。

 ちょっと考えれば、彼等にも分かっただろう症状と治療法だ。

 地球外知的生命体―――長いな。

 エイリアンも、非常時にはパニックを起こす。

 新たな発見だ。

 学会に発表したら追放されるよな。


 御礼にと、彼等が勝手に地下権を主張し占有している施設に招待された。

 翌朝になって、有朋の事務所に開いた穴から地下道を通って、彼等の施設まで行ってあせった。

「何ここ! オッ魂げー。未知との遭遇ー」

 地下のくせに、やたら明るくて広い。

 この照度は、電気を盗んでいるとしか思えない。

 ようやく彼等が地球外知的生命体だと実感してきた。

 数百年前から進歩していないのに、ここまで優れた技術とは。

 広く知られていたら、人類の歴史はまったく違う物になっていた。

 隠れ住むとした判断は、実に正しかったと思える。

 ここにある技術は、人類が何千年もかからないと作り上げられない科学力だ。

 地球の技術が、幼稚園児の工作程度に思える。

 SF映画の一場面を見ているようだが、これは現実だ。


 地球を回る偵察衛星をハッキングし、世界各地の情報をリアルタイムで入手している。

 これくらいなら、未来科学研究所でも可能な行為だ。

 遥はこの教団に所属していた時期、ここから科学技術を習得したのだろう。

 これらの科学技術を得ているならば、未来科学研究所は地球最強の科学者軍団になる。

 あんな危険思想を持った魔女が、この科学技術を持っているのに世界征服を実行しない。

 本当は良い人なのか?

 卑弥呼であれ遥にしても、反社会的精神構造の人格としか感じ取れないが、とりあえず地域の平和は成立している。

 卑弥呼と遙の仲が、特別に良い風には感じられない。

 局地的事変へ介入しないのは、権力に興味がないのか作戦なのか、互いにけん制しあって力のバランスが保たれているとしか思えない。

 二人の関係がどうだろうと世界が戦乱の渦に巻き込まれようと、中立だから俺だけは攻撃しないでほしい。

 こやつらに攻撃されたら、誰でも一瞬で蒸発する。

 危なっかしい武器コレクションも、奥にチラチラ見える。

 【真迷神社】と【ずんだもち】に争いが起ったら、世界は滅亡するに違いない。

 精々仲良くしていてもらいたいものだ。


 なぜに現代の秘境と言われるほどに文明から隔離された地域に、どう猛でエゴイスティクな団体が二つも同時に発生したのか。

 聞けば「遥と私は幼馴染なのー」と言う。

 ガキの頃から御山の大将が二人いた。

 集落のガキどもが大人になって、他の地域に引っ越して行ったのは、二人が原因だという説まであるらしい。

敵対しているとしながらも、地下で二つの教団は繋がっていた。

 水面下の意味ではない、実在する地下道で繋がっているのだ。

 途中どちらが仕掛けたのか、至る所至らない所前後左右上下斜め四十五度に、危険この上ないブービートラップが仕掛けられている。

 既に捜査時効であろう白骨体も何体か転がっている。

 殺人なら時効はないが、事故か他殺か自殺か病死か判断出来る状態ではない。

 歴史を感じさせる鎧武者の遺骨まである。

 頭骸骨に蛮刀が食い込んでいたり、心臓あたりに弓矢が刺さっていたり。

 アトラクション的光景も目に入る。

 これは確実に他殺だが、作り物だと思い込む事にした。

「冷静な案内人なしで、トンネルの中を散歩しちゃダメよ。自殺行為だからねー」注意された。

 一人で入る気など毛頭ない。頼まれても入るものか。


 普段から色々と御世話になっているので、けっこう前から診療所と病院に陰ながら協力してきているとも教えてくれた。

 心肺がないのを知っていて隠してあげたのではない。

 自分の難聴が原因だと思い、しらばっくれて診療していただけだ。

 防犯と防災の両面かを考慮し、遥と卑弥呼の平和会議によって、診療所と山武第二病院の真下にも出入り口を設置していた。

 ついでに、山武第一病院まで地下道を掘り進めているらしい。

 かなり遠いけど……途中に国際線の滑走路あります。

 テロと勘違いされます。

 他にやる事無いのかこいつら。


「第二病院に、年中無休手当不要の人材を紹介したよ」

 話題が妙な方向に向く。

 人材としていいものやら、彼等の科学力からすればオモチャ程度だろうが、精巧なアンドロイドというやつ。

 地球の科学者が見たら、ヨダレダラダラで研究材料にしたがる。

 病院には堅気衆も多い。

 並の病院でない事が、世間様に知られてしまう。

 厄介者一人でヒヤヒヤしているのに、これ以上の超現実は気が気でない。

 アンドロイドを抱えていたのでは、資金洗浄にも支障をきたす。

「要らないなー、それ」

 気分を損ねないよう慎重に御断りしたが、すでに納品済だった。

 誰が受け取りにサインしたのか、答えてくれるな。

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