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雲枕  作者: 葱と落花生
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28 心肺停止

 天才的な頭脳を持った一族は、どうなってしまったのか。「働き手が兵役に取られたって言っても、技術とか記録は残っていそうなもんだけど、どうなったの」

「秘密結社に転身していったから、教団に関わる歴史資料は一切合切破棄されたみたいね。口伝もいい加減で、今となっては何もないのと一緒」

 雲をつかむような話ばかりで、どこまで信じていいのか分からない。

 だだ、一つ大きな収穫は、北山の不正行為についてだ。

 これを知っていれば、いざと言う時に警察を利用できる。

 元自衛官としてのクロは優秀の評価だが、警察の中では若干心許なかった。

 クロの生真面目に対して金で動く北山は、使い道が無限と言える。


 資金洗浄をしている身としては、警察の内部情報が必要不可欠だ。

 信用できる情報源は得難い。

 その気になれば、遥や卑弥呼を頼れなくはないが、妙な方向に引き込まれそうで、距離を置いて付き合いたい人だ。

 距離を置いて付き合いたいと言えば、事故後海水浴場で専属医をしていて思ったのだが、海の家の近くに住む人達はえてして心音が弱い。

 聴診器をあてても、自分が難聴だからよく聞こえない。

 無責任だが、あの人達を診察する時は聴診器をあてにできないのだ。

 しかしながら困ったことに、彼等は診療所を嫌って俺の診察しかうけようとしない。

 出来れば誤診がないよう、他へ行ってもらいたい。

 かように、もっと距離を置いて付き合いたい人達が俺には多過ぎる。


「お告げー」

 以外、突然の登場は今までなかったパックが、ここ一週間ほどチカチカ頻繁で忙しない。

 人様が忙しそうに動き回ると、こちらまで落ち着かなくなるものだ。

 何か言いたい事があるならハッキリ言えばいいのに、肝心なところではモジモジ要を得ない。

 ほぼ幻覚であろうこいつの存在が、事故の後遺症だと思うと苛立ちが倍増する。

 パックが見えるのは後遺症の影響ではない、きっとイカレタ神様の悪戯だと思うよう心掛けている。


 鬱陶しいから消えてくれるよう御願いした。

 ほんの少しだけ大きな声で言っただけなのに、素直に聞き入れるあたり、俺が作り上げたの? 

 消えてくれても不安になる。

 困ったものだ。 

 パックが消えて久しぶり、ゆっくり寝られた休日の朝。

 いつものアニメを見ようとテレビのスイッチを入れると、画面が砂嵐になっている。

 深夜から総ての電気機器が、何らかの影響で調子悪いと、あおい君のボヤキが絶好調だ。

 まいったなーと思う間もなく、轟音が鳴り響いた。

 いつものジェット機音ではない。

 非常に近いか、もしくは巨大な何かだ。

 さもなくば、近くに飛行機が墜落する寸前のような音で、一瞬が途切れると同時に強い縦揺に襲われた。

 強い揺れから数秒後、電気機器が復旧した。


 テレビの画面は、どのチャンネルも臨時ニュースばかり。

 楽しみにしているアニメも中止になっている。

 実に味気ない。

 電気機器が不調のせいで、村の防災無線も使えない状態だ。

 磁気嵐の影響で、交通機関は麻痺状態。

 信号もいかれて、そこ等中が大渋滞になっている。

 今頃になって、村の非常放送が流されている。

 この地域は稀にしか車が走らない。

 たいした影響はないと思っていた。

 ところが、市街地から超ルーラル地域のこの辺りまで渋滞が伸びている。

 よくよく考えてみると、手信号で誘導する警官の絶対数が足りない。

 当然の事態だった。


 今後百年は観られない光景で、ハレー彗星より貴重な映像だ。

 ビデオに撮ってネットで流してみた。

 すると、災害の影響か、どこかで誰かが操っているのか、アクセス数が異常な伸びを示している。

 戸惑っていると、コメントが入ってきた。

 渋滞した車の背景に、飛んでいてはいけない物が写っているらしい。

 俺にはブリキのオモチャにしか見えないが、未確認飛行物体だ。

 そう簡単に宇宙船は撮影できない。

 やはり、さっきの轟音は航空機の墜落か、何機も続けて落ちたか? それにしてはニュースになっていない。

 報道も情報が交錯しているようで、同じ内容を繰り返し流すばかりだ。


 新しい情報が入ると、磁気嵐の原因は小隕石の衝突だと分かった。

 海に落ちたとしたら、津波も心配した方がいいか?

 二波三波を考えると、うかつに海岸には行けない。

 それよりも、砂防林の人達が心配だ。

 ほどなく、有朋が診療所にやって来た。

 道を隔てた御隣さんだから、お互い安否の確認をするのは当然だが、砂防林の人達も一緒だ。

 有朋が驚き隠せず言うには「地震があってさ、砂防林の人達がさ、いきなり床を破って現れたよ」

 集団の避難民の中に、卑弥呼までいる。


 彼等は俺の陣地からマンホールの蓋が出現した時、防災豪と卑弥呼の地下道を繋いでいた。

 津波が砂防林に到達した時点で、地下道に避難していた彼等が、出口を探して突っついた所が、有朋の事務所だった。 

 プレハブの床は壊しやすく、簡単に訪問出来た結果として、同一地点に同時存在するのが危険なほど不自然な皆さんがここに集結した。

砂防林が津波を受けたとなれば、海の家近在の人達も同様に被害を受けている。

 上手く避難出来たか気になる。

 救急車が頻繁にサイレンを鳴らして走り過ぎて行く。


 被害が深刻であろう海岸近くの集落に、自家用救急車を設置して、臨時救護施設にした。

 早速、近所の老人会集会場となった。

 この人達にかかると、ロクちゃんは公民館扱いだ。

 砂防林の津波は小さく、ブルーシートが流される程度で済んでいた。

 緊急を要する患者には応急処置をして、救急車で近くの病院まで搬送してもらう。

 他に何人かショックで気絶したが、気付薬で回復した。

 数年前の地震がトラウマになっている。

 揺れに過敏なのは仕方ない。


 そろそろ撤収しようかという頃、海の家診療所の常連さんがコソッと入って来た。

 俺は車の帰り支度をしていたので、嫌がる患者を制してあおい君が診た。

「先生、心肺停止です」

「どの患者が心肺停止なのかな」

 付き添いと患者の二人しかいない。

 患者は苦しそうだが、話しをしている。

 ここまで徒歩で来ているのだ、心肺停止はありえない。

 元々心音の弱い人達だ。

 心配するほどでもないが、あおい君が蒼くなっている。

 診療所でCTとMRI撮影をするよう手配した。

 芙欄が持ち込んだ有朋経由の危ないドル紙幣のおかげで、診療所にも中古のCTとMRIを入れられた。

 松林の住人の中に放射線技師がいたので、時々撮影を御願いしている。


 撮影には診療所の全員が立ち会う。

 最近入った機器で、物珍しさからの野次馬だ。

 撮影技術を習得しようなどという気はまったくない。

 中古とは言え高価な買い物だ。

「不良品でじゃないろうなー」

 幾度となく撮影試験をしたのに。

 買ってから半年もしないで、CT・MRI共にアーチフェクト以上の怪奇画像を吐き出してくれた。

 心臓と肺が映らない。

 同じ業者から買うんじゃなかった。

 芙欄の紹介だった。


 付き添いが俺を手招きしている。

「私達、心臓とか肺とかってないですから。写りませんよ」

「んな馬鹿な。植物じゃないんだから、動物なんだから、正面からも横からも斜めからだって。動物界・真性後世動物亜界・左右相称動物・新口動物上門・脊索動物門・脊椎動物亜門・四肢動物上網・哺乳類・真獣下網・真主齧上目・真主獣大目・霊長目・直鼻猿亜目・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト亜科・ヒト属・ヒト亜属・ヒトだよ。大雑把に言えば人間に見えるよ」


 内緒話なのに、同席していた卑弥呼が説明してくれた。

「現在、私が教祖の教団信者は、殆どがこの集落の人達でー、遭難した時に、私の祖先から一方ならぬ恩を受けたのが、彼等の御先祖様なのよ。

 恩返しと言って、この村に住みついてね、当時としては、んー、今でもだけどー、進み過ぎていた彼等の科学力で、地域のライフライン整備をやったの。

 本当はこれが、今も残っているトンネル網の始まり。

 私のの実家や神社の真下に埋まった宇宙船を中心に広がっているのよ」

 事情を知らない一般の地域住民から、卑弥呼の祖先は神様と崇められるようになり支配地域を拡大していた。

 その後、幕府から進んだ科学技術を提供するよう要請があり、未来科学研究所の前身である神明塾が造られた。

 やがて神明塾は宗教色の強い卑弥呼の一団から分裂。

 独自の研究機関として政府に協力し、技術開発が進められてきた。

 神明神社が(正式には真迷神社らしい)いつしか卑弥呼率いる教団と、遥の率いるずんだもちに分裂していた。

 両者関には、先祖代々確執の歴史があったようだ。

「遭難者の子孫は、私の教団【真迷神社】に残ったの。キリシタンは、画期的な技術力を持った彼等の隠れ蓑だったって事。信仰なんかなかったから、簡単に神道との融合もできたし、後々秘密結社化したって訳よ」

 遭難したって、科学力で何とかできなかったのかよ。

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